休息から回想へ アンドレイ登場 勇者への道のりの決意
2023年12月7日改稿しました。
一方その頃、傷ついたザーゴンがサブラアイムの王宮に入った。
中は屈強な兵士達が機械の様に厳重整列している。
殺気だちいつでも戦争しそうな雰囲気だ。
ザーゴンは血をたらし、破れた法衣を庇うように着ながら苦しそうに歩く。
異様な存在感に兵達も思わずどよめき怯えた。
ザーゴンは悔しさと正体不明の敵への不安を抱き、かつ敗北の報告に対する激しい緊張感もみなぎらせていた。
これからあの御方に報告せねばならん……
死をも覚悟する様な心境だった。
「えっ、ザーゴン様が深手を? 何があったって言うんだ」
兵士は駆け寄った。
「ザーゴン様手当を!」
「いやいい、それより閣下に報告を」
と言い王の間によろよろと向かった。
扉を開けると王らしき人物が座っている。
彼こそ国王に化けたアンドレイと言う男だった
四十五歳くらいのやせ型で凄く屈強ではない。背も小さめだ。
一見すると体格に迫力がなく王としては舐められそうにも見える。
どちらかと言うと嫌らしい商人とプライドの高い貴族を合わせもった様な雰囲気だ。
子悪党的にも見える。
しかし彼は仕草、態度で悪の王の雰囲気を見せる。
無関心そうでいざと言う時はぎらりと威光を光らせる目。
またそれでいて狡猾そうな面も見える。
そして時おりとんとんと椅子を指で叩く仕草がイライラの表現と威圧を兼ねる。
やや猫背、顔は長く尖った顎がひときわ大きく目立つ。トレードマークの様だ。
服はタブレットとラフ、ブリーチズをつけていた。
あごひげが際立って伸び、それをたしなみの様に触る。
それが自信や余裕、悪のプライドを表していた。
兵は皆傷ついたザーゴンを見て何事かと言う。
しかしアンドレイ王は冷めていながら奥の厳しい目を崩さなかった。
アンドレイ王はわざと重く口を開く。
「どうした」
明らかに重大時だと分かる態度をわざと取る。
「ご、ご報告いたします。洞窟での作業中、おかしな四人組が現れ、兵は全滅、私もこの様です。も申し訳ありません」
「四人組?」
アンドレイの目付きが変わった。
奥が光った。
「その内の一人は貴族クレゴスの息子でした。そいつは殺しましたが、他に三人、十代のガキとは思えない腕の立つ剣士がいまして、兵達がやられました」
「……」
「中でもそのガキの一人におかしな武器を使う者がおり、そいつの能力でやられました」
「おかしな武器?」
また表情が少し変わる。
ザーゴンは汗をたらす。
「は、手に付けた腕輪から紐でつないだアンカーを発射してくるのです。非常に速く重く、しかも火や氷を出したり岩を持ち上げたりしてきます」
何かを思い出したようだった。
「ぬ? それは地上の武器ではないな。それにそのガキとやらは何者だ」
「クラビとか呼ばれていたのですが、あまり戦闘的な外見でも名の知れた剣士でもありません」
「クラビだと⁉」
アンドレイは名前を強調して聞いた。
そして乗り出した。
そして続けた。
「そのガキ、何かおかしな能力を使ったりしなかったか」
「は、手から属性不明の光線を出したり体がまばゆく光り始めました」
アンドレイは考え込んだ。
「考えたくはないが、そいつは私が十二年前に殺した伝説の勇者だ。名前が同じなのは偶然なのかと思ったが、そいつの能力や地上にない武器等、おそらく同一人物だ。間違いない」
「勇者」
「だが完全に息の根を止め記憶も封印したのに何故だ。人間に人を生まれ変わらせたり私の記憶縛りを解ける者などいない。とすれば、天界の神が何かしたのか」
「……」
「もしそうであればうかうかしておれん。何らかの理由により勇者がよみがえったのだ。なんとしてもここで潰さなければならん。直ちに追っ手を差し向けろ」
ザーゴンは無理を言った。
「私が行きます」
「しかし、その怪我でか」
「こんな怪我など」
その時別の司令官スタグラーが来た。
「私に行かせてもらえませんか」
彼は軍人としての威圧感と貴族の様な高貴さも併せ持った雰囲気である。
圧はあるが殺気があまりない。
