マークレイとマリーディア・二
その日の夜、宿屋の庭にて。
マリーディアとマークレイは組み手をしていた。
「はあっはあ」
「はあっ、疲れた……」
「大丈夫かい?」
マークレイは気遣った。
マリーディアは言った。
「限られた時間の修行だけど何だか少し力が付いたような気がする」
「君は才能あるから気のせいじゃないよ」
「うん、でも皆が凄くやる気に満ちていてこっちまですごく乗せられるのよ。特にクラビ」
「……」
マークレイは複雑な気持ちだが嫉妬などを出さない様に務めた。
「彼、リーダーって言うよりか皆を照らす太陽みたい。大変な事がいっぱい起こるけど彼が希望を作ってくれている」
「ああ、俺も影響受けてるよ。俺も負けたくないって気が凄くして修行に身が入るよ」
マークレイは「今はクラビの話はしたくない」と言うのを察してほしかった。
マリーディアは少し鈍いから気づいてないだろうが。
マリーディアは少し疑問に感じた。
「貴方はクラビにライバル意識持ってるの? 何か初めて聞いたような」
「え? ま、まあ男として戦士として、あいつ凄い伸びだから」
「そう、そうよね。もともとはマークレイの方がずっと能力高かったのにね」
「ああ、このままいけばあいつは出世するよ。でも、俺が気になるのはそうじゃなくて別の意味でのライバル意識で」
「え?」
「……」
「別の意味って、何?」
マークレイは言葉を出さずじっと感情を抑えながらマリーディアを見つめた。
「あの、君から見て、俺とクラビ」
「え?」
「好き、じゃ、じゃなくどっちがリーダーに向いてると思う?」
「マークレイ」
マリーディアは微笑んだ。
「ありがとう」
マークレイは「どちらが好きか」と喉から出そうな程言いたかった。
しかし止めた。
これでいいんだ、ぐっと口をつぐんだ。
しかしマリーディアはマークレイの苦しそうな顔に気付いた。
「マークレイ、大丈夫?」
「え?」
質問のタイミングが不意だった。
「その、言わなかったけど生みのご両親の事」
マークレイは焦りながら何とか返した。
「え? ああ、寂しくないよ。今は仲間がいっぱいいるし、これからの事で頭が一杯さ。何としてもアンドレイを倒そう」
「く、くう」
「え?」
マリーディアはこらえていた。
「う、う、あううう」
しかし同情による悲しみは彼女の涙腺を破壊した。
「う、うう、可哀そう」
マリーディアは泣きだした。
それを見たマークレイは何倍も胸がどきどきした。
生まれて初めて凄いものを見た様に。
俺の為に泣いてくれてる……
何て優しいんだ。余計好きになっちまった。
思わずマークレイはマリーディアを抱き寄せようとした。
今は周りに誰もいない……
すると物音がした。
「俺が様子を見て来る。君はここを離れるな」
マークレイはさっと外に出て周囲を見回した。
そこに音がした。
それはクラビだった。
「ぬ⁉ もしかして悪人がクラビに化けてきたんじゃ」
「違うよ! 本物だよ!」
「何やってるんだ⁉」
「夜中のパトロール、じゃないよ。マリーディアが助けを求める声が聞こえたんだ」
マークレイはこの言葉にずきんとした。
「え?」
「何か泣いてる声」
これはマークレイに衝撃を与えた。
「お前には聞こえるのか」
「前から、俺には困ってる人の声が時々聞こえるのさ」
マークレイは拍子抜けした。
それは「マリーディアの声だけが聞こえるわけじゃない」からだった。
マークレイは誘った。
「……二人で周囲パトロールするか」
そして見回り終了間際にマークレイは言った。
「俺、お前の事すごくいい奴だと思ってる。でも負けたくない、譲りたくないものもあるんだ」
「え?」
笑顔でなく毅然と言った。
またクラビが何を自分が言おうとしてるのか察してほしいと祈った。
「負けたくない部分がさ」