勇者スキルリストと自覚
クラビは、消極的に思っていた。
リーダーをあんまりやりたくないな。
難しいし。今までの人生も他の人に任せてたし。
責任逃れと、仕切ることにより生まれる他者との圧と距離が何か嫌に感じるのだ。
孤児院でもあった「何故お前が仕切るんだ、決めるんだ」と言う視線。
そこから生まれる反発。
孤児院の時も皆ややこしかったし。人間関係が。
人を仕切るのに罪の意識感じるし、俺みたいな人に気を使うタイプは影の薄い縁の下の力持ちの方が良いかも。
嫌われたくないと言う感情かも知れない。
そんな気を知ってか知らずか、女神は書類を出した。
見た事もない言葉が羅列してある。
「何これ」
クラビは覗き込んだ。
女神はぴしっとした調子で説明した。
「勇者スキルリスト、よ‼️」
「勇者スキルリスト⁉️」
「勇者の記憶と貴方の感情の目覚めによって、かって持っていた勇者スキルが多く使えるようになるわ。これが一覧よ」
「俺が生前持っていたスキルも使えるようになるの? へええ、記憶と連動か」
リストには二十以上のスキルが載っていた。
「急速冷却、戦闘中LVUP、武器攻撃プラス二十パーセント」等。
あまり聞いた事がない。
女神は説明した。
「どれもこれも、普通の戦士では習得できないわ。今、少しレベルアップでクラビは皆に後れを取ってるから取り戻すのに『経験三十パーセントアップ』なんか有効よ。ただリスクもあるけどね」
「リスク?」
「そう、この『経験三十パーセントアップ』をセットするとダメージと痛みも三十パーセントアップするのよ」
「きつい!」
クラビは思った。
だが、孤児院、とりわけマリーディアを助け、引いてアンドレイを倒すには俺はどんどん強くならなきゃいけないのか。
もうのんびりしてられないのか。
自覚と環境と運命は人を変えるな。
俺は子供の頃からリーダータイプでなかった。
と感じていた。役割から逃げていただけなのか。
「アンドレイを倒せるのは貴方だけ。ごめんねプレッシャーかけて」
「……」
この時点ではクラビは役割を完全に自覚出来ずにいた。
「よし、無茶しすぎず行くぞ」
とボジャックが言った。
そして戦闘目的であえて魔物が多そうな地帯を探索しているとタイミングが良いのか魔物に遭遇した。
大犬四匹、毒蜂オオスズメバチ、大コブラ=インドコブラの三種パーティーに遭遇した。
大犬とはいわゆる闘犬、猟犬だ。
ドーベルマンとフラットコーデットレトリーバー、ダルメシアンだ。
狂暴さは並みの野犬の比ではない。
オオスズメバチは何と大きさが三十センチはある。
「蜂がでかい! 『大型』なんてレベルじゃない。アンドレイに品種改良されたのか?」
「強化生物とも言えますね。でも速さは普通の蜂と変わらないみたいです」
強化、品種改良されたと思われる大インドコブラは起き上がった高さが普通なら一メートル二十位の所が三メートルはある。
「でかい」
(※インドコブラ:有隣目ヘビ亜目コブラ科、南アジア生息、平地や山地、人家の近くに生息し首の後ろにめがねの様な模様がある。神経毒を持ち筋肉を麻痺させ呼吸困難になる)
銀の硬い皮をまとっている。
鋭い牙でこちらを狙う。
「空を飛ぶ相手は任せて!」
と上空の相手に身構えるジェイニーは、前と同じように魔法で空を飛ぶオオスズメバチを攻撃する。
ドーベルマンとフラットコーデットレトリーバー、ダルメシアンにはゾゾとマリーディアが闘争心を警戒しながら刺激せず抑え込む様に回り込み前後の行く手を防ぎ対峙する。
ボジャックはインドコブラと戦う事に。
犬は勿論食われることはないが、噛みつかれたらただで済まない致命傷を与える力を持っている。
そう言う意味で虎と変わらない。
ダルメシアンは舌を出し闘志を抑え込むようにフーフー息をしている。
舌を本能のまま前に出し鋭い歯の見える口を威嚇の様に開ける。
フラットコーデット・レトリーバーはとても噛み付きたがっている。
臨戦体制オーケーだ。
肉をむしりもぎ取らんばかりに。
