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悲しき嘘 信頼の瓦解

 ビスコとの戦いから別れはパーティーに大きなしこりを残した。しかし感傷になるべくひたらず前向きに進もうと言う誓いを胸に皆はなるべくビスコの事は話題に出さないようにしていた。


 ジェイニーは口には出さないがビスコの事を思いながら歩いていた。

「お前いいやつだな」

「軽口ばかりだけどたまに真面目になるのさ」


「ボジャックと仲良くしろよ」

 そして自分を庇って撃たれた姿。


 そこへ声は聞こえた。

「よう」

 

 ビスコは、突如現れた。

 一行が町を歩いていた中後ろから。


 タイミングも含めて、皆当然驚いた。

 あまりにも。

「帰って来たよ、地獄の一丁目から」


 ジェイニーは微笑んだ。

 そしてクラビは本心から喜んだ。


「良かったよ、生きてて」

「サンキュー」


 前はやや懐疑的だったゾゾも信じ心配していた。

「あっ、アンドレイ達に追われてるんじゃないですか?」


「ああ、心配かけるかも知れないけど、実は追われてる。今逃げてるよ。だが俺は二度とあいつらに操られないようにするし、屈しない。だから……だから俺を仲間に入れてくれ」


 真剣な表情と響きは非常に皆に訴えかける物があった。

 彼がここぞで見せる真剣な表情。


 それが届いたのか、クラビは柔和に微笑んだ。

 疑心がみじんもなく。


「ああ、いいよ、女神さんいい?」

「ええ」


 ビスコは微笑を段々大きくする感情表現を見せた。

「ありがとう、うれしいよ本当に。信頼できる仲間が出来て。じゃあお礼にまた俺がおごるよ」


 そしてすっかり打ち解けたムードの一行は食堂に移動した。

 全員が誰もビスコを疑っていなかった。


 皆は少し遠慮しながら注文した。

 ビスコは言った。


「じゃんじゃん食べてくれ! と言いたいが、わかると思うが俺には今収入がないからあまり高いものおごれない。なーんて気にしないでくれ! 何でも頼んでくれ! お金なくなったらまたアンドレイに雇ってもらうわ」


「だーっはっは!」

 皆笑った。


 ビスコは言った。

「あ、あれ受けた? 不謹慎なギャグだと思ったけど」


 ボジャックは言った。

「まあ、お前のキャラクターは皆理解してるからさ」


 ビスコは表情に出さなかったがその言葉が非常に嬉しかった。

 こんないいやつらを騙せっていうのか……


 ボジャックはビスコの辛そうな顔に気付いた。

「あれどうした?」

「ああ、何でもない」


 二十分ほど時間が過ぎ、半分以上皆食べた頃、ビスコは真面目に切り出した。

「ボジャック、ちょっとだけ二人で話したい事あるんだけどいいか? 別に変な話じゃなくて」


「……? いいけど」

 マリーディアはそれまでビスコにあまり話しかけなかったが少し猜疑のこもった目で見た。

 しかし皆に気づかれないように。


 そして二人は便所近くに移動した。

 ビスコがためらいながら申し訳なさそうに切り出した。

 いつもの軽口口調ではない。


「あの、ジェイニーのことなんだけどさ……俺あいつの事好きって言ったけど、今は別になんでもないから」

「え?」


 今まで見たことがないほど真剣でかつ切ない表情でビスコは言った。

「お、お前はジェイニーの事好きなんだろ? 何となく分かるよ。でも俺は本当思ってないから。死にかけて本音が出たけどさ」

「お、おい、俺はジェイニー好きだって一言も言ってないけど……お前の言葉も最初は軽口っぽく聞こえたけど、最後はすごく真剣に聞こえた」


「いや、俺は本当に何でもないんだ! ドロドロしてくると今後の連携に響くだろ? だからそこははっきりさせておくよ。じゃあ俺は便所行くから戻っててくれ」


 しかしそこへジョルジョがビスコを待っていた。

「いいぞ、なかなか演技が上手かった。あいつらもお人よしだからすぐ人を信じるが」

「……」


 ビスコは身を削がれるほど辛かった。

 「くっ!」と拳を握りながら目を瞑った。

 しかしジョルジョは無情に言った。


「良し、計画の第二段階だ」

 それをマリーディアは隠れて聞いていた。

 彼女には珍しい盗み聞きだ。


 そして午後は怪物と戦う事もなく、夜はきちんとした宿に泊まる事になった。

 そして皆は一緒に食堂へ行き楽しみながら食事をした。


 ビスコは不意に切り出した。

「あ、あのジェイニー、ちょっと話があるんだが」

「?」


 そしてビスコ達二人は外に移動した。

 周りは音がしなく空気も冷えている。

 ジェイニーは何となく変な雰囲気だと思った。


 そしてビスコは、その空気を切り裂く様にあまりに核心をつく事を言った。

「あ、あの、俺お前が好きだ」

「え?」


 しかも畳みかけた。

「真剣に好きだ。ボジャックの事は忘れてくれ」

「な、何を言ってるの⁉」


「頼む」

 と言いジェイニーを抱き寄せようとした。

「何するの! 放して」


 皆は気になった。

「二人とも遅すぎないか?」

「俺が様子見てくる」

 

 ボジャックは抜け出した。

 一方ジェイニーは抵抗した。


「どういう事⁉」

 そこへジョルジョが現れた。

「ふふ、なかなか強情な娘だな。では催眠術師の催眠を受けろ」


 ジョルジョの部下の催眠術師はジェイニーに催眠術をかけた。

「きゃあ!」


 その頃ボジャックは捜索していた。

「どこだろう、あれ?」


 ボジャックが気づくと、ジェイニーは催眠術にかかりビスコと抱き合おうとしていた。

「え⁉」


 しかし物音に気付いたビスコはキスをしないで振り向いた。

「誰だ!」


 とビスコが言うとさっとボジャックは逃げた。

 ジョルジョは言った。


「くっくく、すべて思惑通りにいった」

 それをマリーディアは陰から見ていた。


 今私が出ていくとまずい事になる。

 チャンスを伺わないと。


 一方ボジャックは一人で苦しんだ。

 ど、どういう事なんだ。

 あいつわざわざ俺に「ジェイニーに気がない」って言ったのに。


 それにジェイニーもいつあんなになったんだ?

 もしかしてアンドレイに操られるか脅されてる?


 いや、あいつはそう言うせこい事をするタイプじゃないし。

 これから一緒に行動するってのになんなんだこの嫌な気持ちは。

 明日、それとなく聞いてみよう。


 ジョルジョは言った。

「見事に芝居を打ったな。正面からではなくまず奴らの信頼関係を瓦解させるんだ。内部崩壊と言うやつか」


 ビスコは何も言えなかった。

 何でこんな事しなきゃいけないんだ!

 せっかく信じあえる仲間と会えたってのに!


 こんな事するなら戦って死んだ方がましだ。

「手紙も書いておけ」

 とジョルジョは言った。


 翌朝、置手紙を残しビスコはいなくなっていた。

「すまない。どうやらアンドレイ達が俺を激しく追って調べているみたいなんだ。このままでは皆に迷惑が掛かる。ここは一旦離脱させてくれ。せっかく信じあえたのにすまない」


 ボジャックは思った。

 なんてこったいなくなるとは。

 これじゃそれとなく聞けないじゃないか。


 あいつが一緒でもそうかも知れないが。

 余計わだかまりが大きくなった。

 これからきつい戦いなのに。

     

 


 



  


 


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