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鉱山から伯爵邸へ

2024年1月21日改稿しました。

 クラビ達は四日かけて近くの鉱山に移動した。

 しかしそこにはやはり業者管理者がいる。 

 

 今仕事まっただ中だった。

 上は二十、下は十五の坑道が掘られ、工場に運ばれ選ばれる。


 ローマ人の様な鉱山技術でハンマー、つるはし、鑿等を使い坑道を柱で支える。

 ランプが随所に置かれる。


 牛馬で鉱石を運搬した時代は精錬所は採掘場に近かった。また水流が確保された。

 

 水力を利用、水車で鞴を動かし取り出しハンマーで叩いて鉄にしていた。

 後に送風は蒸気機関が使われた。

 高炉運営は建屋が作られ作業所を広くする合理的設計が取られた。

 

 水車はふいごに風を送る。ふいごを並べて高炉の羽口に空気を送り込む。

 るつぼに石造正方形煙突が付けられた。


 炉内温度が上がると鉱石は急速に炭素を取り込む。

 溶鉄鋳造が可能で何週間も稼働出来る。

 浮かび上がったスラグが取り除かれ流れ出る。


 やがて巨額を投じ生産量は上がった。

 また後に大砲鋳造が確立されたり洋式製鉄へと移り変わって行った。  


 砂金は水に入れて土砂を流す「揺り箱法」、水を流して筵や木綿を据えて集める「猫長し法」、樋を並べて原料を水と流す「樋長し法」等があったが、やがて資源は砂金から金鉱石に変わった。


 猫流し法を応用し鉱砂は鉛やからみを加えて炭火で溶かして合金にして灰吹床で吹いて金を得た。


 金銀比価は一:十五だった。

 鉱山は直山か請山形態で領有された。

 領主直接支配か、山師が領主から受けおった。


 金属加工業は農村や鉱山から供給される鉱石に基づく為立地は深くかかわる。

 真鍮加工も行われ食器、鍋、燭台も作られた。


 最上位には金銀細工師と貨幣鋳造人がいる。

 彼らは王の庇護を受け芸術品を作り出した。

 貨幣管理の役割もあった。


 鍛冶相は蹄鉄や鍋釜、武具等を作った。

 彼らは経済に不可欠ではあったが火災と騒音リスクから工場は夜操業を禁じられた。

 都市の中心からも遠ざけられた。


 そして忙しい中監督を中断した主任格の工員はクラビ達の身元を聞いてきた。

「君達は契約業者?」


「いえ個人です。金を掘りたくて来ました」

「それは、無理だよ」

 それはの後に「、」の間がある事から無理が強調されている。


 しかしクラビは必死で頭を下げ説明した。

「お願いですかくかくしかじかで、孤児院を救うにはもう」


「じ、事情は分かりますが」

 考え込んだ末、ボジャックとジェイニーは言った。


「弱ったな」

「難しいかも知れないけどここの領主に会ってみない? 私の父のつてが利くかもしれない」


 一方敵国ではアンドレイを中心に報告と会議が行われていた。

「また、アンカーを持ったおかしな勇者らしきパーティにやられたのか」


「はい、しかも今度はもう一人見た事もない武器、相手の攻撃を受け止める手甲のような物を持った女が現れました。あんな物は地上で見た事がありません」


「恐らくそれは天の神の武具だ」

「地上ではないと」


「そうだ、選ばれた者にのみ降臨した神が与える地上の武具と比べ物にならない威力を持つ武器だ。十二年前の戦いで私はそれに手こずった。まさかまた使う者が現れるとは」


「奴らは毛が生えた程度の剣術や魔法の使い手でしかありません。ですがその武器のせいで何倍もの力を発揮しています」


「それとだ。その片方の小僧は間違いなく勇者の転生者だ。記憶は封印してあるが命をどうやったか得たようだ。それも神がやったのか。今の焦点は二つ、アンカーとやらの威力をさぐり奪うか破壊する事。もう一つは小僧の勇者の力を確かめる事だ。我々にはかって今神の武具と同等の力を持つ悪魔の武具があった。しかしそれは十二年前に勇者に破壊されてしまった。これの破片を集めて再生する作業を急がせろ。あれらがあれば対抗出来るはずだ」


「私にお任せください」

「私にも意見を話させてください」

 小柄な男、作戦参謀ジョルジョは言った。


 アンドレイは指した。

「言ってみよ」

「今、その天の武具を手に入れた物がいないか捜索中です」


「ほう」

「そのガキたち以外にも神の道具を神からもらった人間は他にもいるはずです。その者達をとらえて利用します」


「なるほど。それなら同じ者同士、神の武具に対抗出来るかも知れん。しかもそいつらには勇者も手が出せんだろう」


「は、どうも神の武具は弱く罪のない者達がもらっているようです。そいつらが我が軍に入れば勇者達も簡単には手を出せないでしょう」


「なるほど」

「またそれを我が軍が手に入れられ、我々が使えるよう改造したり、また多くの者が使えるように新しいものを我が軍で開発するのです」


「その試みは十二年前の戦いで我が軍は試した。しかし同様の物を作り出す事は出来なかった」

「しかし、それが出来る可能性があるのです」

「何だ」


「現在あまりにも天才過ぎて理解されず学会を追放されたある学者をさらう予定です。その男なら天の国の武具を解析し同様の物が作りだせる可能性が高いのです」


「しかし、それ程の天才等いるのか」

「あるいはその男ならば」


「よし、次に勇者たちが現れる場所を調べ攻撃、さらに武具を持った人間と博士をさらえ」


 ここは奇しくもクラビ達がいる場所に近い町だ。

 町外れの人が少ない家に老人博士は住んでいた。

 

