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第23話 ハプニングは突然に

 風呂に入ることが好きだ。

 そういう人間はおそらく多数派なのだろう。

 大勢の人がそのような考えを持っていて、中には「入浴という行為は人間の本能に刻まれたものであり、嫌う人間などいるはずがない」とまで熱く語る風呂好き過激派までいるものだ。


 だけど、それに俺は異を唱えたい。

 そんなにか? と。


 いや、別に俺は風呂に入りたくないとかいう不潔な人間ではない。

 毎日、ちゃんと風呂には入る。

 だけど、風呂に入るのが楽しいか?

 むしろ、疲れないか?

 と言っているのだ。


 熱々の湯船に浸かるだけで体力がごっそり持っていかれるし、お風呂後ののぼせた感じも嫌いだ。

 だから俺は、入浴は身体を清潔にするためだけの行為と認識しており、入浴が身体を休めるという理論には反対だった。


 このような信条を持つ俺だが、その日は気が変わっていた。

 連日のダンジョン探索とその後に続く修業で疲れていたのだろう。

 たまにはいいんじゃないのかと、浴槽でくつろぐことにしたのだ。


 しかし、それが間違いだった。

 多分、これは風呂好き過激派による風呂アンチへの弾圧か何かなのだ。

 なんてことを、すぐ目の前で鼻歌混じりに身体を洗っているネメを観察しながら考えて いた。


 もちろんここは風呂場なので、彼女は完全な裸体であった。

 タオルなどで局所を隠しているわけでもない。

 いわば、生まれたままの状態だ。


 しかも、ネメは俺の存在に気づいていないようだ。

 浴槽に目も向けず、シャワーを流し ている。


 そう、俺は人生最大の窮地に陥っているのだ。それも現在進行形で。

 まず、最初に弁解させて欲しい。

 これはなんら変態行為などではなく、俺の意図した状況ではないと。


 こうなった原因は理解しているつもりだ。

 誰も悪くない。不幸な偶然の重なり合いから起こってしまった悲劇なんだ――。


 こうなった、まず一つ目の原因。

 それは俺が疲れていたことだ。

 今日はとても疲れていた。

 だから、珍しく風呂で羽を伸ばすことにしたのだが、その疲れた状態で、浴槽で休んでいたらどうなるか。


 答えは簡単だ。寝る。寝てしまう。

 湯船に浸かりながら俺は寝てしまったのだ。


 不幸中の幸いとしては、俺が寝ている間に体勢を崩して溺れなかったことだろう。

 風呂場で寝ると死ぬこともあるっていうし、仮にも一流冒険者のパーティーであるメンバーが入浴中に死んだとあらば、なんとも情けないエピソードとして語り継がれてしまいそうだ。


