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絶望の穴の中

2023年9月4日投稿しました。

 それはいきなりだった。

 一行は落とし穴に落ちたのだ。


 ダンジョンではなく普通の野外で。

 ちょうどぎりぎり五人入れる深さ十メートル程の細い穴だ。


 しかし、例えば盗賊や山賊が誰かを捕えようと掘った穴ではない。

 それは罠を張った人間が説明した。

 サブラアイム兵は穴の上から笑いながら言った。

「はーっはっは! まんまと引っかかったな!」


 ボジャックは言った。

「ちょっと待て! こんな広い屋外で何で俺たちがここを通るってまるで知ってるかのように罠を作ったんだ」


「スタグラー様が『ここに掘れ』と仰ったのだ。理由はそれだけだ」

「何でわかんだよ!」


 クラビは言った。

「スタグラーは勇者の脳波が分かるみたいな事を言ってたけど」

「じゃあ、俺達の先の行動や行き先を知ってたのか。何て恐ろしい奴だ」


 サブラアイム兵は勝ち誇った様に言う。

「これから貴様らは出る事も出来ず灼熱の暑さの中息も出来ずに死ぬのだ。餞別にこれをやろう」


 と言い袋を放り投げた。

「何だこれ」


 袋を開けると大きな美しい宝石が入っていた。

 ジェイニーは見とれて触ろうとする。

 ボジャックは止めた。


「おいよせ!」

「きれーい」


 ジェイニーが触るなり宝石は爆発を起こした。

 皆は体を焼かれた。命に別状はないが。


 ボジャックは怒った。

「何で触んだよ! 大体大金持ちの癖に何で宝石欲しがんだよ!」

「そ、そんな大金持ちの癖にとか言わなくたって良いじゃない!」


 マリーディアは止めた。

「喧嘩するよりここから出る事考えましょう」


「これもやるよ」

 と言いサブラアイム兵は水晶玉を投げた。

「なにこれ⁉」


 サブラアイム兵は説明した。

「その玉は片方は酸素を吸い取る効果がある。もう一つの玉は周囲の温度を上げる効果がある。かなり速いスピードでな。貴様らは息も出来ず灼熱の暑さの中で死ぬのだ。なぶり殺しだ」

「そうはいくかよ!」


「残念だな」

 サブラアイム兵は重い鉄板で蓋をした。   

 二つの玉は酸素を吸収し気温を上げて行った。


 ボジャックは言った。

「この玉壊せばいいんじゃないか」


 マリーディアは急いで止めた。

「だめよ! その玉を傷つければ効果がもっと上がってしまうの!」


「じゃあ、あの鉄板を破壊しましょう」

 と言ったジェイニーは渾身の火炎魔法を放った。

 ところが蓋をしている鉄板はまるで壊れない。


「ありやただの鉄の板じゃないぞ! よし、俺が剣の波動を飛ばす! 地剣爆斬!」

 波動は放たれたが、蓋は全く傷ついていない。 

「どうすれば!」


 二十分が経過し酸素は薄くなり温度は四十七度に達した。

 さらに上がり続けている。

「う、うえ」

 皆体力をかなり消耗していた。


 女神は気づいた。

「あの蓋と穴にほんのわずかに隙間が見えるわ! 私ならくぐれるかも!」

「そうか! 頼む!」


 その頃、スタグラーは穴の上で部下と話していた。

 彼はコンコルンと言う名だった。


「スタグラー様、貴方が勇者の脳波や気配を知る事が出来るのは本当ですな」

「しかし長時間は持たん。強い精神集中を必要とする」


「ふふ、パルマー邸から逃げ帰った兵士が『スタグラー様は勇者の気配を感知する能力を持っています』と私に告げ口したおかげです。貴方もそこまで予想出来なかったでしょう」

「……」


「この事をアンドレイ閣下に黙っている代わりに私の作戦に力を貸していただくと言う持ちつ持たれつの関係ですな。これで勇者を倒せれば私は出世間違いなし」


 その間女神はついに蓋の間をすり抜けた。

「やったわ! 後は人間の大きさに戻って蓋をどければ!」


 女神は等身大に戻った。

「えっ⁉」


 ところがそこに多くの兵が待ち伏せしていた。

「くっ!」

「はっはっは、我々を舐めるな! 殺すよりも捕らえるのだ! 蓋を開けさせないようにしろ!」


 ボジャックは不安に包まれた。

「どうなってんだ地上は!」 


 女神は素手で戦った。しかし多勢に無勢だった。

 数人がかりで取り押さえられてしまった。


 コンコルンは穴に向け言った。

「はっはっはあの娘は捕らえたぞ! これでもう蓋をどけられるものはおらん!」

「くそ!」


 クラビは言った。

「いや、まだある」

「えっ⁉」


「あの隙間にアンカーを突き刺すんだ。それで上に登る。であの板は超頑丈だから俺の『勇者の魂・怒りの鉄拳』で破壊するんだ。右手でアンカーを使って登り空いている左手でパンチを出すんだ」


 ジェイニーは言った。

「成功するかしら」

「それしかない」


 クラビは全身の力を溜めた。

 そして溜め終わるとアンカーを射出した。


 すると上手く引っかかった。

「やった!」


 アンカーをたどりクラビはするすると登った。

 そして蓋の前に来た。


「よし行けっ! 『勇者の魂・怒りの鉄拳!』」

 しかしそれでも板は砕けない。

「もう一発!」


 二発放ったがそれでもだめだった。

「諦めないぞ!」


 三発目を放ったが駄目だった。

「まだだ!」


 遂に六発目。

 すさまじい音とともに蓋は粉々になった。


 兵達は驚いた。

「何だ⁉」

「まさか! あの板を破壊するとは!」


 皆はクラビに捕まり地上へ出た。

 クラビは叫んだ。

「ここから反撃だ!」

 


この話の続きは現在執筆中です。

近いうちに載せます。

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