マークレイと魔炎流
夜を切り裂く怒りの叫びと共に、マークレイはビスコを激しく睨みつける。
「許さん、許さんぞ……」
ビスコもそれを受け止め応え、にやりと返す。
何故怒っているか理解はしている。
しかし同じ目線にはせず、ビスコはどこか上から見ている感じだ。
同じ目線で怒ると相手に負けると言う美学が彼にある。
しかし、ビスコにはどこか前の様な余裕がない。
確かに凄みも帯びてはいるが。
だがそれには妙な危機感の様な物も感じる。
また悲しみも感じる。
言いようも無いような。
クラビはそれに気づいていた。
クラビ達はマークレイが一人で戦いたいと言う為誰も入れない雰囲気になっていた。
そして
「はっ!」
気合と共に挑みかかるビスコ。
それを待っていたとマークレイもギラリと目で受け答える。
そして「来い!」とばかりに構える。
そしてぶつかる闘気、闘志。
「うおおお!」
闇に両者の叫びが響く。
それを見守る一行。
言葉が弾丸になりぶつかり合うようだ。
先にビスコは九十度の真上振りかぶり切りを繰り出す。
そして四十五度の横切り、七十五度の斜め切りを出して機先を制しようとする。
その間マークレイは前に出たい感情を抑え、上手く剣で相手の攻撃をブロックした。
まだマークレイは余裕はある。
怒りと共に余裕を表現するのも忘れない。
その佇まいと動きに実はビスコも「こいつやるな」と感じていた。
その時、彼の目が真剣になる。
ぶつかる剣を握る両者の手が震える。
剣の隙間からの両者のにらみ合いの後、今度はマークレイが攻めた。
薙ぎ払うような反撃から、袈裟切り五十度を強い踏み込みから強く感情をこめて放つ。
さっきはマークレイは怒りで先に攻めたかったのだが、あえて防御して感情を溜めて反撃した感じだ。
ビスコは強い一撃を体制を崩さず受ける。
抑えた怒りを込め、マークレイは右上からの攻めを中心に組み立てる。
一方で怒りを表しながら。
「人を騙した罪を思いしれ!」
それに彼の眼力もすごく、合わせるビスコも油断できないと感じていた。
技も気迫もなかなかだな。
それほどに仲間の心を傷つけられて怒っているのか。
「うおおおっと……」
マークレイは感情的になりそうなのを抑えて、いったん攻撃を外し間を取った。
それを見てビスコは言った。
「ふう、感情的になりやすいタイプだと思ったが意外に抑え方を知ってるな」
「ふん」
そして、ビスコは攻めだした。
水平八七度の払い。
危うく避けるマークレイ。
「おっと!」
しかし余裕もある。
ビスコは軽快な突きを二発、三発繰り出す。
バックしたかと思えば今度はさらなる踏み込みで突きを出し、さらに小刻みに放つ。
それをクラビは見ていた。
「ビスコ、本当に騙すつもりだったのか。それとも脅されてるとかの理由があるのか」
ビスコの六十度左上の袈裟切り。
五五度の少し変えた攻撃を混ぜる袈裟切攻め。
マークレイは後退しながら着実に防ぐ。
ビスコは攻めながら挑発した。
「どうした防戦一方か? 俺にお前ごときが勝てると思ったか?」
駆けつけていたジェイニーは気づいた。
あいつの挑発にいつもの様な勢いがない。
ゾゾは言った。
「だからあいつ信用できなかったんです! 俺も加勢します!」
しかしボジャックは制した。
「いや、待つんだ」
マークレイは気づいた。
クラビから強さは聞いていたが、少し目に迷いが見える。
汗も飛び散っている。
前はどんなだったか俺は分からないが。
ビスコは挑発した。
「どうした防御ばかりで。さっきまで怒りに燃えてたじゃないか。恐れをなしたかな」
「……剣の腕はそれほどでもないな。クラビ達に見せた技はどうした?」