鎧は着ておらずナポレオン時代の上流の男の様な服装だ。
「貴様の手など」
とザーゴンは拒否した。
しかしアンドレイは答えた。
「良いだろう。では二人で兵を率いて行け。ザーゴンは特にこれが最後のチャンスと思え」
「はっ!」
アンドレイは大勢の兵の前で顎をさすり高らかに笑った。
「それにしてもふっふっふ……どう生き返ったのかは知れんが、勇者め二度目も私に殺される事になるとはな、くっくっく、はーっはっはっは!」
冷酷で自信に満ち溢れた笑いに兵達は震えあがる。
「それとデュプス国民を何人かさらい、少しでも勇者の事を知っていそうな者がいたら連れてこい」
早速一人男性が縛られ連れて来られた。
アンドレイは恫喝した。
「勇者について知っている事を吐け」
「し、知りません、知らないんです‼!」
アンドレイは男の顔を思い切り蹴った。
「あ、あうう」
さらに腹にパンチを入れた。
「ゆ、許して」
「ふん、殺しておけ」
その頃デュプスのある農地で夫婦で農作業をしていた農民の前で突如地面が大爆発を起こした。
作物は勿論夫婦もバラバラになり黒こげになった。
アンドレイはほくそ笑んだ。
「この前洞窟に仕掛ける予定だった農地に仕掛けておいた魔法爆弾を爆発させた。これで農作物が減っただけでなくデュプスがまた滅びと死に近づいた」
「ひいい……」
兵達は怯えた。
さらにアンドレイは直立不動の兵達に大声で誓わせた。
「我々の目的はデュプス国民を奴隷化し、いらなくなったら殺す事であります! 夢も希望もない地獄の国に、独裁者が支配する国にします!」
「その通りだ。私はサブラアイムとデュプスの王となる」
兵達は震えあがっていた。
一方、ボジャック達は道で旅を続けながら話しあった。広がる草原と木々。
冬で寒いが晴れていた。
「今後の方向として、奴等の本拠地サブラアイム城を目指す! 何日かかるかな、馬車ないし。とりあえず最短距離を行くようにするのがベストか」
クラビが答える。
「そうだな。ただその前にデュプス王様に会って国の危機を教える。サブラアイムのアンドレイの正体と目的を伝える必要がある。だだ国の人がどう捉え考えるか。もし今後サブラアイムの侵略が進んだら遅かれ早かれ国を守る為戦争になるかも知れない」
「戦争……」
「うん、だからなるべく早くアンドレイを倒して戦争を防がなきゃいけない」
「よし、まずはデュプス城、そしてサブラアイム城が最後だな。町を中継にしながらデュプス城まで六、七日で行けるだろう。その後サブラアイム城は七日位だろう。徒歩だと計十五日前後。馬車は乗ってる時に襲われかねない。デュプス城はともかく、サブラアイム城はアンドレイ達を倒すために行くんだからそこまでにすごくレベルアップしなきゃだめだよな、どれくらい強くなればいいんだろう」
女神は言う
「レベルにして八十位かしら」
「ひええ! 気が遠くなる!」
クラビは言った。
「それと最短距離は魔物が多く出る所に出る可能性もある。それと、もう一つはアンカーに入れるカードって地上に散らばってるんですか」
女神は説明する。
「ええ、宝箱に入ってるわけじゃない。地表全て水の中や石の下にも紛れてるわ。風景と一体化するように。『はい宝です』って置いてある感じじゃないの」
「わかりにくそうだね」
「近くに来ればアンカーが反応して音と光を出すわ」
「なるほど」
「古代文字カードを増やさないとアンカーの力を引き出す事が出来ない。これから先どんな敵が来るかわからない。その為には最短距離ではなくカードを集めながら行く必要があるわ。それともう一つは貴方自身が勇者の記憶と能力を引き出す努力をしなければならない」
「えっ? 記憶を引き出す? 能力も」
女神は続ける。
「記憶と能力を引き出し更に今の貴方の人格をプラスして真の勇者になるのよ」
クラビは唾を飲んだ。
「真の勇者」
「そして、今度こそアンドレイに勝つの。貴方の弔い合戦よ」
女神は続ける。
「それは私たち神の力でも出来ない。方法は分からないけど貴方の力でやり遂げるの」
クラビの顔が引き締まった。
