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パルマ―邸前の攻防

2023年11月19日改稿しました。


 その時突如、外部から矢がガラスを割り飛んできて壁に突き刺さった。

 何事かとパルマ―は窓から顔を出し見回して強く言った。

「誰だ‼」


 ゾゾは凄い速さで窓から飛び降り颯爽と外に飛び出し、ボジャック、クラビも順番で続いて出た。

 

 するとスタグラーが兵を連れて来ている。

 前衛はスタグラーのみだが、何十メートル離れた後方に弓兵が六人待機している。


 ゾゾは叫んだ。

「ここがばれたか!」


 ボジャックは言った。

「パルマ―さん達を巻き込むな」


 スタグラーは言う。

「条件次第ではある。用があるのは君達だけだ」


 皆剣を構えた。

 ボジャックは見渡した。

「弓兵が多いな」


 スタグラーは答えた。

「ふん、その通りだ、君達は遠距離戦の方が苦手と思ってね、編成を変えたんだ」


 クラビは言った。

「大丈夫だ。俺のアンカーがある!」

 しかしスタグラーは言った。


「ふふ、君の相手は私一人でさせてもらう」

「そうは行かない! 俺が弓兵の相手をする!」

 と言いクラビはアンカーではなく剣で突っ込んで行った。


「あいつ何でアンカーを使わないんだよ!」

 クラビは思った。

 あいつ、何か俺を吸い寄せるものを感じる。


 クラビはその「何か」に吸い寄せられた。

 それは勇者を引き付ける念波で、スタグラーの脳波から出ている物だった。


 それは脳内物質などではない。

 霊的、思念の様な力だった。


 スタグラーの死んだ母親の怨念により自らの力で勇者を探せる様になったのだ。

「復讐の為勇者を求める」


 スタグラーは向かって来るクラビを笑みを見せて待ち構える。

「ふん、自分から来たか」


「うおおお!」

 と気迫全開でクラビは切りかかった。

 普段は大人しいクラビが何故こんなにいきりたつのか自分でも分からなかった。


 しかし元々スタグラーの方が腕が上なのと動きが大味な為軽くかわされた。

 これにクラビは少し動揺した。

 自分が思った様な動きが出来ずスタグラーのペースになってしまう。


「くそ!」

 少しやけになり剣を連発したがいずれもかわされた。


 剣がぶつかったが弾かれた。

「くそ!」


 スタグラーは笑みを交えて言う。

「例の武器を使ったらどうだ? 勇者の力を見せてみろ」

「くっ!」


 スタグラーは思った。

 あの武器が勇者としての成長を増す。


 女神は忠告した。

「焦らないで、ここは『高速』のカードを入れて、あいつとても動きが速いわ」

 クラビはスロットにカードを入れ、クラビはアンカーを射出した。


「うおおお!」

 近距離だけあってアンカーは凄まじく速くスタグラーに届いた。

 だが近距離からの攻撃にも関わらずかわされてしまった。


「これもかわすのか!」

「どうした?」


「まだだ!」

 二発、三発と放ったがこれもかわされた。

「もう少し近づけば」


「駄目よ、あいつに有利な間合いになるわ!」

「じゃあ!」

「もう一枚『高速』のカードを入れて! 威力ではなく徹底して速度重視よ」


 指示に従いカードを入れもう一発撃った。

「このスピードならかわせまい!」


「ふん!」

 今度はさすがのスタグラーもかわせずアンカーが剣に巻き付いた。

 

