呪いの印
「分かりました。ミッシェルさん」
クラビは少し声の大きさが取れた。
肩の力が少し抜けた。
ミッシェルは安心の表情を見せた。
「おう、少し冷静になったみたいだな。顔もさっきほど怖くなくなってるぞ」
「あ」
「怒りの力は相手に足元を掬われやすい」
クラビは思った。
ミッシェルさん、協力だけでなく俺に冷静さを取り戻させる為に……
共闘が決まり二人は構えて向き直った。
「雑魚が一人加勢して来たか。足を引っ張ってしまうんじゃないのか?」
嘲笑うアンドレイを睨むとミッシェルは印を切った。
「ぬう!」
「ぬぐっ!」
突如アンドレイの体が金縛りになった。
「き、貴様……」
それは戦ってから初めてと言って良いアンドレイの戸惑いの表情だった。
「ぬううう!」
凄まじい気迫と念でアンドレイの動きを封じるミッシェル。
「く、くそ、こんなガキの未熟な忍者に私が動きを封じられるなど! くっ!」
「ぬうう!」
「す、すごい」
ミッシェルは苦しみながら言った。
「おいおいクラビ感心してる場合じゃないぜ! 俺もいつまで持つか分からないから早く攻撃してくれ!」
「は、はい! うおお」
クラビはかつてザーゴンとの戦いでも出した拳や手刀からの閃光を放った。
拳からは打撃式、手刀からは切断式だった。
「ぐおう!」
大きくはないがアンドレイに着実にダメージを与えた。
そして力を溜めると射出型光剣を放った。
ドオンと言う音がして貫く事は出来なかったが、先ほどよりも大きく光が強い。
「さっきより威力が上がっている。戦いの中で進化でもしたのか」
さらにクラビは縦扇形の剣の閃光を放った。
「ぐっ!」
アンドレイは防いだが閃光は着弾と同時に爆発した。
戸惑いながらアンドレイは言う。
「さっきより光が大きいだけでなく爆発の属性まで付与している。どう言う事だ。それにあのガキ、勇者でもないのにこれほど強力な術を」
「ぐあうっ!」
アンドレイは渾身の力で金縛りを解いた。
するとアンドレイは飛び掛かって来た。
「貴様から先に始末する」
アンドレイは剣を振りかざしたがぎりぎりミッシェルは刀で防いで見せる。
「ぐっぐぐ……!」
苦しさに歯ぎしりをするミッシェル。
こんな若造に! と表情に表すアンドレイ。
「くっ!」
アンドレイは一旦後ろに引いたが、すぐ切りかかって来た。
「ぬぐ!」
疲れた体で防御に徹するミッシェル。
しかし押されていても全て防いで見せる。
そして高速のバク転三発で距離を取ると飛び上がり無数の手裏剣を放った。
「大した数だがこの程度!」
しかしアンドレイが振り払おうとすると手裏剣はそれぞれ爆発を起こした。
「何?」
アンドレイは焦げた手を見つめ気づいた。
「そうか、これは気功術で作った手裏剣型のエネルギーの固まり?」
「ご名答」
さらにミッシェルは印を切った。
アンドレイが大爆発に包まれた。
「ぬくく」
爆発の中からアンドレイが姿を現した。
その瞬間ミッシェルは待っていたように渾身のパンチを浴びせた。
「がう!」
アンドレイは顔を変形させながらお返しのパンチで吹っ飛ばした。
アンドレイは口を拭いて言った。
「クラビの仲間は雑魚ばかりだと思っていたが、貴様は全く違うな」
殴られてダウンしたミッシェルは不敵に言う。
「自分で言うのも何だが、強いから他のメンバーをかばってその分戦ってんだよ」
「ここで芽を摘む必要がありそうだな」
アンドレイは力を溜め暗黒の波動をミッシェルに撃った。
「危ない!」
クラビが前に出てかばい二人共爆発に巻き込まれた。
ダウンしたミッシェルは言った。
「ば、馬鹿、何で俺なんかをかばうんだよ、立つ瀬がねえよ」
「後は任せて下さい」
クラビは立った。
「ふん」
と言いアンドレイが力を込めると悪魔型の翼(約片翼一メートル四十センチ程)と二本の角を表した。
「本気を出して来たな」
「まだ完全に悪魔体になるほどではないがな」
アンドレイはクラビに火炎魔法を放った。
しかし激しい炎を軽くクラビは吹き飛ばした。
今度は雷を放ったがこれもクラビは難なく防いだ。
再度切りかかったクラビ、先程ほどではないが攻め優先の攻撃で押していた。
左斜め上五十度、同じく百十度、中央より五センチずれ、右上十三度、十七度。
「剣の腕はまだまだだな!」
「ならこの戦いで力に目覚めて見せる」
女神は言った。
「今のクラビなら出来るかも」
高速で突きを繰り出して行く。
しかし隙は無いのだが、さっきより動きが落ちている。
「動きが落ちたぞ、どうした?」
「くっ」
と言いクラビは不意に左腕のあざを抑えた。
「何だ? あざが急に痛む」
「ん? そのあざは」
「くっ、くく、ふはーはっは!」
アンドレイは説明した。
「それは私が十二年前『恐怖の呪い』として付けた呪いの印だ。まだ残っていたようだな」
「呪いの印?」
女神は言った。
「神様が言ってたわ」
神は言った。
「おのれ、アンドレイの呪いが取り切れず新しい体にも呪いが残ってしまった……」
「その呪いがある限り、お前は私に殺された時の恐怖から逃れらえなくなるのだ」
「え?」
アンドレイはしみじみ思い出した。
「あの時は残虐だったな。手を切り、足を切り、胸を貫いて首を切り、最後に燃やした。例えまた戦う事があっても二度と逆らえないようにだ」
「う、うわあ!」
クラビは思い出し吐き気を催した。
あざももっと痛くなる。
「はーっはっは! 思い出したか! 殺される姿が思い浮かぶだろう!」
デュプス神は天界で言った。
「これが『記憶の弊害』だ。彼の体は記憶と共に力も上がるが、アンドレイへの記憶も残ってしまったのだ」
「くっ!」
再度印をきり爆発術を放ったミッシェルだったが、今度はあまり効いていない。
「これでもパワーは上がってるんでね」
「くそ!」
今度はミッシェルは姿をけした。
「ぬう?」
「どこだ? ふん」
と言うとアンドレイはまるで空気をコントロールする様な構えを取った。
するとアンドレイの少し斜め後ろで爆発が起き叫びと共にミッシェルは倒れた。
「ふふん、私の周りの近くの空気を生命に反応して爆発する性質に短時間変えたのだよ。姿を消したのは見事だがな」
「何だって?」
流石のクラビもアンドレイの魔力に驚いた。
アンドレイはダウンしたミッシェルを蹴飛ばし馬乗りになって何発も殴った。
ミッシェルは気絶寸前になった。
アンドレイは余裕綽々で言う。
「今日は様子見で来ただけで今度会う時まで寿命を延ばしてやったのに。勝手にかかって来るから悪いのだ。今日で息の根を止めてやろう」
と言いアンドレイは詠唱すると二人の体に激痛が走りだした。
「ぐあああ!」
「何だこれ⁉」
「怪物でも五分で死に至る呪いをかけた。十分に苦しんで死ね」
「ぐあああ!」
叫ぶミッシェル。
アンドレイは去った。
クラビは思った。
くっ、俺はともかく何とかミッシェルさんだけでも助けないと! 呪いを解かないと、くっ!