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クラビの太陽光線吸収

10月15日20時30分改稿しました。

19日誤字改稿しました。

「まだ、負けられない……!」

 ぼろぼろの体で息を切らしながら前のめりの大猫背体勢からよろよろクラビは何とか立ち上がった。

 

 体にはもはや直立する程の力もない。

 しかし、目は死んでいない。

 闘志と希望がかすかだが確実にそこにあった。


「クラビ……」

 倒れながら女神が不安そうに見つめる。

 彼女も必死だった。


 自分がクラビ達を危険な旅に連れ出した。

 今命の危機に貧している。

 

 皆を何としても死なせられない!

 女神もクラビの残された目の輝きを見た。


「まだ、力はある、希望はある」

 クラビは最後の力を雑巾の様に絞り、倒れそうになりながらもしっかり立ち、さらなる力を溜め始めた。


「今度こそ限界を超えるまで力を出す」

 クラビの体の光は前より数段強かった。

 限界まで、限界まで力を出す。


 女神は驚いた。

「す、すごい、こんなに」

 一方、キハエルⅡ世は微動だにせず表情も変えない。


「うおおおおお」

 力は溜まっていく。

 

 体がまばゆく光り、大地も鳴動しそうだった。

 バチバチと音まで鳴る。

 

 勇者の魂のかけらがタンポポの胞子の様にふわふわ浮く。

 十秒、二十秒、体は熱くなり震える。


 気持ちも体も制御不能な程に。

 体内の勇者の魂が電気や炎の様に大きくなりゆらめきぶつかり合い反応する。

 

 そしてバチンと弾けた。

「うおおっ!」

 

 クラビは力を確認出来た。

 気合と共に叫んだ。

 

 力は溜まった。

 確かに手応えはあった。


 覚悟は決まった。

「行くぞ! これが今の俺の限界だ!」

 

 叫びと共にクラビは殴りかかった。

 何倍かのパワーと勢いで。


 女神はごくりと唾を飲む。

 しかし次の瞬間

 

 クラビは吹き飛ばされた。

 はるか後方に。


 手も触れずに。

「さっきより強い衝撃で吹き飛ばされた」

 クラビにとってとてつもなく大きなショックだった。


「よし、もう一発」

 勝負をかけたキハエルは冥界降下掌を再度放った。

 しかも体力を消耗していない。


「ぐあああ」

 クラビは女神と共に上空高く吹き飛ばされ、これまでに受けたことのない衝撃と打撃を受けた。

「くっ……」


 ボジャック達が一撃で気絶した技を二発食った。

 もう、力も意識も遠い。


 しかし、まだ何とか這いつくばりながら二人とも息があった。

 キハエルは少しだけ動揺した。


「まだ息があるのか。そうか、神族や神族が作った人間はあらかじめこの系統の技に耐性があるのか」

 クラビは地べたで倒れながら思った。


「く、くそ、ここまで強いのか。ここまで強い連中を敵に回してたのか。恐怖を感じる。悔しさも感じる。勝ちたい、女神さん、何か手はないのか?」


「ある事はあるわ」

「え?」


「でもこれを使えば貴方の寿命が著しく縮まるわ。十年単位で。それどころか今のあなたが耐えられなくなる可能性もある」

「今のままじゃどうやっても勝てる見込みはない。それに賭けるよ!」


「わかったわ。貴方の両手を天にかざして」

「こう?」


「貴方の腕の刻印と指輪に太陽光線が当たるようにして。それで太陽光線を吸収するのよ。でもある程度溜まったら止めて。でないと死んでしまうわ」

「分かった」


 キハエルは少しだけ怪訝な顔をした。

「ほう、何かやるつもりか? 良いだろう。少しの時間だけ待ってやろう」

 クラビは立ち上がり両手を天にかざした。


 すると光が刻印と指輪を通してクラビの体に取り込まれた。

「すごい力が!」

「でも、ほどほどにしてね!」


 これに賭けるしかないんだ。

 限界まで!


 太陽光線を取り入れるとクラビの「神の造りし者」の体内のエネルギーが増大した。

 しかしクラビの体温がどんどん上がる。


「ぬ?」

 キハエルの目の色が変わった。 


 くそ、四〇度超えてる。

 よし、行くぞ!


 先程とは比較にならない強い光とエネルギーが溜まった。

「これは、今までとは違う。良し、行くぞ!」


 クラビは突撃した。

 今度はパンチでなく体当たりで。


「うおおお!」

 キハエルは手を前に出した。


 クラビは吹き飛ばされた。

 そして地面に倒れた。


「クラビ!」

 女神は引きずり駆け寄った。


「ごめん、皆、私が冒険を頼んだばかりに。もうどうにもならないわ」

 キハエルは歩を進めた。


「クラビは殺させないわ!」

 女神はクラビに覆いかぶさった。


「どけ」

「くっ!」


 その時何かが信じられないスピードでキハエルに体当たりした。

「何?」

「え?」


 それはクラビが先程助けたウサギだった。

「え⁉」


「貴様何者だ!」

「待たせたね女神アイム」


「その声は! デュプス神様⁉」

「どうにもならなそうだから来た。遅れてすまない」


「でゅ、デュプス神だと!」

 今まで見たことがない大きな声でキハエルは動揺した。


 その時連絡機の様な装置から声が聞こえた。

「アンドレイ様?」


「だから様子を見ろと言っただろう! あいつらが最大の危機に陥ればデュプス神が来るかも知れないと! 逃げるんだ! 今お前を失うわけにいかん」

「私が負けるとでも? 宜しい、私がデュプス神を葬って見せましょう」

「よせ!」


「冥界砲」

 キハエルは冥界降下掌の前方攻撃版の様な光線を出した。

 しかしウサギは食らったがびくともせず歩みを進める。


「馬鹿な!」

 キハエルは焦って技を連射した。

 しかしこれも効かない。


 ウサギは目から光線を出すと命中したキハエルは肩と膝を落とした。

「ええ?」


 女神は驚いた。

 デュプス神は言った。

「こいつは僕が倒す。後は頼む」


 と言いウサギはキハエルにへばりつき上空へと飛んだ。

 キハエルはあがいた。

「よせ!」


「僕は死なないよ」

 とウサギは言い、はるか上空で爆発した。

 

 女神は起き上がった。

 キハエルの姿はもう見えなかった。


 そしてダウンしていた一行は一時間程で目を覚ました。

 ボジャックは言った。

「デュプス神様が⁉️ でもなんてとてつもない相手だ。もっともっとすごい鍛えないと」

 

 クラビは言った。

「俺、悔しいよ、何も出来なかった事が、修行して真の勇者になって見せる!」   

 

 ゾゾは聞いた。

「デュプス神様はどうなったんですか」


 女神は答えた。

「死んではいないわ。もし亡くなったら空が暗黒に包まれるはず。きっとどこかで見守ってくれているわ」

これで、挿話は終了します。

細部微調整はありますが、投稿はないと思います。

ネット小説大賞でせめて一次突破してれば。

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