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マリーディア初陣

 孤児院前の平原には傷を治したザーゴンと魔法使いの部隊がいた。

 四方百メートルを陣地に見立てている。

 

 ざっと見て後方に四人程要る。

 それぞれ十~二十メートル距離を取っている。

  

 ボジャックは言う。

「魔法使いが多いぜ」

 ほとんど剣士がいない特殊な陣形だ。


 縦横中心に立つザーゴンは言った。

「遠距離攻撃が奴らは苦手だ。魔法使いは女一人しかいない。やはりこの布陣で正解だった」


 そしてマリーディアは一旦孤児院に戻る。

「剣と鎧を取って来る」


 ジェイニーは心配してボジャックに聞いた。

「マリーディアさん、大丈夫かしら参加させて」

「彼女は見た目より強いぜ、折り紙付きだ。俺以上かもな」


「ええ?」

「まあ、彼女が人を殺すのは見たくないし忍びないけど、今は猫の手も借りたい所だ」


 魔法使い達は五十ートル以上離れている者もいる。

 地の利を生かし木や草むらに隠れ伺っている。

 いつもの様に突進してくる戦士がいない。

 

 どう攻めていいかつかみ所がなかった。

 魔法使い達は沈黙を破り火の弾を撃って来た。

「うわ!」


 クラビは飛んできた火をかろうじてかわした。

 しかし草に引火して燃えた。

「あちちち」


「これは俺達が不利だぜ、今までにない布陣だ」

 辺りは燃えた。

 軽度の火事だ。


 ザーゴンが配下に指揮する。

「もっと撃て!」


「俺がアンカーで」

 とクラビが言ったがボジャックが止めた。

「待て! ザーゴンとの戦いの為に取っておくんだ」


「私が迎え撃つ!」

 ジェイニーが前に出て炎を撃った。

 火炎弾が正面でぶつかり相殺させた。


 ザーゴンはにやりとした。

「やはり魔法を使えるのはあの娘だけか」


 その頃マリーディアは剣と鎧を部屋できていた。

 りりしく美しい、ジャンヌダルクの様な印象を与える。

 

 しかし美しいのだが、彼女の目には珍しく怒りと憎しみがたぎっていた。

 しかも熱い怒りと言うより暗い感じだ。


「またこれを装備する事になるなんて……アズロ師匠、お許しください。許せない、孤児院や皆や子供達や職員さん大事な思い出を傷つけて……」

 手が打ち震えた。


 一方戦場ではジェイニーしか迎え撃てる者がいない。

 ザーゴンが号令する。

「あの娘に攻撃を集中しろ!」


 攻撃が集中する前に先にジェイニーは仕掛けようとする。 

 ボジャックは心配した。

「大丈夫か!」


「大丈夫、覚えたての一段上の魔法を放つ」

 ジェイニーは隠れて詠唱し構えた。

「上級火炎魔法!」


 これは今まで見せた火炎より数段広範囲に攻撃できるものでしかも温度も大きい。

 ドオンッ‼️


「行けるかも!」

 火炎の威力を見てボジャックも期待した。


 ジェイニーは広範囲攻撃でかなり魔法使い達を慌てさせた。 

 ザーゴンは言った。

「慌てるな! 私の魔法に比べれば大したことはない」


 しかし

「はあ」

 と言いジェイニーはその場に突如倒れ伏した。


 体の力が抜けてしまった。

 立ち上がれない。


「お、おい!」

 ボジャック達は駆け寄った。


 ジェイニーは弱弱しく言う。

「ごめん、無理に強い魔法を使って体の力が無くなったわ。私計画性がないから。計画してもいつも失敗するから、何やっても不器用だし」


「自分を責めてる場合じゃないぜ、いや、君に任せ過ぎた、後は任せてくれ」

「ああ、運動は苦手だし料理は下手だし!」

「自分を責めるの止めろって」


 その時マリーディアが着替えて孤児院から出て来た。

「えっ?」


 その眼力や立ち姿がいつもと違い威圧的で皆びっくりした。

 敵もうろたえ一旦攻めを止めた。


 マリーディアは啖呵を切った。

「あなた達が孤児院を、皆を、思い出を傷つけ破壊しようとした。許さない、例え命を取ってでも!」

 

 いつもの聖女の様な雰囲気でなく、まるで鬼の仮面をかぶった様な表情でマリーディアは声を絞り出した。

 爆発しそうな感情を必死に自制しながら。


 ジェイニーとゾゾは言った。

「な、何て慄然とした姿、麗しささえ感じる」

「で、でも何か雰囲気怖いし、命を取るとか言ってます」

 

