第3話 外れスキルの使い道
『
俺とジンの二人はブロードの街から、『
ピュリフの街には世界中で十数個しか発見されていないダンジョンのうちの一つが存在する。
名前は『ピュリフのダンジョン』。この王国、唯一のダンジョンだ。
王国の領地の南西に位置するピュリフの街は、街というより都市と表現した方が正しいくらいの栄え具合であるらしい。
ダンジョンに挑戦する冒険者、ダンジョンから発掘される宝のおかげで潤っているとの ことだ。
実は、ピュリフの街ほど栄えた場所に行くのは初めてだったりする。
そのせいか、少しばかり緊張していた。なんか、落ち着かない。
俺とミーヤはチャングズという小さな、本当に小さな村に生まれた。
そして、15歳になるまでその村で過ごした。
もちろんチャングズは栄えていない村だったので神の石盤も置いていなかった。
贈与の儀を受けるには他の街に出るしかなかったのだ。
ミーヤとは同い年だが、彼女の方が誕生日は早かったので、俺が15歳になった月に、二人合わせて近くのブロードという街へ向かったのであった。
そして、俺達は街でスキルを得て、そのまま冒険者となった。
「ピュリフの街ってどんな感じなんですか?」
街に到着するには、まだまだ山ほど時間がある。
ブロードからピュリフはさほど距離があるわけじゃないが、それでも旅路は長い。
ずっと黙って馬車に揺られているのもなんなので質問をしてみた。
「にぎやかな街だよ。ピュリフに住んで数年しか経ってないけど、ボクは結構気にいっているかな」
にぎやかな街か……。
今まで行ったことのある街が少なすぎて、あまり具体的に想像できない。
ていうか、ジンがピュリフに住んでいるってことは、わざわざ俺を探しにブロードまで 来たってことだ。
どうしてだろうか……。
俺が頭に浮かんだ疑問を口に出して質問すると、ジンは丁寧に答えてくれた。
「そのくらい【
誰だろう、その冒険者って……。
色んな人に自虐話をしまくっていたせいで、心当たりが多すぎる。
「でも、平気なんですか? ジンさんがこの街まで来たら、その間『
「それは大丈夫だよ。今、ボク達のパーティーはモンスターの注意を引き付けるタンク系の
それって、全然大丈夫ではないのでは……?
メンバー欠けちゃったのかよ……。
「でも、どうして【地 マツピング 図化】持ちが必要なんですか?」
ずっと気になっていた疑問を投げかけた。
本当は昨日から疑問に思っていたのだが、聞くタイミングを逃して先延ばしになってい たのだ。
「ダンジョンは冒険者殺しと言われるほど手強いモンスターが出てくるけど、ボク達みたいなダンジョン攻略専門のパーティーがぶつかる壁はそこだけじゃない――」
そう言って、ジンは説明を始めた。
彼曰く、ダンジョン内は俺が想像しているより、数倍も広く、複雑に入り組んでいるらしい。
先人達が地図に書き起こしている浅層ならまだしも、地図のない中層からは、今いる場所を把握するのも、来た道を戻るのも難しいらしい。
そのような場所で、現在地を一々確認しながら進んでいくのは骨が折れ、効率も悪い。
戦闘には自信がある『
だから、【
ジンの説明は理解できたが、同時に新しい疑問も生じた。
「それなら、【
当然の疑問だった。
URというレア度のせいで所有者は少ないが【
このような考えが世間の総意であり、俺自身もその評価は間違ってないと思う。
しかし、ジンはその問いかけに対して、待っていたとばかりに笑みを浮かべた。
「ノート君は【
もちろん知らない。
神の石盤のある部屋は通常一人で入るものであり、他人が覗けないようになっている。
ミーヤは例外的に石盤に映る文字を見せてくれたが、普通は自分のもの以外目にすることはないだろう。
俺は首を横に振った。
「これが【
そう言って、ジンは二枚の紙を俺の前へ出してきた。
――【
レア度:
消費スロット:3
効果:この世界、全ての地点の地図を知識として記憶する能力
――【
レア度:
消費スロット:2
効果:この世界における、自身の半径1kmの範囲の地図を知識として理解する能力
なるほど。こんな文面なのか。
想像通りっていうか、どう見ても【
「それじゃあ、次にノート君。キミは【
覚えていない……。
自分の手に入れたスキルにショックを受けていたせいで、書き写すっていう考えも起きなかった。
神の石盤の前で祈れば、何度でも自分の得たスキルの詳細は確認できるので、わざわざそんなことする人なんていないと思うけど……。
俺はまたしても首を横に振った。
すると、ジンはもう一枚、紙を見せてくれた。
