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悲痛なる叫び

 恐竜の足の下で支えているメンバーは全ての力をここで放出するような気迫だった。

 クラビが激しい形相で叫ぶ。

「このまま持ち上げひっくり返す!」


 しかしマークレイとボジャックは突っ込んだ。

「いやそれは無理だ」

「ほんの少し上に上げて、足が上がった瞬間に高速で逃げ出すんだ」


 マークレイはマリーディア達に叫んだ。

「皆! 援護しないでくれ! 下手に攻撃するとこいつを刺激して踏みつける力が上がっちまう!」


 まだ突破は出来なかったが、クラビの勇者の光がより一層強くなった。

 ゾゾの危機を必死で助けようとしたのが引き金になったようだ。

「す、すごい! ますます光が上がっている」


 マークレイは口に出さず思った。

 俺も女神に力を貰ったと言ってもそこまで出ない。

 何がクラビと違うんだろうな。


 ボジャックは気持ちを察したのか偶然か言った。

「マークレイも負けてないぜ」

「あ、ああ」


 俺はクラビへの嫉妬心、そして何故出来るのか何が違うのかの疑問もある。

 おっとそんな事考えてる場合じゃない。


 シヴァが言った。

「マークレイさんもより光ってる」

「激しく点滅してる」


 ミッシェルは何となく分かっていた。

 あれは恐らくクラビへの対抗意識で感情が高ぶっているんじゃないか。


 恐竜の踏みつける力が更に上がった。

「俺もやるぜ!」

「俺も!」

 シヴァとベルスも足の下に入って支えた。


 ゾゾとシヴァは高速移動でほんのわずかな隙を突き他のメンバーを抱えて高速移動で逃げた。

「やった!」


 ジェイニー達は安堵した。

 クラビは逃げながら思った。

「気のせいかな、俺を一番に狙ってる気がする」

「気のせいじゃないか?」


 そして十分な距離を取った。

「皆、まとまらず散るんだ!」

 マークレイの指示で皆散り距離を取った。


 するとウウーッと声を出した恐竜は一直線にクラビに向かって来た。

「やっぱり! 俺が上手そうに見えるとか?」


「はっはっは!」

 そこにサブラアイム兵が現れた。

「そうだ! その恐竜は勇者クラビを先に狙う様特殊催眠をかけてあるのよ!」

「くっ!」


 クラビを狙う恐竜にミッシェルは金縛りをかけたが今度はかなり苦しい。

 クラビは大急ぎで距離を取った。

 金縛りが解けた。


「逃げきれない!」

 クラビは正面を向いた。


 クラビはカードを『重』、『超』に入れ替えた。

「くらえっ!」

 

 クラビは口目掛けてアンカーを投げた。

 すると恐竜の口に絡みついて閉じさせることが出来た。

「おお!」


「このアンカーには『超重』のカードが入ってる。上手く行けば重さに耐えられなくなるはずだ」

「グ、グウ」


 必死に頭を上げようとする恐竜だったが、徐々に重さに耐えられなくなってきた。

 マークレイは指示した。

「シヴァ! 俺達はアンカーを恐竜の足に絡みつけるんだ!」


 二人は左右の足に一人ずつ、『超重』のカードを入れたアンカーを絡めた。

 マークレイは更に指示した。

「皆! 一斉攻撃してくれ!」


 ジェイニーは魔法、ゾゾは高速の剣攻撃、ベルス達も足を狙った。

 恐竜の足の踏ん張りが効かなくなってきた。

「もう少しで倒れる!」


 その時クラビの耳に声が聞こえた。

「タスケテ……」

「え? 誰の声だ?」


「どうしたクラビ?」

 マークレイは聞いた。

「俺の耳に助けてって声が」

「はあ? まさか恐竜がそう言ってるとか思ってるのか?」


 マリーディアは言った。

「私も少し聞こえたわ」


 ボジャックは言う。

「二人共お人よし過ぎるぜ。人間相手ならまだしも、生物の痛みが分かるとか聞こえるとか」


「そんな甘さは今見せるな」

「そうだ」

 マークレイとベルスは言った。


「オレはニンゲン」

 またクラビに声が聞こえた。

「あっ、ちょっと待ってくれ皆!」


 しかし恐竜は既にダウンし、体にも皆の猛攻撃を受けて絶命しそうになっていた。


 その時何と恐竜の体縮小し始めた。

「えっ?」


 みるみる内に小さくなって行き、何と倒れたままの人間の男の姿になった。

「え⁉」


 うつ伏せの男はつぶやいた。

「俺は恐竜でも人間でもない恐竜神族、古代の生き残りの種族がアンドレイに脅され利用されたんだ……」


「そう言えばこないだ倒したドラゴンは魔物でも人間でもない上級魔族と言っていた。まさかそんな種族が人間界にいたのか?」


 ジェイニーは言った。

「確か本にほぼ滅びたと書いてあった」 


「我々僅かな民族はサブラアイムに利用され君達を襲う様仕向けられたんだ。うう」

「そ、そんな!」


「私はもう駄目だ。君達は我々の同胞を助けてやってくれ」

 と言い息を引き取った。


「何てことだ。本来人であり敵でもない人を殺してしまった」


「うう、俺達は罪人だ」

「アンドレイ、許せない」


 皆は悲しみに暮れながら男を墓に埋めた。

 そしてノーズランド神殿にもう少しの所まで来た。


 アイムは言う。

「辛い道だったけど、もうすぐ神殿で大きな力が得られるわ」   


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