 ボジャックとクラビが言う。

「あれが彼女の切れた姿だよ」

「彼女超真面目だからな、昔『自害する!』って言った時みたいに行くとこまで行っちゃうからな」


 敵達は話し合った。

「何だ、弱そうな娘が一人か」

「いや、あの女、何か只者じゃない雰囲気だぞ」


 ザーゴンは言った。

「よし、あの女魔法使いは力を失っている、止めを刺すんだ」

「ジェイニーさん!」


 急いでクラビが助けに入ろうとしたが敵の魔法が速く飛んできたため阻まれた。 

「くっ!」


 しかし、それより速く矢の様なスピードでマリーディアがジェイニーの前に出た。

「危ない!」

と叫びマリーディアは手甲をシールドにしてかばおうとする。


 皆驚いた。

「何だあれ? 万能アンカーに似てる」

「あれも神の武具?」


 マリーディアの手甲と体そのものが光り、ジェイニーを襲った火炎弾を受け止めた。

 真ん中の宝石が光り鏡の様な働きをして火炎を吸収して行く。


 味方も敵も驚いた。

「何?」

 そして驚く兵達に反射の様に火の弾のそれよりも速いスピードでエネルギーの塊を撃ち返した。


「ええ?」

 また皆驚いた。


「ぎゃあ!」

 そして予期してなかった敵魔法使いに命中した。


 ボジャックは聞いた。

「何だあれ? 万能アンカー?」


 マリーディアが振り向き説明した。

「そう、私が神の使いから貰った『シールドブレス』、これがあれば相手の攻撃を受けて跳ね返せるわ」


 女神は言った。

「そう、クラビと同じ様に彼女も神様に貰ったのよ。それにふさわしい人として」


「おのれ!」

 魔法使い達は一斉に火炎弾を放ったが片手で受け止めて見せるマリーディア。

 

 これも吸収してエネルギーに変え光線状に撃ち返して見せた。

「ぎゃあ!」

 と叫び倒れた。 


 そして

「ボジャック、ゾゾ!」

 と言いマリーディアはいきなり振り向き2人に吸収したエネルギーを手で投げ分けた。


 二人の体が光る。

 すると二人の剣の威力や動きがアップした。

「おお!」


 クラビは驚いた。

「分ける事も出来るのか!」


 兵は驚いた。

「何だあの娘とあの武器⁉ データにもありません。あの娘も勇者?」


「ええい! 私がやる!」

 と言いザーゴンは遥かに強力な魔法を撃って来た。

 