 二つ目の原因は、俺が入浴中に《隠密》を使っていたことだ。

 最近の俺は、アーツ上達のため、暇さえ見つければすぐ《隠密》の練習をすることにしている。

 今日も例に漏れず、《隠密》の練習をしていたところだった。


 そして、三つ目の原因は俺の《隠密》が想像以上に上達してしまったことだ。

 暇さえ見つければ《隠密》の練習をしているのだから、《隠密》の精度も上がってくる。

 ここ最近でいえば、俺の気配はネメやエリンからでは捉えられないようになっていた。


 そして、隙あらば《隠密》を発動するようにしていたせいか、寝ている最中も《隠密》が解けないようになっていた。

 ということを、今日、この瞬間発見した。


 こんなに嬉しく感じられない成長初めてだ。

 急な成長とか要らないから、俺をここから出して……。


 しかし、幸いなことに現在俺が浴槽にいることは《隠密》により、ネメにはばれていないようだ。

 彼女は浴槽に目もくれず、「ふんふん〜ふ〜ん〜♪」とご機嫌そうに足の指を念入りに洗っている。


 だが、今ばれていないからと言って悠長に構えている暇はない。

 もう一度言おう。ネメは足の指を洗っているのだ。

 身体の大部分を洗い終え、最後に身 体の隅を洗う段階まできてしまったのだ。

 実のところ、俺はネメが髪を洗い出した時から起きていた。


 最初、目が覚めた時点では夢かと思った。

 なんて夢を見てしまったんだろう。ネメに申し訳ない。

 とか、俺って実はロリコンだったのか? などあれこれ考えてしまった。


 でも、次第にこれ夢じゃないぞと気づき、事態の深刻さを感じ始めて思考が固まっていたら、いつの間にかネメが身体を洗い終えるタイムリミットが来てしまった。


 身体を洗い終えた後の人がすることといえば、湯船に入ることだろう。

 その時が来れば俺のパーティー生活は終わってしまう。

 流石の《隠密》状態でも、ネメが浴槽に注意を向けたら俺の存在がばれてしまうことは確実だった。


 もうこうなったら、ネメが湯船に入らず、シャワーを浴びただけで風呂を済ますことを期待するしかない。


「ゆ、ゆ、湯船です〜♪」



 無理だ……。なんか湯船に入るぞオーラ出してる……。

 鼻歌まで歌ってるし……。


 俺の『到達する者(アライバーズ)』生活はここで終わるんだ。

 変態の烙印を押され、パーティーでの居場所を失い、路頭に迷う。

 一直線の『到達する者(アライバーズ)』放逐ルートが俺には見えていた。


 だが、一つだけ弁明しておきたい。

 俺はネメを性的な目で見ていない。それだけは確かだ。

 目が覚めてからずっと黙って浴槽に隠れ潜んでいた俺だけども、それはやましい気持ちがあってのものではない。


 自分の保身だけを考えたゆえの潜伏であり、断じて覗き目的ではなかった。

 ネメのロリボディーはいくら女性経験が少ない俺といっても射程圏外だったし、興奮など微塵もしていない。

 身体のとある一部が反応していないのがその証拠だった。

 まあ、そんな弁明意味ないんだろうけどな……。


 シャワーからお湯が流れる音が聞こえる。

 ネメはもう身体についている泡を洗い流している状態だった。

 終わりの時はもう近い。あと一分もないだろう。


 俺はというと既に諦めの境地に至っていた。

 ここまで来たらもう、どう挽回することもできないだろう。

 後は死の瞬間を穏やかに受け入れるくらいしかできることがなかった。


 シャワーを止める音が聞こえた。

 ガコンッ、っとシャワーが壁にかけられる。

 遂に終末の時が来た。


「湯船♪ 湯船♪ 湯船に入りますです〜♪」


 浴槽に入ろうと片足を上げているネメと目が合った。


「……」


 ネメの瞳が徐々に見開かれていった。完全に焦点が俺へと定まる。

 彼女が口を開こうとしている。このままではまずい。


 その瞬間、俺の脳はフル回転していた。

 神経の伝達速度が限界を超え、状況の打開に向ける一手を無意識に選び取った。


「えっ……ネメ姉さん……どうしてここに……? もしかして、変態……?」


「ま、待ってくださいです! どうしてそうなるですか⁉ えっ、えっ⁉ 状況が全く理解できないです⁉」


「そ、そんな大きな声出したら誰かに気づかれますよ! 静かにしてください! じゃないとネメ姉さんが変態だってばれますよ!」


「ネメは変態じゃ――」


「とりあえず黙ってください」


 浴槽の縁にまたがっていたネメの身体を引き寄せ、手で無理やり口を塞いだ。

 光景だけ見れば、完全に犯罪者のそれである。


「んーっん! んーんん! くっ、苦しっ! は、放しっ――」


「あっ、すみません」


 呼吸が苦しそうだったので、口から手を放す。

 ぜえはぁ言いながら、ネメは息を調えていた。


「ちょ、ちょっと待ってくださいです! どうしてネメが変態になるです? 変態はノートの方じゃ――」


「いやいや待ってくださいよ。変態はネメ姉さんですよ。だって、後から風呂場に入ってきたでしょ? 俺が浴槽で寝ていたのに。俺が寝ている隙に風呂場に入って裸を見てくるって完全に変態じゃないですか」


