太った刺客
しかし、キハエルが去ったのもつかの間だった。
「何だ」
ボジャックが見ると突然四メートル程の上空に次元の穴が空いた。
穴はうねうねしながら何かが出てきそうだった。
穴の隙間から別次元世界が見える。
そして穴から人が飛び出した。
地上にサブラアイムの戦士と思われる大柄な男が地上に降り立った。
「何⁉ まだ戦士がいるのか⁉」
「ぐっへっへっへ」
笑った男は身長は百八十程に対して二百キロ近くありそうな風体。
足はとても太く短くズボンを履いている。
上半身は鎧を付けずシャツだけ。
武器も持っていないが、意地汚そうでいやらしそうな表情で頬も腹の肉も弛んでいる動きの遅そうな男だ。
男は言った。
「キハエルⅡ世様を追い払ったからと言って気を抜かれては困るな。まだ恐怖は全く終わっていないのだ」
「……」
「俺はじきにキハエル様に次ぐ三番手となる男、ブルータス・デロックスだ」
ゾゾは言った
「デブックス?」
「デロックスだ‼️ わざと言っただろ貴様!」
ボジャックは言った。
「し、しかし、キハエルは全く近寄れないほど隙がない奴だったけど、こいつ本当に次期ナンバー三? 大分雰囲気違うな」
ジェイニーは言った。
「体脂肪のナンバー三じゃないの?」
デロックスはぎろりと睨んだ。
「口が悪いなお前」
ジェイニーは構わず続けた。
「何度でも言ってやるわよ百貫デブ」
「お前は真っ先に殺す」
デロックスはひゅんと姿を消した。
「え?」
次の瞬間デロックスはジェイニーの頭上に現れ全体重を浴びせかけた。
「あっ!」
「ふっふっふ、まずは一人殺してやった」
「くそ!」
皆構えた。
「さて、まず俺から攻撃だ」
デロックスは手から巨大なシャボン玉を出した。
そしてふわふわと飛ばした。
ボジャックは違和感を抱いた。
「何だこれ? 真っ二つにしてやる!」
ところがシャボン玉は剣が触れるなり爆発した。
「ぐあ!」
皆駆け寄った。
「ふははは! たかがシャボン玉と甘く見たな!」
「爆発するシャボン玉⁉」
「もう何発か食らえ」
デロックスは複数のシャボン玉を撃って来た。
クラビは言った。
「でもスピードは大したことない! 触れなければいいんだ」
一行は複数の遅いシャボン玉を用心深くかわした。
勿論クラビも。
ところが、かわしたはずのシャボン玉が突然反転し戻ってきてクラビの後頭部を襲った。
「ぐあ!」
ゾゾは叫んだ。
「何でっすか! 戻ってきた上に今度は爆発しなかった!」
デロックスは大声で言った。
「はーっはっは! 俺のシャボン玉は爆発タイプと高速鉄球タイプと二タイプがあるのよ。しかも外観からは区別はつかん。避けられるかな?」
クラビは叫んだ
「皆! アンカーの中に入るんだ!」
ゾゾとマリーディアはクラビにくっつきアンカーが作ったサークルの防御網に入った。
デロックスが叫び、多数のシャボン玉が放出された。
「くらえ!」
しかしサークルのおかげで爆発タイプも鉄球タイプもいくつか防ぐ事が出来た。爆発は中まで届かない。
デロックスは感心した。
「ほう、なかなか便利な武器だな」
ボジャックは立ち上がり思った。
「しかし攻撃の糸口がつかめない。やっぱ食らう覚悟で攻めるべきか」
女神は等身大化した。
「皆! 私の体は爆発に耐性があるわ! その間に攻撃を!」
「小癪な!」
デロックスはシャボン玉を撃ったが女神が受けようとしている。
「良し、隙が見えたぞ! 皆突っ込むぞ」
ボジャックは地剣爆斬、ゾゾはかえる跳び翔斬、マリーディアは流麗なる剣の舞を食らわせた。
しかし手ごたえが悪い。
弛んだ弾力がある体のために効きが悪いのだ。
「はっ!」
立ち直ったジェイニーも火炎弾を撃ったが何と腹の脂肪で跳ね返した。
「な?」
「魔法を! 何て柔らかい体だ」
クラビは言った。
「よし、アンカーに『刃』と『鋼』をセットする」
クラビの手首から刃物型に変形したかつ鋼鉄の属性のアンカーが飛び出した。
そしてデロックスの顔をかすめた。
すると少し効き傷が出て血が落ちた。
「あれ?」
クラビは何かに気が付いた。
デロックスは悔しがった。
「顔に傷が! 俺の美しい顔に!」
「……」
一行は少し呆然としたがボジャックとジェイニーが言った。
「何が美形だ! 余計不細工になっただけだろ!」
「ふざけないでよこの脂肪の塊の子豚さん!」
しかしマリーディアは良い顔をしなかった。
「ね、ねえ、いくら敵でもあまりひどい事言うのは」
それにデロックスは気づいた。
「ほう! 女、お前いい奴だな! 一緒に来い、俺の女にしてやる」
マリーディアではなくジェイニーが怒った。
「ふざけないでよこのクソ豚!」
「お前また言ったな、やはりお前から先に殺す」
デロックスは巨大シャボン玉をジェイニーだけでなく他も巻き込む様に放った。
皆吹き飛ばされた。
「ぐあああ」
デロックスは顔が少し青くなり、はあはあ言い始めた。
クラビはそれに気づいた。
さらにクラビはある事に気づいた。
「さっき思ったけど、あいつ、血が流れ落ちるのが速い? ちょっと皆、効かなくてもあいつに剣攻撃を仕掛けるんだ」
「よくわからないけど」
ボジャックとゾゾはなりふりかまわず切りかかった。
すると手ごたえは悪いが傷がいくつかつき、血がどばっと噴き出した。
「きゃっ!」
血が苦手なマリーディアは目を背けた。
ゾゾは言った。
「そんなに大きな傷じゃないのに血が噴き出した」
クラビは気づいた。
「やっぱり! よくわからないけどあいつは血が噴き出しやすく重いんだ!」
「良く気付いたな。アンドレイ様にシャボン玉を血液によって作る能力と引き換えに逆に血が重く流れやすい体質にしてもらったのよ」
クラビは確信した。
「いくらあいつの防御が強くても出血多量に追い込めば勝てるぞ」
デロックスはにやりとした。
「その対策位してある」
デロックスが懐から出した傷薬を飲むと傷がふさがった。
「くそ」
クラビは叫んだ。
「まだだ! まださっき吸収した太陽光線を残しておいたんだ!」
クラビがまぶしい光に包まれた。
デロックスは目が眩んだ。
「まぶしい!」
「うおお!」
クラビは突撃し顔ではなく腹に渾身のパンチを浴びせた。
「ぐああ!」
デロックスの口から大量の血が吐き出された。
「内臓を傷つけられたようだ、刃物でなくても大量出血させられるか。おのれ、今回は退散だ。次会うときは俺がトップになっている!」
と言いデロックスは転移魔法で消えた。
「手ごわかったけど、あいつトップになるほどか? 自信あるみたいだけど」
「強さって言うか、性格がね。すぐ怒るし」
「でも疲れた」