 これにはマリーディアも苦戦した。

「ぐぐっ!」

「ぬうう!」


 シールドブレスがと言うより彼女の体力自身が押されている。

 強力な攻撃は大きく体力を消耗する。


 押し合いは続く。

 しかし次第にマリーディアは押された。


「くくっ、きゃあ!」

 ついにマリーディアは吹っ飛ばされてしまった。


「マリーデイア!」

 飛び出したクラビをザーゴンは挑発する。


「そのアンカーごと破壊してやる。この前の借りを返す!」

 激しい炎を撃った。

 アンカーを火炎放射型に変形させ、火炎で対抗するクラビ。


 しかし、相手の火の方が強い。

 押されている。

「ぐぐ!」


 クラビは祈った。

「お、俺の力目覚めてくれ…… 俺は孤児院を! それに皆だけでなく大きな声で言えないけどマリーディアを守りたい!」


 全身に気合を入れた。

 少しずつ火炎の力が上がるがまだ足りない。


 ザーゴンは吠えた。

「俺はこの復讐に全てを賭けているのよ! 貴様ごときが敵うか!」

「ぐぐぐぐ!」

「クラビ! エネルギー受け取って!」


 マリーディアは保存していたブレスシールドのエネルギーをクラビに与えた。

「良し!」


 クラビのアンカーのパワーが凄まじくアップし押し返した。

「ぐああああ!」

「いけええ‼」


 遂にザーゴンは吹っ飛んだ。

 倒れて動けなくなった。


 しかしまだ生きている。

「うう、こんな傷さえなければこんなやつら」


 そこへマリーディアはザーゴンに向かい歩を進めて来た。

 怒りで完全に目が座っている

「孤児院を荒らしてくれたわね、許さないわ。止めを刺してあげる」


 異様な雰囲気に騒然となった。

「マリーディア!」

「殺す気か!」

「ぐっ」


 ボジャックとクラビは言った。

「正しい事には切れるのが彼女の玉にきず。普段は聖人みたいだけど」

「怒った彼女には誰も勝てないよ。でも手を汚してほしくない」


 マリーディアはまだ少し自制心が残っていた。

「ぐぐ、はあはああ」


 剣を喉元のぎりぎりで止めた。

 そして言った。


「どこへでも逃げなさい」

 しかしザーゴンは悔しがった。

「私はこれで最後のチャンスと言われている。戻れば処刑だろう」


「じゃあ、逃げれば」

 さっきより慈愛のある言い方をした。


「そんな事が出来るか。アンドレイ様を裏切ったらどうなるか。あの方の恐ろしさを知っているのか」

「たとえそうでも私は安直に人を殺さない」

 慈愛と慄然さの両方があった。

 

 マリーディアの顔が少し穏やかになり、ついにザーゴンを担いだ。

 皆驚いた。

「助けんの?」

 ボジャックは戸惑った。


「ど、どうする? 治療すんの?」

「掴まって、俺も担ぐよ」


「クラビ優しい」

「この前も言ったけど君には負けるよ」


 結局ザーゴンを孤児院の医務室へ寝かせた。

 しかししばらくして突如寝ていたザーゴンの所に矢が撃たれた。

 

 ザーゴンは息を引き取った。

 皆気づくのが遅かった。


「くそ、アンドレイめ!」

「ぐうう!」

 クラビも怒ったがさっきと同じ位マリーディアは怒った。 


 その頃アンドレイは城でわざとらしく祈った。

「ザーゴンの魂よ安らかに眠れ」


 兵はひそひそ話した。

「よくいうよ自分で殺したくせに」

「何て恐ろしいお方だ」


「それにしても勇者の仲間が増えて来たな。より一層の布陣と作戦が必要だ。侵略の手はずもな」 


 そしてしばらくしてマリーディアは落ち着いた。

 女神は慰めた。


「大丈夫?」

「ありがとう女神様」

「お願いがあるんだけど、後で別室に来て」


 そして夜皆が寝静まってから二人きりになり女神は切り出した。

「え?」


「私達の旅に同行してほしいの。貴方にクラビの力や支えになって欲しい」

「でも、孤児院の仕事が」


 クラビの支えになって欲しいと言うのはまんざらでもない気持ちを持つマリーディアにとって響いた。

 

 秘めたわずかな思いが少し心で大きくなって行く。

 自覚はないが微妙で良く分からない気持ち。

 クラビと同行し旅に……


「お願い」

 かなり切実な頭の下げ方だった。


 しかしこれは流石に迷った。

 孤児院の仕事一筋にする程気持ちを持っていたからだ。


 そんな迷った答えが返せないマリーディアに女神は言った。

「ちょっといいもの見せてあげるから来て」

 マリーディアは完全に何の事か分からなかった。


 そしてクラビの寝室に案内された。

 完全に寝ているクラビは意味不明の寝言を呟いている。

 

 そして夢の内容の前後関係は分からないが、突如クラビはつぶやいた。

「マリーディア……好きだよ」

「‼」


 寝言とはいえ、これが密かな思いを寄せるマリーディアの心の無防備で予期していない部分を打った。

 

 確かに自分は恋愛感情まで行くかはわからないが、何となくクラビをまんざらではないと思っていた。

 やや漠然としていたクラビへの思いが少しだけはっきりしてきた。

 

 純情な彼女はまだ恋愛感情なのか分からない認められない部分も大きくあった。 

 しかし突然の言葉を聞いて微妙な感情が突き刺された。 

 

 少し顔が赤くなった。

 恋愛感情、じゃないよね。まだそこまでは。


 しかし無意識下の正直な彼の心が聞けた。

 全く気付いていなかった。

 これは彼女の心を少なからず動かした。


 マリーディアは翌日思わせぶりな態度でクラビの所に来た。

 とても嬉しそうだが言葉を隠しているような態度だった。


 しかしクラビは理由が分かっていない。

「私も旅に同行する」

「えっ!」


「夢の続きを知りたくなって」

「?」


 クラビは勿論何の事か分からない。

 しかしどぎまぎし照れていた。

 とても幸せな気分になった。


 人生で最高かもしれない喜びに。

 そしてこれからしなければならない事が多く増える事をまだ知らなかった。 

 自分の人生が急変動する事に


 そしてマークレイ。

「俺は……もしかしてお前の敵になるかもしれない……」  

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