「俺の力でやり遂げる」
女神は続ける。
「昨日の戦いでは急に技が出せる様になったけど、きっと感情とか何かが引き金やきっかけになってるのよ。でもそれだけじゃだめ。これからは」
「……」
「まぐれとかじゃなく、本当に強くなる必要があるわ。だからこれから肉体や剣術の修行をして使いこなせるようにしていく必要があるわ。そして最強の勇者になるのよ」
クラビは強く言った。
「強くなる努力をして成長し、真の勇者になるって事か。大変な道になりそうだな。わかった。やって見せるよ」
「本当? 嬉しいわ!」
「でも昨日、何で使えたんだろ」
「わからないけど、他人を救う為とか悪を許さないとかそういう感情が引き金になり体の一部一部が覚醒して行ってるんだと思う」
女神は続ける。
「これからは覚醒の過程も考えて行くの。肉体の努力と感情のコントロールとかで、何によって力が引き出されるのかこれから考えて行かなければならないのよ。あと万能アンカーは貴方の魔力を消耗する。一日に何度も使える訳じゃないわ」
旅は徒歩で続いていた。
ボジャックとゾゾが言う。
「しかし大変だったな昨日は。クラビの隠された力見れて良かったけど」
「俺もびびりましたよ」
クラビは思い出した。
「自分がそうしようというより何かに動かされてたみたいだった」
ボジャックは言う。
「でもあいつずっとお前をいじめてたんだろ? それなのにあんなに怒るなんて」
ゾゾは言う。
「やっぱりすごいすよ、昔からクラビさんは度量っていうか。やっぱり孤児院の時から王様になりたいっていっただけあります」
孤児院時代の回想に入る。
「はい! 僕の夢は王様になって平和な国を作る事です!」
少し間を置いて皆大笑いした。
最初何故笑われているのか分からないクラビだったが恥ずかしそうだった。
しかしゾゾは拍手した。
ボジャックは言う。
「あの時、只者ではないと思った」
クラビは言い返した。
「本当かよすましてたじゃん」
「半分はね。どうやって孤児で王位に就くんだって。でも何か本当にやりそうな気もした。出来ない、出来るが七対三位の割合で」
ボジャックは懐かしみ嬉しそうに言う。
「でも何か月ぶりだっけ三人揃うの。一年近くか。でもまさか悪党退治の冒険の旅に出るとはね。いつまで使用人やるのかと思ってたけど運命って本当不思議だよな」
クラビは笑顔で答えた。
「そりゃそれを担ってる女神様がここにいるんだから」
「別に担ってると言うか救う感じね」
ボジャックは言う。
「この先に何があるか不透明だしさっきまで大騒ぎだったし不安と言っちゃ不安だけど、やっと目的のはっきりした生き方が出来る事になった。俺はようやく日の光を浴びられた気分さ、開放感って言うか。お前も暗いクールな顔直せよ」
ゾゾは言う。
「俺は元々こういう顔っすから」
ボジャックは回想した。
「孤児の頃暗かったよな」
「それをクラビさんが変えてくれたんです」
女神は感心した。
「ふーん、そうなんだ。何があったの?」
「今度詳しくお世話になった事話しますよ」
「クラビ人望厚いのね」
ボジャックは言った。
「暗いと言えば俺も耐えて笑顔作ってる内によく笑う明るい人なんて言われる様にもなったけど俺は黒い部分ばかりさ」
クラビは言った。
「パワフルで積極的じゃないか」
しかしボジャックは言う。
「ポシティブで積極的で負けず嫌いだけどその反面恨みや憎しみの感情が渦巻いて影の部分が黒いのさ。そうなっちまうよ。でもクラビのおかげで大分救われた」
ボジャックは続ける。
「でも窃盗団の頃は老人や女からもひったくっていた。生きる為には仕方ないって建前で」
クラビは聞いた。
「そうだね。俺は無理やりやらされてたけど一応ボジャックは自分の意思でマークレイ達と一緒に窃盗やってたんだろ」
「……」
「マークレーがサブリーダーでひったくりすんの。マークレーから手紙来たよ。国を良くする活動するって」
ボジャックは冗談交じりに言った。
「国家転覆計画でも立ててんのか」
クラビは目標を説明した。
「マークレー達と合流するのが目的だ。仲間に加える」