 そう、俺が選び取った手段とは、変態の汚名をネメに擦り付けようというものだった。

 あまりに稚拙で行き当たりばったりな作戦。

 そんなもの成功するはずないように思えたが――。


「た、確かにそう言われればです。あ、あれ? も、もしかして、変態はネメの方……?」


 ちょろかった。ネメ姉さん、ちょろすぎる。


「ち、違うです! ね、ネメは、わ、わざとじゃなく――」


 しかも、滅茶苦茶テンパっていた。

 顔を真っ赤にして手を振っている。


「い、いやらしい気持ちとか、の、ノートの裸を見ようとか思ってなくて――」


「わかってますよ。ネメ姉さんがそういうことをする人間じゃないって。わざとじゃないんですよね」


「ノート……信じてくれてありがとうです……」


 目を輝かして俺の手を握ってくるネメ。

 彼女の中では、自分が変態行為をしてしまって、俺がそれを許したという構図が出来上がってしまったようだ。

 いくらなんでもちょろすぎないか?

 まあ、俺の思惑通りに事が進んだから満足なんだけど。


 これが入ってきたのがエリンとかだったら、完全に終わっていた。

 このとんでも理論じゃ、エリンは騙されないだろう。

 ちなみにロズリアが入ってきた場合は、別の意味で終わっていたと思う。

 俺の貞操的な意味で。


「っていうか近すぎないです……?」


 茹蛸みたいに顔を真っ赤にしたままのネメが言う。


「近すぎるって?」


「か、身体の距離です!」


 言われて気がついた。

 大声を出すネメの口を塞ぐため、無我夢中になっていたせいでネメの身体を抱いているような状況になっていた。

 明らかにこれはアウトだろう。裸同士で密着しているわけだし。


 ネメの身体を放すと、彼女は浴槽の隅へと移動していった。

 隅といっても、この浴槽は小さいので俺の足へ乗っかっている感じになる。

 ネメの柔らかいお尻の感触が俺の脛へ覆い被さっていた。


「あのー、ネメ姉さん……」


「は、はい! なんですか⁉」


 ネメはビクッと身体を上げた。


「さっきからちらちらと見ないでください」


「み、見てないです!」


「だから大声」


 慌てて口を押さえる素振り見せる。

 顔は先程よりも赤く、もはや茹蛸を茹でる炎のようだった。


「大声注意してくださいよ。この状態が他のメンバーにばれたらまずいですし」


「ノートが変なこと言うからです!」


 って言われてもな……。

 絶対、ちらちら見てきたと思うんだよな……。

 どことは言わないけれど……。


 徐々に下がっていくネメの虹彩を睨んでいると、ふと顔を上げたネメと目が合った。


「だ、だから違うです!」


「もういいですよ……」


 俺も散々ネメの裸を見てしまったわけだし、見られたところでとりわけ騒ぐつもりもない。

 多分、ネメもいやらしい気持ちとかなく、知的好奇心的な何かなんだろう。

 ロズリアがパーティーに加入した日のやりとりで、ネメに男性経験がないのはわかって いることだし。


「そ、それより!」


 今度は露骨に目を逸らしてネメは話し始めた。


「ノートはネメが風呂に入ってきたのをいつから気づいていたんです?」


「髪を洗ってた時くらいですね」


「それって結構前のことじゃないですか! もっと早く言ってくださいです!」


「あの時は自分もテンパってて、どうしていいかわからなかったんですよ」


 そう言って、俺が風呂に入った状況やネメが俺に気づかなかった理由等を詳しく説明した。

 一通り聞き終えると、ネメは口を開いた。


「それって、ネメだけじゃなくノートにも非がある気がするです……」


「まあ、俺も悪かったとは思いますけど……」


 いや、俺が90%くらい悪いと思います。完全な不注意でした。


「で、そろそろ出ていってくださいよ。風呂場から」


 俺の足にまたがっているネメに切り出す。

 対して彼女は目を丸くして、俺の言葉の意味がわからないといった様子だった。


「どうしてネメが出なくちゃいけないんです? 先に出るのはノートの方じゃ……? ネメはまだ湯船に全然浸かってないです!」


「よく考えてみてください。ネメ姉さんが入った後の風呂場から俺が出てきたらみんな不審に思うでしょ! だから、ネメ姉さんが出ていってください!」


「でも、そうしたらネメはもうお風呂に入れないです! 風呂場から出て、もう一度お風呂に入り直す方が変だと思うです!」


「じゃあ、もう一度お風呂入るの我慢してくださいよ」


「駄目です! お風呂のことに関しては譲れないです!」


 なるほど……こんな近くに風呂好き過激派がいたとは……。


「じゃあ、どうすればいいんですか? ネメ姉さんがお風呂出るまで、俺も出るの待てってことですか?」


「そういうことです!」


「それのぼせそうなんですけどね……」


 どのくらい風呂に入ってるんだよ、俺?

