ビスコ対アンドレイ
「はっ!」
ビスコは目を覚ました。
しかしここは病院ではない。
また、墓から出てきた訳ではない。
「目覚めたか」
と言う声で驚いて周りを見回すとそこは見慣れたサブラアイムの基地だった。
ビスコは呪術の儀式に使用する様な寝台の上に寝かされていた。
声の主はアンドレイだった。
「……!」
ビスコはきっとアンドレイを睨み付けた。
アンドレイは言った。
「いやそうな眼だな、私に体を治されたのが嫌だったかな?」
「……」
「病院からお前の体を持ち出したのだ。警官や看護婦は騒ぐから殺しておいた。安心しろ騒ぎにはなっていない」
「……」
「復活していきなりだが、新しい任務に就いてもらう。喜べお前にしか出来ない任務だ」
「俺にしか出来ない任務? クラビ達を倒せと言う事か?」
「おっと敬語を忘れたかな」
アンドレイがそう言うと、ばっとビスコは起き上がった。
そして叫んだ。
「俺はもうあんたには操られない!」
「……」
さらに言った。
「大切な事をクラビ達が教えてくれたんだ!」
一段階アンドレイの表情が険しくなった。
アンドレイが右手を前に出す。
アンドレイの魔力でビスコの首が絞まった。
凄まじい力だ。
「ぐっ、ぐぐっ!」
「貴様の力で私の魔術が振り払えると思うか? 言う事を聞くのかどうなんだ?」
ビスコは苦しみながら答えた。
「こ、ことわ、る……」
しかし従わないためさらに締め方がきつくなった。
「まだ従わぬか?」
「うおおお」
ビスコは反抗と苦しみで叫ぶ。
するとアンドレイは一旦力を抜いた。
その反動でどさりと脱け殻の様にビスコは倒れた。
そしてアンドレイは言った。
「死ぬのが怖くないとか私なんかには屈しないとかそういう事か」
本当に必死にビスコは声を絞り出した。
「そ、の通りだ、俺は二度と貴様の言うなりには……」
アンドレイは淡々と話す。
「だから言ったろう。私は簡単に貴様を殺せるのだ。絞めるのではなく一瞬でな。どのみち貴様が生存するには私の言うとおりにするしかないのだ。回復させてやった事を仇で返そうとは恩知らずな奴だ。いや貴様を手塩にかけ好待遇を与えた事も全て忘れたのか? 私に従ってさえいればいつでも高い金が手に入りわが軍での地位も保証されるというのに」
ビスコは気力が限界ながら必死に抵抗の意を示した。
「あんたには確かに世話になったよ。それで美味いものも食えた。だがそんなのは正しくないって事が分かったんだ。いや最初からだ!」
「それをクラビ達が教えてくれた、とでも言うのか」
「そ、そうだ、うわっ!」
言い終わる前にビスコは衝撃波で吹っ飛ばされた。
「言ったろう貴様を殺すのは簡単だと。今死ぬか」
ジャキイイン!
と剣を抜いたビスコは心臓に刃を当てた。
ビスコは覚悟を表明した。
「自分で死んでやるさ!」
そこには一切ためらいや死の恐怖がなかった。
前はあったかも知れないが今はない。
しかしアンドレイは動じない。
「ふふ」
ビスコの突き立てた剣が体に入らない。
さすがに困惑した。
「どういう事だ?」
アンドレイはそれを見てにやりとした。
「ふふ、貴様は二度と自害出来ない体になったのよ」
「何だって!」
動揺するビスコに畳み掛けた。
「さあどうする。従わなければ死だ」
しかしビスコはそれでも抵抗の意を示した。
「俺は、クラビ達の敵にはならない」
するとアンドレイは別の手にでた。
「では貴様を石像化する。意識のあるままでな。お前は永久に解けない呪いの中意識だけで苦しむのだ」
しかしビスコはわずかな沈黙の後力強く言った。
「……かまわない」
「何?」
それが意外だったのか、アンドレイは少し黙った。
しかし落ち着いてすぐ切り出した。
「ほう、ならば、貴様の脳と精神をコントロールし無差別に人を殺させるぞ!」
「何⁉」
これはビスコも受け止められなかった。
しかもアンドレイはさらに言う。
「言っておくが気力で対抗できると思わんほうがいいぞ」
ビスコはついに破れかぶれになった。
「どうすればいいんだ? クラビ達を倒せばいいのか?」
「やっと置かれた立場が分かったか。ふん、最終目的はそれだ。だがまずはやつらをだませ。だまして信頼関係を失わせろ」
「え?」
「あいつらはお前が完全改心したと思い油断し信頼している。それを逆手に取ってやつらの信頼関係を失わせろ。奴らには実力以上の妙な力がある。人間の信頼とか情とかいうものだ。ふん、それが命取りになる事を教えるのだ。案外、正面勝負するより簡単に奴らを瓦解させられるかもしれん。だがすぐには動くな。まずジョルジョとじっくり策を練っておけ。それまでは他の戦士が奴らの相手をする。そう焦るな」