 しかしここから踏ん張られてしまった。

 相当強靭な腕と足腰だ。


「あいつ細身なのに何て力」

 ボジャックとゾゾは慎重に弓兵と戦っていた。

 ゾゾは提言する。


「遠距離用の武器がない」

「クラビさんが苦戦してる! ボジャックさん、ここは俺が引き受けますからクラビさんを助けて下さい」


「無理だ! お前一人じゃ!」

「『高速移動』」

 と詠唱しゾゾは高速移動スキルをかけた。


 ゾゾのスピードがアップし、弓矢攻撃を一、二発避けた。

「早くクラビさんの援護を!」

「だ、駄目だ、ゾゾ一人でこの人数は」


 ボジャックは後ろを振り向いた。

「ジェ、ジェイニー、君の魔法で援護してくれ。俺が弓兵を倒す」


「え?」

「お願いだ。前言った事は謝るから」

 貴方が頭を下げるなんて……


「わ、分かったわ。それに謝る必要もないわ」

 ジェイニーは兵の方を向きすっくと立った。


 詠唱し力が溜まる

 炎の様なオーラがうごめく。

火炎ファイア!」


 ジェイニーは火炎弾を放った。

 命中し悶絶する弓兵。さらに別の兵にも放った。


 しかし命までは取れなかった。

「私の魔法力じゃ致命打を与えられない」

「大丈夫、後は俺達に任せろ!」


「私もだ!」

 とパルマ―も火炎弾を弓兵に放った。


 ゾゾがハイスピードで切りかかる。

 一方クラビは何とか当てる事は出来ても剣で防がれていた。

 ボジャックとゾゾは何とか兵達を倒していった。

「後二人だ」


 しかし戦況を見ていたスタグラーは、クラビと戦いながらも後ろ目でボジャック達を見ており判断を下し合図した。

「そろそろだな。出ろ!」


 すると後方から隠れていた兵が七人現れた。

 ボジャックは驚いた。

「なっ!」


「驚いたかな? こんな事もあろうかと伏兵を用意しておいたのだよ。大分君達も疲れて来た頃だからね」

「くそ!」


 クラビは思った。

 この人俺と戦いながらしっかり後ろや戦場全部を把握しているんだ。

 しかも二段構えとは恐ろしい人だ。


 スタグラーはクラビに言った。

「おっとぼーっとしている暇があるのかな」

「くっ!」


 ボジャックは言った。

「まだこんなに……でも諦めるわけには行かない!」


 ジェイニーは言った。

「そんな体力で無茶しないで」

「仕方ないよ。それ以外切り開く方法はない」


「わかったわ」

「え?」


「上手く行くかわからないけど、さらに上級の魔法を使うわ」

「そんなのがあるのか? でもお前は大丈夫なのか」


「覚えたてだし成功するかわからない。それに慣れてないから力を大きく使うわ! でもやるしかない!」

 意を決してジェイニーは前に出て詠唱した。

火炎ファイアレベル4!」


 先程の火炎弾と比較にならない、広範囲向けの火力も大きい火炎がジェイニーの手から放たれた。

「うお!」


 こんな威力の魔法が出るとは思わず兵達はよけ損なった。

 二人が炎に包まれ、残り五人は足止めされた。


「さらに!」

 ジェイニーはもう一度詠唱した。

氷吹雪ブリザードレベル三!」


 今度は強力な冷凍魔法が発射された。

 しかも足を狙った。

「ああ!」


 兵達は足を凍らされた。

「これじゃ動けない!」


「今よ二人共!」

「分かった! 足手まといって言ってすまなかった」


 それを聞くとジェイニーは力尽き倒れた。

「ジェイニーの気持ちに応えるんだ!」

 ボジャックとゾゾは足を凍らされた兵達を倒していく。


 一方、クラビはスタグラーと戦っていた。

「く、くそ!」

「あいつの間合いに踏み込ませないで!」


「行け!」

 今度は間合い、スピード共にかなり当たりそうなアンカー攻撃だった。


「当たるわ!」

 しかし何とスタグラーは目に見えないバリアを張っており惜しくもアンカーは当たらなかった。


 女神は言う。

「そんな! あれだけのスピードにバリアまで! どうやって当てろと言うの⁉️」


 クラビは思った。

 あの人、多分本当に悪人じゃない感じがする。

 何となくかも知れないけど。

 

 でも今は現実問題、目の前の敵なんだ。

 それに俺がやられたら今度は皆が……


 俺に力の片鱗があるなら目覚めてくれ! 頼む!

 必死でクラビは精神集中し、力を込め、そして祈った。


 女神は言った。

「ザーゴンと戦った時の事を思い出して! あの時の様な力を!」

「はっ!」


 クラビはにわかに思い出した。

「あの時俺は…」


 精一杯に感情を込めながら精神集中した。

 すると、体内に説明できないパワーが急激に大量にみなぎってくる。


「ぬっ!」

 スタグラーも警戒して身構えた。


 クラビの体内の魔法力とも気功の類とも違う、彼にしかわからないエネルギーが充満する。

「これは、ザーゴンと戦って怒った時の力だ」


「『勇者の魂』が反応してるのよ!」

「『勇者の魂』……」


「超怪力のスキルが発動出来るわ!」

 クラビの「超怪力」が発動した。


 クラビは地面を掴み、岩のように地面の硬い部分を引っこ抜いた。キーマを助けた時の様に。

「うおお!」


 クラビは岩を投げる様に割った地面を投げた。

 ところが、岩はバリアに当たり砕けた。

 スタグラーには傷一つ付いていない。


 女神はショックを受けた。

「そんな! 何て強固なバリアなの⁉️」

 

