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室内リングのボクシング 禊の試合

 マークレイは翌日町に出て皆に言った。

「皆に頼み事があるんだ」

「え?」


「町の室内闘技場に一緒に行ってくれ」

 詳しい内容を言わない為、皆何かと思いながら付いて行った。


 そして店に着いた。

 店に受付をして案内されると、そこは四方四メートル程の正方形室内リングだった。

 この世界のリングはボクシングの様なロープはない。


「どうするんだ?」

 マークレイは一呼吸おいてから言った。

「ボクシングのスパーリングをしてくれ」


「え?」

 皆が動揺する中続けた。


「俺を殴ってくれ。一杯」

 これはどよめきを誘った。

「何でまたそんな事を?」


 マークレイは説明する。

「俺が、これから仲間に入るのに気が済まないんだ。何て言うか皆に昔嫌な事一杯させただろ? 皆は正義の道に行ってるのに俺は加わる資格があるかとずっと思ってたんだ。だから皆恨みを込めて殴ってくれ」


 皆はかなり動揺した。

 クラビは落ち着いて言った。


「別にいいよ。もう」

「いや、俺が気が済まないんだ。俺はもっと社会的に罪を受けるべきだったんだ。それが教会の仲立ちで軽減された。でもやはりこれから正しい生き方をするのに俺が気が済まないところがあって……だからクラビと、あと一人位お願い出来ないか?」


「じゃあ、俺が行くよ」

「ボジャック、頼む」


 そしてマークレイ達は着替えまずボジャックがリングに上がった。

 もちろんグローブをはめている。


 そして向かい合った。

 マークレイは思った。

 ボジャックは今すごく堂々としてる。


「はじめ!」

 の合図で試合は始まった。

 ボジャックは落ち着いていて足さばきもしっかりしている。

 

 両者巧みに回り隙を探った。

 そしてボジャックはさっとジャブを打ったかと思うといきなり踏み込みストレートを放った。

「ぐっ!」


 かなり強烈だ。

 はっきり言って容赦がない。


 マークレイのガードがびりびりする。

「ボジャック、こんなに変わったのか」


 マークレイはボジャックが十歳位の時を思い出した。

 何をやっても目立つものはない。

 

 どこか本人もイライラしてる感じがする。

 マークレイは直接見下した事はないが。


 二人は様子を見ながらチャンスを伺っていた。

 そしてボジャックは軽快にパンチを放つ。

「ぐ……」


 マークレイも逃げてばかりじゃいられなくなった。

 ゾゾは気づいた。

「マークレイさん逃げてばかりですよ」


 マークレイは反撃のフックを放った。

 これはボジャックもよけ切れない。

 ところがマークレイはぴたりと止めた。


 ボジャックは驚いた。

「あれ? 寸止めルールだったっけ」

「いや、俺が殴れなかっただけさ」


 戸惑うボジャック。

 マークレイは言った。


「どんどん来てくれ!」

「よし!」


 ボジャックはどんどん前に出た。

「くっ!」


 マークレイは少し食らった。

「もっと、もっと俺を殴ってくれ!」


「え?」

「昔皆を言いなりにした怒りを込めてくれ!」


 マークレイの表情は悲痛だった。

 ボジャックは心を鬼にしパンチを連打した。


 マークレイはあまり避けない。

「マークレイさん避けないすよ」


 ベルスは言った。

「あいつわざと食らってる?」


 ミッシェルは言った。

「罪滅ぼしとか、皆に仲間と認めてもらうとかそう言う一種の「禊」のつもりなんじゃないか」


 そして一ラウンドが終わった。

 かなりボジャックは打ち込んだ。


 そして言った。

「俺はもういい、交代だ」

 クラビは複雑な心境でリングに上がった。


 そして試合は仕切りなおされクラビ対マークレイになった。

「はじめ!」


 クラビは汗をかきどう攻めるか戸惑った。

 マークレイは言った。


「どんどん来てくれ」

 クラビはパンチを出した。


 かなり強くマークレイに当たった。

「俺がした酷い事を思い出し憎しみを込めてくれ」


 クラビは唾を飲んだ。

 そしてパンチを放った。


 マークレイは食らいながら感じた。

 これがクラビのパンチか。あいつも変わった。

 

 強いだけじゃなく、性格、雰囲気が。

 比べ物にならないぐらい。 

 だから俺も変わらないと。


 俺の罪が許され仲間になるには皆に気が済むまで殴って貰うしかないんだ。

 クラビはマークレイの意思を感じ取り答えた。


 クラビは心を鬼にしかつなるべく表情に出さないようにした。

 しかしパンチは反面、重い。


 マークレイは思った。

 もっと殴ってくれ。

 それで俺の罪が許され、皆の恨みが減るのなら。


 昔クラビが怒った事を思い出した。

「窃盗何てやめるんだ!」


 回想は終わり、引き続きクラビはかなり打ち込んだ。

 そして一ラウンドが終了した。


「ぐっ」

 マークレイは膝から崩れた。

 皆心配した。


 医務室でクラビ達は寝たマークレイに言った。

「皆怒ってないよ」

「はは、これで俺も一員になれたかな。いやまだ罪は消えない。孤児院以外の人にもいっぱい迷惑かけたし。それをこれからの戦いで返して行かなきゃいけないんだ」


 ミッシェルは言った。 

「次は俺の罪滅ぼしのだな」


 ベルスも言った。

「俺も皆に殴られないと。それが禊だ」

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