暴れる動物 アンドレイの企み 殺人犬軍団
力を使い果たしたクラビはよろよろしながらやっと直立し、はあはあ息をして絞り出す。
髪の毛と衣服が焦げて匂う。
「手強かった……化けてる訳でなく、人間でもドラゴンでもある存在か」
ボジャックは言う。
「ああ、つまりは怪物のパワーと人間としての高度な知性を併せ持った敵になるわけだ。かなり始末が悪いな」
女神は言う。
「もうデュプス王国に多くが送られて生活してるかも。いよいよアンドレイが侵攻を本格化させてきた。彼はしっかりと計画を練るからもう下ごしらえが水面下で一杯進んでるのかも」
マリーディアは言う。
「知性を持った怪物でも人間である敵が町の真ん中に現れて人々を襲う、不安ね」
ボジャックは言う。
「もう俺達が遭遇して来た怪物にもアンドレイの呼び出した特殊な魔物が混じっていたのかもしれない、迂闊だったなあ」
ジェイニーは言う。
「最近思うけど、本来いないはずの場所に怪物が生息したり、草食動物が狂暴になって襲い掛かってきたり、平原にいる動物たち様子がどこかおかしいのよ。各地でそういう報告が出てるわ」
「そういやそうだ。猿やゴリラが獰猛に襲い掛かってきたり、犬がまるでライオンみたいに獰猛だったり。群れを組まない別種族同士が組んでたり、もっと気を張ってれば何かおかしい事に気づいたかもしれない。そもそも俺とクラビが再会した時も森にサーベルタイガーいたよな。本来森にあれがいるなんておかしい。旅に出た頃熊やらサイやら狂暴なでかいのが連続して出てきたし。いつからこんな危険になったんだ」
「じゃあもしかしてアンドレイ達がサーベルタイガーを見張り役みたいに入り口に配置してたのか」
「何か不安が大きくなって道も安心して歩けなくなるな」
女神は言った。
「考えすぎかもしれないけど、ライオンや虎がいきなり村に入って来たり、無害な草食動物がおそいかかって来る事が起きるかも知れない」
「いや考えすぎじゃない」
デュプス王国では動物、魔物の被害が大きくなっている事からの事件報告が王に寄せられていた。
「報告致します。最近、本来人間を襲わない動物が肉食の様に人間を襲ったり、ありえない場所に肉食動物が現れて襲われた被害が急増しております。ワニが草原に現れたり、山登りをしていた際猿の集団にかみ殺された後に食べられた人もいるらしいです」
「どういう事だ……」
一方クラビ達はギルドに戻って報告しためらったがドラゴンを倒した後に人間に変化した事も伝えた。信じてもらえなかったとしても。
そして王達は決断した。
「よし、平原の守りを固め、動物たちの調査をする」
その後パトロールに出た兵士の前に突如牛とヤギが現れた。
のどに長いたてがみのあるバーバリシープとねじれた角を持つ二メートル八十のイランドだ。
(※イランド:大きさ二メートル四十~三メートル八十。ねじれた角、明るい色のぶちとしまを持つ。アフリカ中央部から東部の平原か半砂漠に住む)
(※バーバリシープ(ウシ科):オスの角は大きく太く後ろへカーブし戦うときに使う。前足の付け根に長い毛が生えている。一メートル三十~一メートル七十。サハラ砂漠周辺の山岳地帯の岩場に住む)
その二頭は見るなり襲い掛かって来た。
「どう言う事だ⁉ まるでライオンだ!」
兵士はイランドの体当たりで吹っ飛ばされ、後ろへカーブした巨大なバーバリシープの角で刺され死んだ。
更にイノシンとノロジカまで暴れだした。
アンテロープのリードバックも現れた。
(※リードバック:一メートル三十~一メートル七十メートル。天敵が近づくと口笛の様な声を出し高くジャンプし逃げる。アフリカ南部の湿地のあるサバンナに住む)
群れをなし突進して人を襲う。
木から降りてきたアイアイが鋭い爪で人を襲う。
(※アイアイ:大きさ約四十センチ。本来夜行性で単独行動。中指は非常に鋭い。マダガスカル島の森林に住む)
地上に降りないはずのオナガザルのホオジロマンガベイが木から飛び降りまるで殺人者の様に人の首を締めて殺した。
さらに水辺でカバが人を襲った。
兵達は闘犬や猟犬を魔力で強化した軍団を率いていた。
「殺人闘犬軍団だ。こいつらを民家に放つ」
一品種でなく様々な国、地方から集められた犬の群れだ。
(※ブル・マスティフ:マスティフとブルドックの混血。ライオンと戦った記録がある。密猟者を押さえ込むのが主な役目で荒武者的イメージがある犬)
(※ベルジェ・ド・ボース:フランス古来の護羊犬。とても強い。気性が激しく警護のみでなく軍用犬や警察犬にも使われつつある)
(※ホーファヴァルト:荘園の番犬が名前の由来。厚い毛皮に覆われている。千九百六十四年ドイツの公認使役犬に指定された)
(※ディアハウンド:スコットランドの鹿狩り犬で名門出身。ヴィクトリア女王が所有し評価が上がったに扱いにくい)
(※カオ・ダ・セラ・ダ・エストレラ:ヨーロッパ西部、ポルトガルのエストレラ山地の伝統的な護羊犬で警戒心が強い、すぐ攻撃態勢に入る性格)
(※アイリッシュ・ウルフハウンド:古代ローマ人に狼狩りに使われ王の随伴犬でもあった。家庭では優しく穏やか)
ずらり並んだ闘犬・猟犬達は今か今かと人間に噛みつきたがっていた。
その頃アンドレイ達はほくそ笑んでいた。
「デュプス王国の動物に性質、習性を変化させる薬を打ち野に放つ数か月前からの計画がようやく効果を発揮して来た。これからは草食動物と安心した者は襲われ、あり得ない場所にいた肉食動物に国民は襲われて行くだろう。そしてデュプス城テロ計画を完璧な物とする」
その頃クラビはスキルチェックをしていた。
ボジャックは言う
「射出型光剣ってとんでもない技だったな。あんなのがいつでも使えればどんな敵にも勝てるぜ」
クラビは言った。
「いや、多分思い通りには使えないと思う」
「何で?」
女神は説明した。
「ほら、『射出型光剣』と『超怪力』『素手挌闘』『アンカー威力向上』の四つがグレー表示になってる。これは習得してるけどいつでも使えるわけではない、って意味よ。恐らく感情が高ぶり勇者の記憶が戻ると使えるようになるの」
クラビは思い出した。
「『超怪力』はキーマを助けようと岩を受け止めた時、『素手挌闘』はスタグラーとの戦いでゾゾを助けた時、『アンカー威力向上』はこれまで何回か使った」
「じゃあ、あてにしちゃだめか」
女神は付け加える。
「それと、大危機に陥ってもスキルで逆転できるさ、と言う侮りや油断が少しでもあると神の使った体は反応しなくなるわ。神に近い位一途で純な心になった時しか反応しないみたいなの。ごめんね知識が不十分で」
そしてドラゴン戦のダメージをある程度回復した一行は本来の依頼である鉱山の盗賊退治に向かう事になった。
その時、何者かが現れた。