クラビが怒る時
クラビはついに怒った。
限界を超えた。
それは仲間達から見てもかってない程激しかった。
見つめるアンドレイも心なしかたじろいでいる様にも見える。
クラビはアンドレイの残虐さに怒った。
そして走り出した。
「ぬっ!」
と兵が立ちはだかる。しかし
「どけ」
の一言でクラビは兵の首を切断してしまった。
「ええ!」
そんな場面も仲間達は見た事がなかった。
アンドレイは動じずにじっと見た。
以前私と戦った時があんな目だったか……
ついに力と記憶を取り戻しつつあるのか。
「う、ウウウ……!」
狼か野良犬の様に声を震わせ言葉にならない怒りを表した。
そしてアンドレイの近くまでジャンプすると一閃、膝を着く位置まで剣を真上から振り下ろした。
すると剣から激しい光が浴びせられアンドレイは目がくらんだ。
女神は眩みながら言った。
「あれも目覚めた勇者スキルの一つ、また勇者の記憶が戻った?」
「子供まで殺しやがって……」
そして起き上がったクラビは獣の様な表情で猛然とアンドレイに襲い掛かり切りかかる
剣の太刀筋が乱れる程クラビは怒りに任せて力の限り振り回した。
アンドレイは剣を出し防御した。
クラビはアンドレイの首を切り落とさんばかりに左斜め六十度から斜め一杯に振り下ろす。
その状態から反対側に水平に近い角度で切る。
そこから袈裟切りを左右交え切り刻まんばかりに繰り出す。
目の近くを狙う突き、心臓を狙う突きを少しずつ角度を変えながら連打した。
本能が急所に吸い寄せられている様だった。
クラビの目は殺意のみだった。
「くっ!」
流石にアンドレイは迫力に気おされたかラッシュが防げなくなったかバク転で距離を取った。
「火炎魔法!」
アンドレイは炎を投げつけた。
ところがクラビは剣でたちどころに剣を振り払い消した。
女神は言った。
「あれも勇者の力……」
そしてクラビは指先をアンドレイに向け射出型光剣を発した。
うまくアンドレイはかわしたが、クラビは動じず二、三発目を放つ。
「くっ!」
そして今度はさらに大きく鋭い射出型光剣を放った。
「ぐっ」
これは命中したが、アンドレイは渾身の力でこらえた。
「今のは自信があったようだがそれでも私を倒すには至らん」
しかしクラビは動じず剣を構え振り下ろすと剣から扇状の閃光が発せられアンドレイに命中した。
女神は言う。
「あれも高度な勇者スキル、どんどん記憶が戻っているんだわ」
ボジャックは言った。
「しかしあれ程怒りしか感じられないあいつは見た事がない」
マリーディアは疑問に感じた。
「そうかしら、さっきドードリアスとの戦いで切れかかった時も『殺したくない』って言ってた。葛藤している様にも見える」
アンドレイは部下たちに命じた。
「町にもっと火を撒いて混乱させろ! 埒が明かん!」
兵はさらに散った。
ミッシェルは言った。
「皆、後は俺達に任せて町の火を止めるんだ!」
「クラビ!」
ミッシェルは駆け寄った。
「俺も戦う! 二人で倒そう」
「あいつは俺が」
少しだけクラビは落ち着いた。
「怒ってるのはお前だけじゃない。俺ももう完全にブチ切れてるんだ」