 しかし、女神は諦めない。

「まだよ! 今度は別のスキルよ!」


「よし!」

 クラビは拳を握った。

「うおお!」


 クラビは正拳突きの構えに入った。

「ぬ⁉️」


 再度、スタグラーは警戒した。

 クラビの拳からまばゆい光が出ている。

 

 体からも白い煙が出ている。

 拳にすさまじい、普段と比べものにならない力が集まる。


 そして力を溜め終わると、クラビは意を決する様にやや大振りにスタグラーに殴り掛かった。


 女神は叫んだ。

「『勇者の魂・怒りの鉄拳』よ!」

 クラビのすさまじいパンチが飛ぶ。


「何⁉」

 スタグラーは動揺した。

 しかし、肝心のスピードが遅い。


 しかり、スタグラーはバリアに自信があるのか避けなかった。

 拳がバリアにぶつかり、化学反応の様に光と煙が出る。

「うおお‼️」


 クラビは拳でバリアを押しきろうとした。

 スタグラーは驚愕した。

「ば、バカな! 何と言う力だ」

 

 なおも押しきろうとするクラビ。

 遂にバリアがひしゃげ砕けた。


 しかし、クラビは反動で後方に倒れた。

 しかも拳にこもっていた力は全てなくなってしまった。


 クラビが絶望した瞬間、今度はアンカーが光り出した。

「アンカーがパワーアップした⁉️」

 女神の言う通りスピードがアップした。


「ぬ!」

 スタグラーは変化に気づいた。


「何? 武器をパワーアップさせただと!」

「アンカーがパワーアップした。俺の心に呼応して」


 そして呆気に取られ隙が出来たスタグラーはアンカーを食らいダウンした。

「これが勇者の力、面白い、もっと引き出してやる」

 立ち上がったが皆に包囲された。

「ぬっ?」


「幾らあんたでもこの人数相手じゃ無理だろ」

「ふん、だがクラビ君、さっきのパンチ、食らったら私は死んでいただろう」


「え?」

「『勇者の魂・怒りの鉄拳』か。なかなかだったぞ。楽しみだ。それと、もう少し理由を話そうか。この世界は全て宗教国家だ。デュプス神、サブラアイム神コプロサス、そして少数派のガト信者が支えるガト神。二十年前に三すくみの宗教戦争があった事は知ってるね。その時ガト族でありガト信者先導者の私の母は巻き込まれて殺された。だから『神が支配する世界』を変えたいのだよ。君にデュプス神とサブラアイム神コプロサスを倒して貰い人間の上に立ち、君が支配する世界にしてほしい、それが復讐でもある」

 と説明し観念したスタグラーは煙玉でまいて逃げてしまった。


「手強かった。それにすっきりしない。復讐、神を倒したいとか…」

「でもお前の勇者の力も見れたぜ」


 クラビは思った。

 あの人何が言いたいんだろう。

 

 でも、平和主義の俺だけど、スタグラーに歯が立たなくて悔しかった。

 強く悔しがったの何だか初めてに思える。

 

 それにアンカーに頼りすぎはだめだ。

 あれは俺の力じゃない。


 ならば、勇者になるため、スタグラー達に勝つためには自分自身の力を上げる必要があるんだ。  

 

 よし、今日から努力していつかアンカーに頼らず勝って見せるぞ。今日が始まりだ。

 悔しさ記念日、強くなる記念日。


「じゃあ、そろそろおいとましないと迷惑がかかるから」

「実は頼みがある」

 とパルマ―は切り出した。


「え?」

「ジェイニーを連れて行ってやってくれないか?」

「ええ?」


「決して足手まといにはならん、いやならない人間にならなければいけないのだ」

 クラビは言った。

「OKですよ」


 ボジャックも優しく言う。

「さっきの戦い、君がいなきゃ勝てなかった。今後も君の力が必要になりそうだ」


「じゃあ」

「宜しく頼むよ」


「ええ」

 ボジャックは赤くなった。


 

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