クラビの初デート
2023年11月19日改稿しました。
22日文体を整えました。
クラビはカチカチだった。
肩が硬く動きもおどおどしている。
歩いても止まっても心臓が激しく鳴る。
クラビは思った。
夢じゃない、他に誰もいずマリーディアと二人きり。
二人きり……
二人きり……
繰り返した。
純情な心の中が振動を起こす様に。
一方マリーディアは彼が何故緊張してるのか今一つ分からなかった。
店の外へ出ても相変わらずぎこちない、しかし何とか平静を装った。
クラビは心の中で呟いた。
二人きりで街を……夜のデートみたい。
でも一方で緊張もするけど夢みたいだ。
夢みたいで現実と思えなかった。
孤児院ではマリーディアはすごくもてて他の男が良く話しかけてて自分は勇気がなかった。
俺は昔マリーディアと上手く話せなかったから。
顔をはっきり見られず目をそらしている。
その様子を見ながら気持ちを知ってか知らずかマリーディアは聞いた。
「どう? この町懐かしい?」
クラビははっと気が付いた。
「だ、大分変ったね。だけど変わってない所は変わってないって言うか、においみたいな物かな」
「においねえ……」
クラビは何とか話を絞り出す。
顔は真っ赤だ。
非常にたどたどしい。
斜め下から必死に横を向こうとした。
「あ、あ、あ、あの、だけど、大分町の人の暮らし良くなってるみたい。昔は浮浪児がいたよね一杯。俺達も含めてさ。であの頃は食べ物を分けてもらおうとすれば水をぶっかけられて追い出された。だから俺達も荒れて人間不信になって窃盗とか始めたんだよね。でも君は最後まで止めてた」
言葉が途切れ途切れ気味だった。
顔が赤面しているのをどうやって普通に戻せば良いか分からず焦った。
マリーディアはしみじみ言った。
「私もそういう冷たい目に合った事があるから人間の全部が好きと言ったら嘘になるわ。だけど何とか荒れて悪い方向に自分がなったり皆がならない様に抑えてた」
「強いんだね」
「クラビに『皆を止めて』って言った時、貴方は恐る恐るだけど止めようとしてた」
マリーディアはちらっと見た。
クラビは少し照れた。
「皆に睨まれて最後まで言えなかったけどね」
「でもよく皆を抑えてたじゃない。そういう縁の下の力持ちっぽい凄さがあるわよね」
平静を装っていたが実はとても嬉しかった
「縁の下の力持ちっぽい凄さかあ。そんな事初めて言われた。俺目立つ人、積極的な人、中心になる人にああなりたいと劣等感感じてたから」
「集団の中で状況を見て皆を諭す役割って皆より落ち着いていて自制心もないと出来ない事なのよ」
「そういう見方もあるんだ……俺ってじわじわ長所が理解されるタイプなのかな」
道に物乞いの少年がいた。
「これ食べて」
とマリーディアはためらいなくパンをあげた。
続いてクラビもあげた。
マリーディアは言った。
「優しい」
「嫌君には負けるよ」
クラビは恐る恐る聞いた。
「俺達が窃盗団やってた事どう思ってる? 嫌ってる?」
それは最もマリーディアが当時嫌がってる事だったからだ。
思い出しながら少し考え込んで言った。
「はじめはそれこそ猛反対だったわよ。仲間達が犯罪まがいの事をするなんて。前に『自決する』って言って喧嘩を止めようとした時みたいに必死で止めようと思った。けど」
「けど?」
「でも孤児は多くの人が犯罪に手を染めたり喧嘩とかもしてる。そうしなければ生きて行けないから人を変えてしまうんだって。『自分はならない!』って思うのは自分だけいい子で特別な人だと思ってるみたいで、皆の気持ちが分かってないみたいで止めるの躊躇したわ。『絶対許さない!』なんて言えなかった」
「……俺もう窃盗何てやらないから」
そこへ変な若者たちが三人来た。
クラビは怖くなった。
何だこいつら。
見るからにいやらしく凶悪な顔。
へらへらしている様で何か言えば急に狂暴になるタイプの奴らだ。
喧嘩もかなり慣れてそうだ。
いやらしい顔でマリーディアに近づき声を馴れ馴れしくかけてくる。
「おおーかわいい子みっけ!」
「こりゃすげえ上玉だよ!」
「俺達と遊ばない?」
すさまじい不快感だ。
肩をつかみマリーディアに絡んで来た。
にらむマリーディア。
クラビはアンカーも剣も持ってきてない。
ま、まずい、俺が何とかしないと、でも今は武器もない。
「や、やめ」
とクラビは恐る恐る言いかけた。
「あ?」
「なんだお前」
襟首を掴まれた。
そしていきなり一発殴られダウンしてしまった。
まるでクラビの方が部外者の様な傲慢さだ。
マリーディアは嘆いた。
「ああ」
「行こうぜ」
マリーディアは連れてかれてしまった。
倒れたクラビの所にボジャック達が来た。
「何? マリーディアがさらわれた?」
「ふがいない」
「俺が助けにいってやる」
俺はやっぱり弱いんだ、だから身を引いたんだ。
マリーディアに剣術で負けたから。
情けなくてかつ高嶺の花だと思って。
俺じゃ釣り合わないと思って。
皆の捜索の末しばらくしてマリーディアは見つかった。
「男達は何とか煙に巻いて来たわ」
ボジャックは言う。
「クラビしっかりしろよ」
マリーディアは笑顔で言った。
「怒ってないわ」
ゾゾは言う。
「マジ天使な人」
ジェイニーは言った。
「本当、心の広い人ね」
クラビは思った。
ああ、昔マリーディアに負けたけど今度は守れなかった。
情けなさすぎる。
でも今度は強くなる。
努力しよう!
スタグラーに負けそうで、今度はマリーディアを守れなかった。課題が多いなあ。
そして孤児院に戻ると建物の外壁が攻撃された。
「くっ!」
「敵軍が来た! もうばれたか!」
「よし、行こう!」
マリーディアは言う。
「私も行くわ!」
「でも危険じゃ」
「大丈夫」
次話は「マリーディア初陣」です(2023年3月31日入れ替え)
「閑話」がその後に回ります。