「これが【地図化】の文面の復元だよ」
書いてあった内容に目を通す。
――【
レア度:
消費スロット:3
効果:自身の通過した場所の半径1kmの範囲を自動的にマッピングし、知識として記憶する能力
確かにこんな感じだった気がする。
ほんの少しだけ文面が違うように思えるのはおそらくこれが復元だからであろう。
「この三つの復元を見て、なにか気づいたことはないかい?」
「えっと……すみません。全然わからないです」
「まあそうだよね。自分で言っといてなんだけど、普通は気がつかないと思うよ」
「それでどこに注目すればいいんです?」
「注目すべき点は【
渡された三つの紙の文面を見比べてみる。
「確かに【
「ダンジョンはこの世の理の外側にあるものだっていうのは知っているかい?」
「まあ、はい……」
「つまりね、ダンジョンは『この世界』の範囲外なんだ。だから【
ここまでの誘導で、ジンが何を伝えようとしているのかはっきりわかってきた。
それと同時に、外れスキルとして扱われていた【
「ダンジョン内でも使えるってことですか?」
俺の問いかけにジンは頷いた。
彼の頷きを見て、全身を寒気が襲った。
鳥肌が広がっていく。脳の血管が開ききったような高揚感。
――外れスキルとされている【
このスキルは下位互換のスキルなんかじゃなくて、差別化の図られた有用スキルだった。
その事実を知り、頭を殴られたみたいな衝撃を味わっていた。
「初めて知りました……。でも、【
「世間ではまだ知られていないからだね。ボク達がこの事実にたどり着けたのも偶然だった」
「偶然?」
「そうだ。ダンジョン攻略の最中、たまたま冒険者達の死体を発見したんだ。死体は白骨化していたから、結構昔に活躍していたパーティーだったのかもしれないね。供養でもしようと、身元がわかる所持品を探していたら数枚の地図が見つかった」
そのうちの一枚と思われる地図を見せてくれた。
「それは市場に出回っている浅層の地図とは違う。市場で出回っていない中層の地図だ。ちなみにこれが市場に出回っている、スキルを使わないで描かれた浅層の地図だね」
ジンはもう一枚地図を渡してきた。
両者の出来の差は一目瞭然だった。
白骨死体が持っていた地図は圧倒的な描き込み量とともに、きれいに描き込まれていた。
まるで、俺の脳内に浮かぶ地図のようだ。
「そこでボク達は一つの仮説を立てた。この地図はなんらかのスキルを使って描かれたのではないかってね。【
ジンの言いたいことはわかる。【
【
ましてや、一流冒険者でも命を落とす可能性の高いダンジョンに潜ろうとするはずがない。
それに、【
「死体で見つかった冒険者達のように、知っていても利益を独占するために隠していたって場合もあるだろうけど……」
ジンが一応、補足を加えた。
「でも、話を聞いている限り、もしかしたら【
つい不安になって、思ったことを質問してしまった。
すると、ジンは気まずそうに頰を搔きながら。
「それは否定できないんだけどね。【
いや、そこは断言してほしかった……。
***
長い道の旅を終え、俺達はピュリフの街へ到着した。
ジンとは道中、どうして『
『
彼は決して笑わず、真剣な面持ちで耳を傾けてくれた。
街へ入る門を潜ると、まずピュリフの街の賑わいに圧倒された。
見たこともないものがいっぱいで、目に映る全てが新鮮に感じられる。
立ち並ぶ露店とか、道が広いのとか、通行人や馬車の数とか。
そんなものに目を奪われながらジンについて歩いていると、いつの間にか一軒の大きな建物の前に来ていた。
建物の立て札には、堂々とカラフルな文字で『
随分と自己主張が激しい文字だ。
ジンは立ち止まって、俺の方へ向いた。
「ようこそ、ボク達の本拠地。『
ジンの自身のパーティーを誇るような表情を前に、俺もついにここまで来てしまったのだと理解した。
もう後戻りはできない。
いや、元から後戻りする気などない。
後戻りしても、待っているのはこれまでの半年間のような悲惨で苦痛に満ちた毎日だけだ。
あんな日常はもうごめんだ。
次こそは。次こそは絶対に失敗しない。
ミーヤとの冒険者生活での失敗。心が折れて、彼女についていくことができなかった。
あんなにどうしようもなく、情けない過去をもう二度と繰り返したくはない。
たとえ、『
絶対についていってやる。しがみついてやる。
それがどんなに修羅の道であっても、だ。
自分を必要としてくれた人達に。
『
期待に応えられるように。
今度こそは、努力することを諦めない。足搔き切ってみせる。
――そう、心に誓おうじゃないか。