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クラビの説得 信頼の心

 クラビは指示した。

「ジェイニーとボジャックは人形二体と戦ってくれ!」


 ボジャック達は感じた。

 あいつ、俺達がビスコに騙されたことを気にして……


 そして続けてクラビはこう言った。

「俺は、ビスコを説得する!」

「……!」


 どよめきが起きた。

 ビスコはたじろいだ。

 無論、皆も。


 あまりにもクラビの言い方に迷いがなかった。

「俺を説得する?」


 しかしクラビは気にせず黙ってビスコと対峙した。

 そしてボジャックとジェイニー、ゾゾが二体と戦っている間、ミッシェルとベルスが駆けつけた。

「兵達は俺達に任せろ」


 二人は十人の兵を相手にする事にした。

 その間ボジャックは技を人形に放った。

「地剣爆斬!」


 しかし泥人形には全く通じない。

 ゾゾは普通に切りかかった。

「こいつら滅茶苦茶動き速いですよ! 本当にあの幹部達が生き返ったみたいだ」 


 ジョルジョは言った。

「みたいだ、ではない。本当に全く同じ力を持っているのだ。しかもその泥の体はあらゆる攻撃を防ぐ。ある意味本物より手強いだろう」


 一方クラビは武器を持たずビスコと対峙した。

 武器を持たず停戦態勢の意を表していた。

 

 そしてなるべく攻撃的でなく聞いた。

「君は本当に裏切った、いや騙してたのか」


「そうだ」

 ビスコは悪びれなかった。


 そして続けた。

「お前が仮病の俺を背負った時からさ。強いかどうかは別にして本当に聞きしに勝るお人よしの馬鹿だって思ったよ。聞けば自分をいじめた貴族を助けたそうじゃないか。お前は騙しやすかった。そしてアンドレイ様は騙しやすい人間が徹底して搾取される世界をお望みなのさ」


 クラビは柔和な顔で言った。

「そんな話、信じてないよ」


「何?」

 ビスコはさすがにクラビの態度に心がぐらついた。


 クラビは一ミリの疑念も顔に見せなかった。

「最初から全部嘘だったなんて事は」

 

 ビスコは呆れながら気持ちがぐらつき表情から自信が減った。

「まだそんな事言ってるのか? 俺の使命はお前らを騙して信頼をなくし内部から瓦解させる事だったんだよ」


 しかしクラビは全く疑いの目を向けなかった。

「もしそうだとしてもアンドレイに脅されてたんだろ」

「俺はそんな事で屈しない」


 クラビは態度を一ミリも変えず続けた。

「俺は疑ってない」


 ビスコは呆れてはいたが表情がぐらついている。

 誰の目にも迷いがわかる。

 必死に取り繕っている感じだ。


「呆れた。俺はジェイニーやボジャックを利用したんだぞ。ボジャックに前もってわざわざ「ジェイニーに気がない」と言いながら彼の見てる前でジェイニーを抱き寄せようとしたんだ。マークレイの親を連れてきたのはお前らは金や地位に関心がない、友情を大事にするからそれよりも大事なもので騙そうとしたのさ」


 まだ全く気持ちを変えずクラビは続ける。

「俺は君がそんなせこい人間だと思ってないよ。最初の対決だって真っ向から来たじゃないか」


 さらにビスコは動揺した。

「お前本当に甘いな。この世は騙しあいなんだよ。ジェイニーの事だって好きでもなんでもない。ボジャックの心を揺らすために利用しただけさ」

「まだおごられた金返してないし」


 クラビは一旦言葉を切って再度話した。

「今だけでも力を貸してくれたら俺は君を信じる」

 

 ジェイニーも戦いながら言った。

 どこか哀れみの目で。

「私も疑ってないから」


 ボジャックも言った。

「俺もだ」

 「何か理由があったんだろう」と言う様な一度は怒った件に今は沈静した様な態度だ。


 彼らの反応にビスコは自信と冷静さがぐらついた。

 こんな事は初めてだった。

「なんでだ。何故そんなに人を信じるんだ」


 クラビは微笑んだ。

「勇者の端くれなら信じるさ」

「……!」


 女神も言った。

「私も何となくわかる。あなた全部嘘じゃないでしょ」


 少し強くクラビは言った。

「頼む、本当の事を言ってくれ」


 しかしジョルジョは悩むビスコに苛立ち割って入り言った。

「私が言ってやる。そいつはアンドレイ様の術で操り人形にされ殺人マシーンにされる事を恐れているのさ。さらにそいつは自害出来ない体にされたのだ」


「本当なのか?」

「そうだ、俺は例え逃げようとしても自殺出来ない体にされた。アンドレイを恐れているというよりあいつに操られる事を恐れているんだ。死の恐怖は克服したけど。情けないやつだろ。それを見せたくなかったんだ」


 クラビは全て納得した。

「やっぱりそういう事だったのか。じゃああの人形たちとは俺一人で戦う」

「えっ?」


 クラビは飛び出していった。

 そして二体の人形に技を放った。

「勇者の魂・火炎撃!」


 しかしクラビの技は効かなかった。

「それなら怒りの鉄拳だ!」


 しかし女神は言った。

「だめよ、あの技は隙が大きいから二体を相手にすると隙が生まれるわ」


 ビスコは言った。

「俺が片方を相手するよ」

「ビスコ!」


 ジョルジョはわめいた。

「き、貴様、二度もアンドレイ様を裏切ったな。ただで済むと思うな!」


「黙れ」

 クラビが凄い目でジョルジョを睨みつけた。


 ボジャックもジョルジョに言った。

「大体、お前がシナリオ考えたんだろ? お前もただで済むと思うなよ」


 そしてクラビはビスコと協力し二体を相手にした。

「よし、行くぞ! 勇者の魂・怒りの鉄拳!」

「魔炎流ブレーキング!」


 これは見事に決まったが、それでも泥人形は倒れない。

 マークレイは叫んだ。


「二人で協力して二体の動きを止めてくれ! 後は俺が倒す!」

 ビスコは思った。


 マークレイ、俺の事を信じてくれてるのか。

 女神はビスコに言った。

「クラビが信じる人は他のメンバーも信じるのがこのパーティのしきたりよ」


 クラビはアンカーで一体をがんじがらめにした。

 ビスコは魔炎流で渦を作りもう一体をがんじがらめにした。


「今だっ!」

 マークレイはさっき出した巨大棍棒で横並びに二体の人形を殴った。

 そして剣を取った。


「奥義・ファントムゼロ! そしてファントムMAX-エックス!」

 奥義が一気に決まり二体は倒された。





 




 


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