 かれこれ一時間以上は入っていると思う。


「そこはネメの回復スペルに任せるです!」


 意気揚々と拳を振り上げるネメ。

 というか、ネメはいいのかよ。俺と一緒に風呂に入ってる状況で。


 まあ、ネメが問題ないならいいけど。俺もここから叩き出されたら困るし……。


「じゃあ、しばらく一緒に入りますか」


 こうして二人の奇妙な入浴タイムは続いたのであった。






 ***






 こうした災難もあったが、『到達する者(アライバーズ)』のダンジョン探索自体はなんの滞りもなく順調に進んでいた。

 流石、ダンジョン探索で名をはせている一流パーティーなだけある。


 フォースやジンはモンスターとの接近戦で負ける気配すらしないし、一人でボスモンスターと渡り合うことすらできる。

 エリンのスペルはモンスターの軍勢を焼き払うし、ネメの回復や支援スペルも負けていない。

 新メンバーであるロズリアも、このパーティーに相応しい働きをしていた。

 ということは、六人の中で何も活躍していないのは俺だけということになり、そんな自分は今日も修業を行っていた。


 ジンとの手合わせによる回避アーツの習得。

 それが今の俺の一番の課題だった。

 だが、この俺も全く成長していないわけじゃない。


「かかってきてください」


 それは表面上では普段通りの誘い文句だが、今日は意味合いが異なっていた。


 ――絶対に《離脱(ウィズドロー)》を成功させて、ジンの攻撃を避けてやる。


 今日の俺には《離脱(ウィズドロー)》を成功させる算段があった。

 今までずっと一人、空き地に残って《離脱(ウィズドロー)》を練習していた。

 その成果がやっと実になったのだ。


 どうせできるようになったんだったら、その力でジンをあっと言わせてみたい。

 予想外の《離脱(ウィズドロー)》で驚かせて、最強の暗殺者相手に一矢報いたかった。


 気を引き締め、右手でダガーナイフを構える。

 俺にとっての臨戦態勢だ。

 ジンの初動を決して見逃さないように目を見開く。


 しかし、彼の挙動だけに集中するわけにはいかない。

 普段より僅かだけだが、右足に重心を落とす。

 ジンに思惑がばれないよう、なるべくいつも通りに。

 けれど、《離脱(ウィズドロー)》が発動できるくらいの。

 コップの縁ギリギリに水を注ぐような、絶妙な加減の調節をしていた。


 目の前の男は俺が《離脱(ウィズドロー)》を使えるとわかれば、それに対応してくる。

 そう確信していた。そのくらい彼の実力は信頼できる。


 だから、《離脱(ウィズドロー)》を使えることを隠す必要があった。

 最初の一回にしか選べない奇襲的戦法だ。

 そうまでして、俺はジンに一矢報いたかった。


 静かに。だけど、もったいぶらず。

 右足のふくらはぎに力を溜めていく。

 徐々に。焦っちゃだめだ。ゆっくりと最大限引き絞るんだ。


 俺の準備がちょうど終わった次の瞬間。

 ジンの口が開いた。


「――《絶影》」


 音が鼓膜を震わせる前に、俺は動き出した。


 ――《離脱(ウィズドロー)》。


 攻撃の合図を耳にしてからじゃ遅すぎる。

 彼の動きを目で追ってからじゃ間に合わない。