 昼間から酒を飲んでいる。

「どうせ儂の研究など誰も理解しないのだろう。儂の発明があれば世界を手中にできると言うのに」


 そこへ軍兵が来た。

「誰じゃ」

「我々と一緒に来てもらおう」


 その後警察やギルドの広報で博士誘拐か、行方不明の話が町に流れた。

 クラビ達にも聞こえた。


「物騒だな。何を企んでるやつらがいるんだろう」

「あの博士変人扱いされてるわよ。そんな人を利用するかしら」

「人間関係のトラブルとかじゃない?」

 等と噂されていた。


 さらにアンドレイは別計画戦略について話した。

「現在規模が広がっている侵略の主作戦である動物狂暴化作戦は順当に成功している。勇者の小僧共とも交戦しかなり苦しめたようだ。シロクマが火を吐いたりしたらさすがに奴らも驚くだろう」

「今急ピッチで草食動物狂暴化を進めております」


「ふふ、どこにでもいてかつ人間の生活とは切り離す事が出来ない草食動物が人間を襲いだす。デュプス国民は腰を抜かし恐怖に怯えるだろう。ぼうっとしたように見えるヤギや牛に襲われ食われるのだからな。肉食動物は危険だから誰でも避けるが草食動物は油断しているがその隙に襲われ殺される。国中の草食動物が狂暴化すればもはや国民に居場所はない。地獄の国の始まりだ」

「動物たちに支配されるんですね」


 兵士が狂暴化したゴリラを連れてきた。

 アンドレイは命令した。


「ゴリラよ。その兵を殺せ」

「え?」


 何が何だか分からず怯える兵をゴリラはわし掴みにしてさば折りした。

「ああああ!」


 兵は背骨の痛みで絶叫した。

 そしてゴリラは兵士に噛みつきさらに頭から丸呑みした。

「はーっはっは! 動物どもよ、デュプス国民を殺せ。我々の兵として戦うのだ!」


 別の兵士は小声で話した。

「動物を洗脳するのもひどいけど、部下を躊躇なく実験台にした」


 ジョルジョは言った。

「ただ、デュプス国王と騎士団が調査に動き始めたようです」

「構わん、奴らの力などたかが知れている。いざとなれば返り討ちにしてやれば良い。この計画だけでなく、半人間半怪物の種族も今後のキーになる」


「魔界と地上にも少数生息してる者たちですね」

「そうだ。彼らは人間であり魔物でもある。強大なパワーと高い知性を合わせ、例えばドラゴンが呪文を唱える様な事も可能だ。かつ、魔物としての力も非常に強い。勇者たちはそいつらを倒せるかな?」


 兵士が小声で噂した。

「半人間半魔物種族たちって、強引にアンドレイ様が従わせたのか?」

「ああ、良い連中もいる。だがアンドレイ様が強硬に従わせたのだ」


 クラビは聞いた。

「ところで、ベルスは何をしてるんだろうか」


 ボジャックは答える。

「貴族の父親の跡継ごうとしてるんじゃない? 俺はあいつの事あまり、というか好きじゃなかった。意地悪で威張るし。でも何故かあいつは取り巻きが多かった。力があって意見をはっきり言うからかもしれない。今だから言うけど、俺はリーダーになりたかった」


「そうだったんだ」

「でも気持ちはあっても大勢の中にいると段々誰がリーダーかとかポジションが決まってくるのさ。それは結構天性の物がある」


「スター性とかカリスマみたいなもん?」

「ああ、だから自分の存在が中途半端なのが嫌で剣とリーダーシップを磨いたんだ。積極的で行動的に見えるかも知れないけど葛藤と他人への僻みばかりさ。マークレイにも」

「マークレイにもか」


「自分にないものを持ってる人を羨むんだろうな。さもしいよ」

 ボジャックは実はかってクラビにも良くない感情を持っていたが今は口に出すのをやめた。

「そうだったのか、今はリーダータイプじゃん」


 ジェイニーも褒めた。

「そうよ、ボジャックがいなかったら右に行けばいいか左に行けばいいかわからなかったし皆に勇気を与えてる」


 女神も言った。

「そうよ。過去や葛藤はどうあれ、クラビにも私達パーティーにも、ボジャックは絶対なくてはならない人なのよ」

 

 ゾゾも言う。

「クラビさんとボジャックさんが両巨頭です!」


「うーん、俺今はリーダーはクラビにやってほしいんだ。というか最近急に性格変わったけど何があったん」


「いや別に、ただ勇者の記憶は少しずつ戻ってきてる」

「じゃあ、スキルとかも身に付くのか?」

「ああ、多分これから変わっていくよ。いやかなりね」

「見たいぜ」


 貴族の家に戻ったベルスは、父親の跡を継ぐ努力もしていたが、貴族の人脈等を使いアンドレイの事を調べていた。

「マークレイ、クラビ、俺もアンドレイと戦う準備をしている。待っていてくれ」


 そしてクラビ達は領主ハイド伯爵邸に着いた。

 執事はジェイニーを見て言った。

「パルマ―様のご息女ですか! これはこれは!」



22日6時以降投稿します。

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