クラビ暴走 ゾゾの想い
「クラビさんが暴れて医者を殴って窓から逃げました!」
待合室のボジャック達に激震的報が伝わった。
「な、なんで!」
看護婦は説明した。
「突然目の色が変わり、猛獣の様に『グルル……』といきりわめき暴れだしました。理性を完全に失い言葉も通じないように」
「脳波をやられて後遺症でも残ったのか?」
看護婦は言った。
「ちょっと警察を呼んで事情を伝えないと、クラビさんが連行されるかもしれませんが」
「そんな」
ボジャックは聞いた。
「病院からどちら側へ行きました?」
「窓を割って西側です。走って獲物を追うかのように」
「女神さん、何故だ?」
「もしかしてさっきの光線は脳を攻撃し理性を失わせる攻撃だったのかもしれない。でもさっきは勇者の魂がなくなって力尽きたんだけど、今度は回復しておかしくなったのかも」
ジェイニーは言った。
「まずいわよ、クラビ医者も殴ってるんだし、これ以上何かしたら連行されるかも」
「急ごう!」
一方、外を全力で走るクラビは走りながら男性を殴り倒した。
女性は悲鳴を上げ、他の男性は混乱した。
それをコンコルンとスタグラーは見ていた。
「体力を回復したのが裏目に出たようですな。これであいつは連行され表も歩けなくなるでしょう。こうなれば噂も広がり町に滞在する事も出来なくなるでしょう」
クラビは我を忘れ猛獣と化した。
一切の理性を失い暴れた。
悪い事に人が多い通りだ。
一人、また一人と通る人達を次々クラビは殴った。
雰囲気が騒然となった。
「いい加減にしろ!」
と正義感の強い中年が勇気を出しクラビに向かって行ったが逆に思いきり殴り飛ばされた。
突如、割と体格のいい二十台の若者が後ろから羽交い絞めにした。
「君は普通じゃない! 催眠術にでもかかっているんだろう! 目を覚ますんだ!」
しかしクラビは言う事を聞かず暴れ腕を振り払った。
力も上がっている様だ。
そして振り向きざま剣で男の腹を刺した。
「きゃあ!」
「あいつ人を殺しましたよ! これで終わりだ!」
コンコルンは笑った。
そこへボジャック達は来た。
「クラビ!」
「うう……!」
「クラビ、目を覚ませ!」
「クラビさん正気に戻ってください!」
「クラビ!」
ボジャックとゾゾは後ろから押さえたが全く聞かず振り払われた。
マリーディアは叫んだ。
「二人共逃げて! 私が説得するわ! クラビお願い!」
「うう……」
クラビの動きが止まった。
目つきは同じだが声が少し弱くなっている。
コンコルンは危惧した。
「あの娘はクラビの惚れている娘か! よし!」
突如角から兵達が現れマリーディアに襲い掛かった。
「くっ!」
「この娘を押さえつければ説得できるものはいまい!」
ゾゾは言った。
「俺が何とかして見せる」
ゾゾは孤児院時代を思い出した。
回想に入る。
教室で前にクラビがくれたスラン語辞典を読んでいた。
そこへ女の子が来た。
「あれ、スラン語辞典てすごく高いよ? 買ったんだ?」
「いや、クラビさんが図書館で借りてきてくれたんだ」
「でも帯やナンバーがふってないよこれ」
「あっ本当だ」
ゾゾはクラビに聞いた。
「クラビさんこれどこで借りたんですか? 俺が返しに行きます」
「え? あ、ああいいよもうしばらく!」
クラビは何故か慌てて去った。
それを女性職員が見ていてゾゾに声をかけた。
「やっぱり、クラビ君はその本買ったのね」
「え?」
「おこずかいを三か月前借りどうしてもしたいって言ったんだけど、貴方にその本を買ったのね」
「え?」
ゾゾはクラビの元に急いだ。
「クラビさんこの本買ったんですか! もらえませんよ払い戻ししてください!」
「もう使っちゃったから返品出来ないし、まあ気にするなよ」
「何故俺の事を」
「勉強したいって言ってたからさ。先輩ならそれくらいしないとね」
「俺、必ず働いて返しますから!」
「出世払いでいいよ」
回想を終わる。
ゾゾはクラビの前に出て叫んだ。
「クラビさん! これ返そうと思ってたお金です! 受け取って下さい!」
「ウーウー!」
しかしクラビは全く大人しくならない。
そして近づき袋を吹っ飛ばした。
そしてゾゾを思い切り殴り飛ばした。
「うう」
「…ぐ!」
クラビは苦しみ頭を押さえた。
かがみこんだ。
そして突如コンコルンの方を向きとびかかり押さえた。
コンコルンは焦った。
「何を!」
「勇者の魂を操られないよう全て放出する!」
そしてクラビはその場で爆発を起こした。
呆然とする一行。
そして、煙が収まるとそこではコンコルンは爆死しクラビは力尽き倒れていた。
「クラビ!」
女神は説明した。
「心をコントロールされないように勇者の魂を全て放出したのよ。力を犠牲にしてまで」
そこへスタグラーが現れた。
それを見たマリーディアは激しく睨んだ。
「こんな卑怯な手を! 許さない!」
マリーディアは怒りスタグラーに突進した。
それをスタグラーは一応よけたが、腹を少しかわした脇を切られた。
ゾゾも興奮した。
「俺も行く! 毒海蛇の舞!」
これもスタグラーは半分だけよけた。
スタグラーがわざと食った様に見えてマリーディアは少し怒りが収まった。
「あなたは、わざと当たった……?」
「俺もそう感じました」
スタグラーは血の流れるわき腹を抑えた。
「少々卑怯な手を使いすぎた。武人として恥ずかしい。君達とはまた正々堂々やろう。クラビの脳波はもう大丈夫だ。病院に連れて行きたまえ」
そう言ってスタグラーは背を向け去った。
皆何故か怒りの感情が全てではないが消えた。
そしてクラビは病院に運ばれ回復した。
事件も「催眠術にかかっていた」と言う事で無罪となった。