 何度も手合わせをして、身体に刻み込まれたジンの攻撃速度。

 その経験則だけを頼りに、後方へと跳んだ。


 視界が遠のき、空気の壁が背中を圧す。《離脱(ウィズドロー)》の感覚だ。

 一瞬だけだが、自分の成功を確信してしまった。


 しかし、それは間違いだった。

 ぐっ。いつの間にか、ジンが目の前にいた。


 なんで。どうして。

 ジンがそこにいるんだ。おかしいだろ。

 確かに《離脱(ウィズドロー)》は成功したはずだ。

 だったら。なんで?


 その答えは単純だった。単純だからゆえの敵わなさ。

 俺の《離 ウイズドロー 脱》よりジンの方が速い。

 それだけのことだった。


《絶影》と《縮地》の同時発動――。


 影の速さは俺の認識速度を超えていた。

 瞬きをする暇もなく、ジンが視界から外れる。


 直後、感じ取ったのは襟の後ろを摑まれた感覚。

 全力で後方へ離脱する俺の背後を取ってきたのだ。

 俺の《離脱(ウィズドロー)》が完全敗北した瞬間だった。


 ジンはそのまま《流線回避(ストリーム)》により、俺の《(ウィズドロー)脱》のエネルギーを下へと受け流す。

 俺はたちまち地面へ転がるはめとなった。


「降参です」


 もうここまで来たら素直に負けを認めるしかない。

 大の字になって両手を上げる。

 ここまで鮮やかに負けると、逆に気分がすっきりしてくるのが不思議なもんだ。


「やるじゃないか、ノート君。既に回避アーツを身につけているなんて」


 ジンからのお褒めの言葉も、ここまで実力差を見せつけられたら心に響かない。

 精一杯頑張って練習したつもりなのに、こうもあっさり破られるとは。

 少しばかりは予想していたのだが、実際にそうなってみるとショックが大きかった。


 人間、あまりに衝撃を受けると笑ってしまうらしい。

 なんか気がついたら口元がほころんでいた。


「ありがとうございます。まあ、ジンさんの攻撃は全く避けられなかったですけどね」


「ボクも少し本気を出しちゃったからね」


 恥ずかしそうに振り上げた右手で頭を搔くジン。

『少し』という表現から、彼の本気がこんなものではないことが窺えた。


 手加減したジンの攻撃を避けたいのではない。彼の全力を打ち破りたい。

 実はそんな分不相応な野望を俺は胸に秘めていた。

 なんの戦闘スキルも持っていない。才能があるわけでもない。

 だけど、こんな俺でも『到達する者(アライバーズ)』の一員なのだ。


 ジンと肩を並べて戦いたいと願って当然だ。

 たとえそれが決して叶わない望みだとしても。


 だから、ジンとの実力差が未だかけ離れている現状が、俺の心に重くのしかかる。

 こんなんじゃ全然駄目だ。


 練習が足りない。努力も足りない。

離脱(ウィズドロー)》の速さが足りない。

 精度だって足りない。

 この完成度じゃ簡単に避けられてしま う。


 それに《離脱(ウィズドロー)》だけじゃ駄目だ。

 ジンの攻撃を躱せない。早く次のアーツも身につけなければ。


 俺の修業は少しだけ進歩したにもかかわらず、見えてきた課題は増えていく一方だった。


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