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勇者の記憶

 マリーディアはシールドブレスで受けたエネルギーを一旦中心の宝石型吸収装置に格納した。

 一転今度は溜めた力を針の様に拡散型弾丸状に飛ばした。

 隕石群のようだ。


 マリーディアは叫ぶ。

「エネルギー拡散放射!」

「ぬう!」


 これは意表をついた。

 さしものドドーリアスもかわし切れず、弾丸状エネルギーが次々体に突き刺さって行った。


 しかし、彼にはまだ余裕がある。

「ほう、そんな使い方もあるのか! しかし一発一発は大したことないようだな」

 

 これを聞き少しマリーディアは悔しかった。

 残念ながら致命打は与えられなかった。

 

 しかしひるまずマリーディアは向かって行った。

「まだまだよ!」

 

 一方ボジャック達三人は全力で戦い、ぎりぎり五分を維持していた。

 ジェイニーは火炎弾を今度は槍に向けて放ったが防がれてしまった。

「この前の様に防がれた。私の力をもっと上げないと通用しない!」


 ボジャックは言った。

「俺に作戦がある、ゾゾ、一人で槍を防いでくれ」

 

 そしてゾゾが槍の相手をしていると右肩から素手でボジャックが殴りかかった。

「馬鹿め。素手で挑む気か? 私の拳は格闘も出来ると言ったろう!」


 ボジャックは言った。

「『超怪力』のスキルだ! そして最近覚えた火の魔法をそれに合わせた」

 

 と言い高熱の拳を発動させ正面からボジャックとブロキアの拳と拳を衝突させた。

「この高熱の拳なら貴様の拳も破れるはず! 相殺だ!」

 

 一方マリーディアは全力で戦っていた。

 最大に自分の力を出しきれる、感情が切れた状態に追い込んでいた。


 そこへクラビは全力で駆けつけてきた。

「はあっ、はあっ」


 ドードリアスは怪訝な顔をした。

「スタグラーはどうした? まさか倒したのか短時間で?」


「見逃してくれました」

「何だと? 裏切ったのか奴は」


 クラビは思った。

 言わない方が良かったのか。


 ドードリアスは言う。

「この前の借りを返してやる」


 マリーディアは言った。

「借り? 止めを刺さなかったのに?」


 ドードリアスは悪びれずに言う。

「あれは恥だ。恥をかかせたと受け取る」

「くっ!」


 クラビは言った。

「もう一人敵がいるんでそいつも相手しなきゃならないんで」

「片手間で俺を倒せると思うな。やれ」


 と言い男に命令した。

 すると男は火炎をためらいながらクラビに放った。

「ぐわっ!」


 ドードリアスは言った。

「お前達は敵を倒すより善人を救う方が先らしいからな、手は出せまい」

「くっ」


「卑怯者」

 とマリーディアに言われ癇に障ったドードリアスは彼女を蹴った。


 クラビは目をひそめた。

「人を服従させ攻撃させるだけでなく女も蹴るのかあんたらは」


「この男を盾にすれば手は出せまい。それにこの娘も止めを刺そうと思えば刺せていたのだがお前との戦いに利用する為に生かしておいたのだ。まあお前ごときガキに人質を使ったとあれば俺の評価が下がる。ここからは俺が相手してやる」


「くそ、一気に行ってやる」

 と言いクラビは最近手に入れた「強」のカードを入れ「強」「火」の組み合わせにして激しい火炎を出した。

「ふん」


 ところがドードリアスは剣を盾のようにして火炎を防いだ。剣は全く傷ついていない。

「なっ、あの剣どうなってるんだ。くそ」


 今度は通常のアンカーに「強」のカードを入れ射出した。

 アンカーは向かって行ったが、剣にぶつかりはしたのだが打ち払われてしまった。


「前より剣が重く強くなっている?」

「そうだ、サブラアイム兵の武器は現在全面改修中だ。博士をさらってね」

「あの事件はお前らだったのか」


「そうだ、さらにあの男達から奪った神の武器を解析し我が軍の科学とアンドレイ様の魔力で神の武具と同等の武器を大量生産しているのだ。そして今度はデュプス城に攻め込む予定でね」

「何だと?」


「お前の得意なアンカーは封じた」

「まだ剣がある」


 クラビは引き抜いた。

 そして構えた。


 向き合いながら、まずクラビの方から切りかかった。

「ぬう!」

「はっ!」


 クラビは攻めて行くが、まだドードリアスは様子を見ている。

 防御が硬く中々崩せない。


「はああ!」

 クラビは一段と気合を込める。

「ふふっ」


「くそ、何としても防御を崩して見せる」

 クラビは今までの力を出し切り攻めまくった。

 だが埒が明かない。


 ドードリアスは余裕の表情で言った。

「この前より少しスピードが上がったな」

「俺はずっと特訓してるんだ。経験値四十パーセントアップをずっと使ってたんでね」


 マリーディアは驚いた。

「えっじゃあずっと受けるダメージが四十パーセントアップだったの⁉」

「だがまだ実力不足だ!」


 クラビは跳ね飛ばされた。

「勇者のスキルだか何か知らんが最近剣を持ったガキが我々にかなうと思ったのか」

「くそ!」


 ドードリアスは男・フダンに蹴りを入れた。

「やれ」

「は、はい」


 とフダンは手から火を出し攻撃した。

「やめて下さい!」

「訴えるなら殺せばいいだろうはっはっは」


「くっ!」

 マリーディアは怒り立ち上がってドードリアスとフダンの二人を抑えにかかった。

「この女!」

 

 またドードリアスは蹴った。

「この女をやれ」

「し、しかし!」


 フダンは命令を聞けなかった。

「さっさとやれ! わが軍が金を渡さなければ貴様は妻子を養う事も出来ない男だろう」

「ひどい!」


 これにマリーディアは怒り剣で切りかかった。

 ドードリアスは防いだ。


「止めろ!」

 突如クラビの手から光の閃が出てドードリアスを襲った。


「何?」

 いつものクラビと声のトーンが違い、威圧感があり

マリーディアもドードリアスも異変を感じた。

 突然の出来事にドードリアスは呆然とした。


 クラビは悟った表情をしている。

 しかし当のクラビも戸惑った。

「はあ、はああ、あれ何か一時的に自分が自分じゃなかった様な。もう一人の俺が俺をコントロールしてた様な」


 女神は言った。

「もしかして一時的に勇者の記憶が戻った」


 またクラビの表情が変わった。

「射出型光剣!」

 光剣は急所を外したがドードリアスの肩をえぐった。


 クラビは混乱した。

「ま、また俺が俺じゃないみたいに!」

「確かに感じが違った、特に目つき」

 とマリーディアは思った。


 勇者のクラビが内面から語りかけた。

 ドードリアスの命を奪え、でないともっと犠牲が起きるぞ。時には非情にならなければならない。

 それが僕が戦いから知った事だ。

 

「これが俺の記憶」

 勇者の記憶は続ける。

「全力で奴を倒すんだ。それに君はマリーディアが好きなんだろ? なら彼女が傷つけられてもっと怒るべきだ」


「俺にあいつ殺せって言う事ですか。そ、そんな」

 ドードリアスは言った。

「貴様は甘い、悪のみでなく善も戦いでは人を殺す事は逃げられん。罪を背負う事が戦いに生きる事の宿命だ」 


 クラビは思った。

 あいつは確かにあの人を言いなりにしたりマリーディアを傷つけたりひどい。でもあいつの命をたやすく奪う事は…… 


      

      


   

 



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