「………ふん、じゃあ、見せてやるよ」
ビスコはそういって剣を持ちながら片手で魔炎流を出し、あてようとしたが、マークレイに軽くかわされた。
「おっと。剣を片手でしてるようじゃ俺には当てられんぞ」
「……」
またマークレイは余裕を見せた。
「お互い剣を捨てようじゃないか」
と言いマークレイは武装解除した。
「……」
「いいぜ」
ビスコは言った。
「お前にクラビの様な勇者の魂の様な力があるのか? なければ吹き飛ばされるだけだと思うが」
「俺もあるんでね」
とマークレイは負けじと黄色い炎を右手から出した。
ビスコは言った。
「お前が勇者だと? おこがましい奴だな」
「勇者の生まれ変わり何て言うつもりは毛頭ない。だが勇者にあこがれ、勇者のはしくれかサポート位は出来る様に訓練してきたぜ」
「じゃあ試してやるよ」
ビスコの拳がごうごうと紫の炎をまとった。
マークレイも激しく力を溜め準備した。
「俺も行くぜ、光閃掌!」
双方の準備が整った。
「勇者何て名乗るなおこがましい! 魔炎流ブレーキング!」
両者の命が感じられる炎をまとった拳が正面からぶつかり合った。
並みのパワーと衝撃ではない。
ゾゾは言った。
「クラビさんと戦った時と同じ状態だ」
両者の拳に込められたパワーとパワーがぶつかり押し合う。
「ぐあああ」
「うおおお」
マークレイは苦しみながら言った。
「うう、負けらんねーんだよ。お前みたいに人の心を踏みにじるやつは!」
「ぐぐ」
ゾゾは言った。
「互角っすよ」
クラビは言った。
「いや、マークレイが押されてる。ビスコの方が少ない体力で魔炎流を操る事が出来るんだ」
ビスコは言った。
「俺には分かるぞ。お前の方が体力が減っていることが」
「ま、まだだ!」
マークレイも強がりを交えて踏ん張る。
俺しかこいつと戦える奴はいないというほどの覚悟が感じられる。
「ぬ?」
弱みや苦しみを悟られないよう声を張り上げた。
「精神力でカバーしてやるぜ!」
「ぬう?」
まるで二人の拳は化学反応を起こしている様だった。
ビスコは言った。
マークレイは大量の汗を流し震えている。
ビスコは言った。
「さっさとくたばれよ。俺はまだ体力を二〇パーセントしか減らしてないがお前はもう八〇パーセント近く減らしてるだろ」
「だから精神でカバーしてやるっつってんだよ、うおおお!」
そして
「ぐあああ!」
両者はあまりの大きなパワーの衝突に反動で吹き飛ばされた。
ビスコは言った。
「俺の魔炎流ブレーキングを破っただと⁉」
しかしマークレイは手が焼けていた。
ビスコは言う。
「その拳じゃ剣は握れないな」
「うおおお」
マークレイは石を手に集め巨大棍棒を作った。
「よくわからんが随分でかい武器だな」
「うおおお!」
マークレイは棍棒を振り回したがこれは当たらない。
「そんな大味な武器が当たるかよ! 今度はこっちの番だ! 吸血鬼みたいな戦いを見せてやるよ」
隙を付いてビスコはマークレイに飛び掛かり歯と爪を突き刺した。
「ぐああ!」
「魔炎流をお前の体に送り込んでやるよ。毒を注入するようにな!」
「ぐあああ!」
「やばいっすよ!」
ゾゾは慌てた。
しかしマークレイはすぐに死なない。
「な、なんだこいつ⁉ 普通の人間ならすぐ死んでるぞ」
女神は言った。
「マークレイの体内の勇者の魂が流入を防いでるのよ! もう一つは精神力」
ジョルジョは言った。
「ええい! ビスコ! まだそいつを倒せんのか!」
「しかし!」
ビスコは返答に窮したがそこにブーメランが飛ぶのが目に入った。
「え?」
サブラアイム兵の放ったブーメランはマークレイの父親の首を切断した。