ビスコの最後
2023年10月10日、後半を改稿追記しました。
ドオオンと音を立て二体の人形は倒れた。
ボジャックは感心した。
「すごい威力だ」
マークレイは言った。
「はあ、はあ、かつてとりついた悪魔からもらい倒して開眼した技だからな」
ボジャックは言った。
「そうだったんだ」
ジョルジョはうろたえた。
「あ、ああ」
ベルス達は言った。
「他の兵達は片付いた」
「はっ!」
とマークレイは我に返った。
お、俺は、そうだ俺は数分前に両親を亡くした。
強いショックが激流の様に襲い掛かってた。
切り裂かれるほどの辛さ。
激しい悲しみで打ちひしがれ絶望した。
何せ親がいる、から会ってその数分後死去だ。
悲しみもあったがそれ以上の憎しみもあった。
そりゃあって当然だろう、普通の人間なら。
さっき俺はおかしくなりそうだった。
最初は悲しみで自己を喪失した。
その次に両親が殺された現実がじわりとかつ一気に押し寄せた。
しかも殺したのは命令を受けているだけの手下だ。
俺は危うく狂ってここにいるサブラアイム軍を全て殺そうとした。
いやそれだけじゃない。
サブラアイムを全滅させるまで収まらなかったろう。
それこそ八つ裂きに。
いや国中のサブラアイム兵を八つ裂きにするまで収まらなかったろう。
それにさっき両親に会った時俺の心の悪意が話しかけてきた。
「クラビの事そんなに好きじゃないなら親を取れよ」
それに俺は揺れた。
また「悪の心」と戦ったからファントムゼロを習得出来たんだ。
俺にささやき誘惑した悪魔の力を受け入れ克服したから技を習得出来たんだ。
だから否定できない。
本当に心が動きかけた。
でもクラビは諦めずビスコを説得しようとした。
そして皆も同意した。
俺が昔の俺だったら怒りで完全に制御の効かない復讐鬼になっていただろう。
なりかけていた。
でも、今は違う。
皆のおかげでこれほどの状況でも何とか自分を抑える事が出来たんだ。
それは一つの成長だ。
皆のおかげだが。
一方、ジョルジョは歯ぎしりした。
「ビスコ、貴様……貴様はたとえ生き延びてもどこへ行っても追手が付け狙い飯を食う事も寝る事も出来なくなるぞ、覚悟しろ」
ところが二体の人形がまた起き上がった。
「くそまだ!」
ビスコは前面に立った。
「俺がやる」
クラビは恐る恐る聞いた。
「どうする気だ」
ビスコは何かを覚悟した表情で声を絞り出した。
しかしある種の筋の通った強さも感じられた。
拳を握った。
「俺はジョルジョが言った通り裏切ったから許されない、かといって自殺も出来ない。だが体の魔炎流を全て放出する事は出来る」
またクラビは恐る恐る言った。
「そうするとどうなるんだ?」
ビスコは辛そうだが決意を秘め言った。
「たぶん力を失い一生寝たきりだ」
「よせっ!」
しかし体中に力を溜め光りだしたビスコは二体の人形に向け突進した。
ビスコは全てを受け止めた。
恐れと悲しみもあるがそれ以上に皆を騙した罪を償う為。
自分の弱さが引き起こしたという思い。
普通の人生も捨てる覚悟。
その間ジョルジョは転移魔法で逃げた。
「うおおお!」
ビスコは人形に突撃し光と共に大爆発を起こした。
そして爆風がやみ皆が何とか駆け寄ると人形は消えビスコが横たわっていた。
「ビスコ!」
生気がない半分死体の様な姿と表情で絞り出した。
「俺はエネルギーの九九パーセントを放出した。もう指一本も動かせない。でもお前たちを騙した報いさ仕方ない」
「いやアンドレイが悪いんだ」
「いや、俺の心の弱さだったんだ。結局俺はアンドレイを恐れていた。そのおかげで皆を傷つけ関係をおかしくしせっかく生まれた信頼を壊した。でももう動けない俺はアンドレイは利用価値はない。もう多分追っ手が来る事もないだろう。ここは俺の墓場でいいさ」
その時ジェイニーがまたおぶった。
「また、私が連れて行くわ」
「……お前、やっぱりいいやつだな」
ビスコは声を絞り出した。
「ボジャック、マークレイ、すまなかった」
「いいよ」
二人は答えた。
結局ビスコは病院に収容された。
クラビ達は警護したが追手は来なかった。
ビスコ編は今回で終了です。
挿話は後少し投稿します。