「そうね、仲間はもっと必要よ。昔のお友達?」
「うん、昔から強かった。きっと力を貸してくれる。マークレイは強いけど無敵のリーダー、ミッシェル様には逆らえなかったからな。あの人健在かな」
「元々何を考えてるか良く分からないからね。忍者の末裔だけど」
「まてよそのルートだと孤児院通るよな」
「あ……」
クラビはまごついた。
ボジャックは言う。
「彼女と再会出来るじゃん」
クラビは慌てた。
「別に好きじゃないよ」
クラビは思った。
孤児院はそれなりに良かったな、問題もあったけど。
本当に色々な子がいた。
差別されたと荒れる子。人の分まで食べる子、喧嘩する子、連れ戻されたり戻ってくる子、引き取られた親せき宅で冷たくされる子、パニックになる子、万引きする子、親や親せきに死ねと言われた子、大人に殴られ使いっぱしりにされる子、帰りたいと泣く子、職員の虐待、病院に行きたくても行けない子、どこの馬の骨かわからないと言われた子、泥棒呼ばわり、目が見えなくなった子、はさみを向ける子、母が家出した子、親のない自分は誰なのかと存在を疑問視する子、精神疾患の親を持つ子らがいてクラビは思い出していた。
職員の導きで巣立っていった子も多くいる。
繊細に傷つき、暴れる子達。
つらい思い出もある。
しかし孤児院に行けなかった子等はもっと壮絶だ。
浮浪者たちのたまり場は排泄物と残飯で異臭がした。
最初は食べ物をくれる大人もいた。
汚水と寄生虫もいるスラム街の様な世界。
死体が拡がる水準最低の生き残り社会
呼売商人、土方、泥棒、詐欺師、客引き、逃げた小作農等が住む。
社会から疎外され、住まいも安定した収入もない人達。
病気と犯罪の巣窟で警察が活発化すれば逆に物乞いは多くなった。
救貧院もある。
最初は食べ物をくれる大人もいた。
差別に激しく怒る子。
国の援助がない子。
人間扱いされない子。
物乞いをする子供は上手い人と下手な人がいるが、やがて食糧難で大人は冷たくなった。
「親戚だからといって何でよその子にあげなきゃいけないの」
女の子はかっぱらわれた。
飢餓、栄養不良からの内臓疾患。
自殺未遂で手首に傷のある子。
寒い中身を寄り添い体温で暖めた。
明日食べられるか。
炊き出しはあったが中止になった。
猫やザリガニを食べた。
闇市がにぎわう。
またこの時代、まだ農民は貧しくアルバイトを領主の館でしたり収益の約5パーセントの貨幣の年貢を払う、中央集権的でなく隷属的関係の時代である。
居酒屋は領主に掌握され農民の会話が掌握される。
農民は馬鹿にされ都市の住民は農民を搾取していた。
農民は私闘権と決闘権がなかった。
農民の名誉は騎士には認められなかった。
不正と戦う武装権はなくなった。
農民は下着を着ず洋服は灰色の安価な物と定められる。
ズボンの膝が抜けている。
私闘と復讐は区別される。
そして騎士は農民の生産労働に寄生する。
魚をとる事は自由の意味がある。
タイユもある。
居住地からの移動も厳しい。村落共同体はある。
「ところで俺はさっきお前が言う様に自分の意思で窃盗仲間に入ったと思ってるだろうけど、本当は嫌な気持ちが半分以上あった。要するに半分逆らえず言いなりにされてたのさ」
「そうだったのか」
「俺よりマークレイ達の方が腕っぷしが強いだろ? だから強く言い返せなかった。そういう雰囲気だった。マークレイやベルスの強権が幅を利かせてたから。あいつらは俺やクラビの事を『仲間』と言いながら子分扱いしているのさ。そんな時『自分はやだ』と言えなかった。そんな自分がやだった。だから強くなろうとしたんだけど」
ボジャックは十四歳の頃の孤児院の様子を思い出した。
~一旦場面は回想の中に入る~
三年前、クラビ達の孤児院の簡易会議室に8人程の14歳の孤児の少年がテーブルを囲んでいる。
勿論、クラビ、ボジャック、ゾゾも席に付いている。
中心付近にサブリーダー的にマークレイ、その隣にひょうひょうとしてるような威圧的なような不思議で異様な雰囲気の少年・リーダーのミッシェルがいた。
これが孤児窃盗団会議である。