そう言った強い危険性、殺人性を牙や目、顔を震わす事から存分に漂わせており、マリーディアは少し怯えた。人に慣れる感じなど勿論みじんもない。
その間ボジャックは相手から目を離さず指示した。
「俺は怪力スキルを使って硬くて強い奴大インドコブラを狙い倒す。ゾゾとマリーディアはテクニックとスピードで素早くて攻撃力もある犬を頼む」
しかしクラビは何かおどおどしている。
動き方と役割が分かれている。
ボジャックは苛立ちながら言った。
「何やってんだクラビ、ぼーっとしないでくれ」
ジェイニーはボジャックに言った。
「毒に気を付けて」
「俺は待機?」
とクラビは聞いた。
ボジャックは嫌な顔をした。
「違う、待機なわけないだろ。お前は犬と毒蜂を交互に相手してくれ」
クラビはよく理解出来ていなかった。
「俺は何で交互で、専門の相手がないの?」
ボジャックはしかめ顔をした。
面倒臭そうだ。
「アンカーを使わない時は専門がないじゃん。剣のレベルは出遅れてるし魔法も使えない」
何か役立たずと言われてる様だった。
「これでいいのかよ」
とクラビは情けない気持ちになった。
リーダーなのに特化能力がない。
しかし気持ちを入れ替えたクラビは
「よし、俺はジェイニーが蜂に刺されない様盾になる」
と決めた。
蜂は猛毒針を持って予測不可な軌道で飛び回った後、一直線に猛スピードで向かってきた。
スピードは普通の蜂と同等だ。
クラビはジェイニーをかばい、アンカーで網を作ってバリアにした。
「入れるカードは『防御』と『網』、これなら蜂は入ってこれない、蜘蛛の巣と同じだ」
ボジャックは言う。
「俺は大きくて攻撃力のある相手を倒す。反撃を受けにくいよう『怪力』をセットする。コブラが獲物を噛む捕獲スピードはすごいからカウンター受けない様にしないと」
マリーディアとゾゾは一人二匹ずつの比率で何とか大犬の動きを捕らえようとしていた。
ライオンとも動き方は違う。
狂暴な上とても素早く小回りが効く。
左右に分かれたり前後で挟んだりと頭も使ってくる
「こいつもスピードがアンドレイの力で普通の犬より強化されてる感じです」
ただの野良犬ではない、手強い魔物だと言う認識だ。
マリーディアは喉を噛み切られる事を想像した。
顔が少し青くなる。
ゾゾは気遣った。
「マリーディアさん、怯えないで、落ち着いて」
「ええ」
「俺の高速移動使っても良いけど先長いすからね」
二人は犬をけん制し攻める隙を伺う。
下手に突っ込めば凶暴さと鋭い牙と強い顎の筋肉の餌食になる。
大きさは大した事ないが。
「地道に攻めましょう」
ジェイニーは毒蜂への火炎弾を二発かわされてしまった。
「さすがに素早い!」
蜂のスピードと速さに当てるのは並大抵ではない。
蜂=オオスズメバチは思いの他速い。
ジェイニーは火炎弾をかわされ焦ったが立て直した。
続いて雷撃を上空から呼び、これが蜂に命中し、黒焦げにした。
小回りの利く蜂も上からの攻撃はかわし切れなかったようだ。
一方大犬がゾゾに獰猛な形相で噛みつこうとしたが、軽く速い身のこなしで余裕を持ってかわした。
「高速移動が使えなくてもこの位は」
徐々にゾゾ達二人が攻めて間合いを詰めゾゾがまず1匹止めを刺した。
他の三匹も。
そして一方毒噛みつきを防いだボジャックは大コブラを倒した。
首を剣で刺し切った。
コブラの頭が宙を舞う。
「ふう」
クラビはあまり疲れてなかった。
「俺が一番疲れてないしダメージも受けてない」
ボジャックは見回した。
「皆大丈夫か」
「ヒーラーがいないからきついすよ」
ボジャックは不満を口にした。
「クラビ一匹も倒してないじゃないかよ。どうした勇者」
「プレッシャーかけないで」
クラビは嫌そうだった。
「頑張って勇者!」
と笑顔でマリーディアが励ますと赤くなった。
クラビは自分の存在が薄いと感じていた。
俺は勇者として覚醒して力を得なければならない。
次回からクラビが自覚を持ち追い込んで追い込んで大きくパワーアップして行きます。
10月25日は19時以降に投稿します。