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シヴァの過去 消したい傷

12月17日書きなおし次話も投稿しました。

「ぐあ!」

 ブロキアの体が地面に叩きつけられた。


 皆驚いた。

「蹴りでダウンさせた!」


 ボジャックは思った。

 スピード、跳躍力、瞬発力だけじゃない。

 剣技に格闘を織り交ぜ、あの体勢から出すアイデアと言うか発想力が凄い。


 そして何食わぬ顔で着地し次の攻撃に備えるシヴァ。

「あいつ一体どうやってあそこまで強くなったんだ。才能はあったけど」


 ゾゾも言った。

「俺もあの人の動き捕らえられないかも」


 しかし、シヴァは相変わらずあまり疲れておらず目も怯えたり焦ったりしていない。

 起き上がったブロキアは苛立った。

「くああ、蹴りを食らわせたくらいで俺を倒せると思ったか」


 全く表情を変えず、シヴァはカードを入れ替えた。

 女神は気づいた。


「あれ、さっきよりもっと強いカードだわ。体や魔法力にも大きく負担がかかるかも」

 そして今度はシヴァは猛吹雪を繰り出した。

「うわ!」

 

 ジェイニーも驚いた。

「あれ相当高レベルの氷魔法と同じ位の威力だわ」


 ごうごうと音を立て激しい吹雪が向かう。

 辺りの温度も下がる。


「はあああ‼」

 これに対しブロキアは叫びながら槍を振り回した。

 すると吹雪を散らし無効化した。


「この槍は我が軍の技術で魔法を跳ね返す特殊コーティングがされているのよ」

 しかしシヴァは動じず言った。

「ならば剣の続きをするまでだ」

 静かな言い方だ。


 また剣と槍のラリーが始まった。

 しかしブロキアは出血で体力が落ちている。


「自分で自分の体を切ったのは間違いだったな。血で動きが落ちているぞ」

「くっ!」


 ブロキアは焦りだした。

 マリーディアは何とか立った。

「まだ私も行けるから援護を」


 しかしボジャックは止めた。

「いや無理をしない方が良い」

「でもシヴァだけで勝てるの?」


「俺もこんなに強いなんて知らなかった。でも何があってあいつを変えたんだ? マークレイ達と修行してたみたいだけど。あいつマークレイに怯えていたんだ。


 ジェイニーは驚いた。

「え?」


「マークレイは前はいい奴だったけど色々あって荒れて荒み始めたんだ。それで子分のシヴァを言いなりにしていた。それである時不満が爆発したんだ。


 回想に入る。

 シヴァは六歳で孤児院に来た。


 クラビと同じ雪の日。

外で立っている姿が寂しいとも寂しくないともどちらともつかない印象だった。


 彼の持つ乾いた感じがそう言う印象を与える。

 決して冷酷で無機質的ではないのだが。

 友人が欲しいのか欲しくないのかどちらかわからない雰囲気だ。


 シヴァはあまり自分から話しかけない。

 しかしつんとしたわけではなくマイペースな感じだ。


 そして口数は少なくともふにゃっと時々見せる笑顔が彼の処世術を上げていた。

 朴訥とした話し方に時々混ぜる文字通りふにゃっとした笑顔。


「暑いね」「そうだね」ぐらいしか言わなさそうな雰囲気。

 しかし不思議に冷たくはなくもっさりマイペースだ。またいい意味で感情をむき出しにしない。


 それで段々打ち解けた。

 しかし職員は感じていた。

「特徴がないようで、すごい素質を持っているような何か」


 教会に来た神父はボールを渡した。

 シヴァは嬉しそうに受け取った。

 それは他の院児にはまだ見せた事がなかった顔だ。


 そして一人でボールを蹴る。

 類まれなセンスでドリブルしそこからキック。

 職員達は目を見張った。


 シヴァは思った。

 何だろうこの感じ、友達と遊んでいる時も決して詰まらなくはない。

 でも何か違う。

 

 ボール、そして蹴る事は俺の特別な何か。

 そしてどこまでも行けそうな気がする。


 めきめき頭角を現したシヴァは瞬く間に休み時間のサッカーの腕一番になっていた。

 しかも顔が良い為女の子の声援も受けた。


「神父様、よく彼の才能を見抜きましたね」

「何となく分かったんだ」


 しかも朴訥な性格はそのままで控えめでスタンドプレーはしない。

 皆と協調する。

 

 しかし、一方サッカーにのめりこむ姿と目は熱さと一種の怖さを感じた。

「素晴らしい。いつか内のチームに欲しい」

「あなたはスカウト!」


「何て運動神経だ!」

「シヴァはすごい。あいつなら孤児院の夢をかなえてくれるぞ」

 孤児達は言った。


 俺が、プロの選手になれる。

 プロに。


 もくもくと内に秘めた情熱を荒げるシヴァ。

 しかしこの後亀裂が起きる。

 剣の腕も抜群だった彼に。


 シヴァはマークレイに言った。

「もう俺はお前の言う事は聞かない」

「あ?」


 マークレイは睨みながら凄い威圧感で迫る。

「もう一度言ってみろよ」

「言う事は聞けない」

「ちょっと来い」


 そして二人は移動し喧嘩が始まったがしばらくしてシヴァはマークレイに叩きのめされてしまった。

「ぐぐ……」

「おい、俺の怖さちっとはわかったか」

「わかった……もう逆らわない」


 ぼろぼろのシヴァは言った。

 シヴァの心に大きすぎる恐怖が残った。


 回想を終わる。

「それからまたマークレイはいい奴に戻ってくれたんだけど、シヴァが逆らう事は二度となかった。マークレイの言う事を絶対視する様になったんだ。マークレイは散々謝って『もう子分じゃなくて対等で良い』って言ったんだけど」  


 シヴァは思った。  

 俺はあの時マークレイに恐怖を植え付けられ、逆らう事が出来なくなった。勿論あいつがいい奴になったのは十分分かっている。


 今は好きであいつに仕えてるんだけど。

 そして俺は精神疾患にも近い心の傷を克服する為にひたすら剣を磨いた。

 マークレイ達と一緒に。今は好きで戦ってるんだけど。



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