孤児院到着 ヒロイン登場
ボジャックは何やら楽しみそうに言った。
「俺達の孤児院があるんだ」
しかし反面、クラビは言われたくない、嫌そうな反応をした。
クラビの様子に気づかずジェイニーは疑問に感じて聞いた。
「そうなんだ! でも何で寄りたくないの?」
「こいつがさ」
ボジャックは意地悪にクラビを指さした。
クラビは嫌そうな顔をしている。
恥ずかしそうにいらいらしている。
話をそらしたがっている。
ボジャックはその様子を知りながら、構わずストレートに言った。
「こいつの好きな女の子がいるかも知れないから」
「ええ!」
クラビは怒った。
顔が赤い。
怒りか照れか。
「言うなよ! 別に好きでも何でもねーよ! 勝手な噂流されただけだろ」
「その割には仲良かったろ、あーでもある頃から話さなくなったよな。何で」
「だから何でもないって」
孤児院が近づきクラビの胸が緊張と不安で高鳴る。
呼吸が荒くなっていた。
そしてルポガ町に着いた。
クラビの顔が熱を帯びて赤くなる。
「先に孤児院行こうぜ」
わざとボジャックは決めた。
この町は少年時代と大きく変わっていない。
商業発展を背景に商人や職人が都市的集落へ集まった。
周囲は壁に囲まれて市門がある。
守護聖人や紋章が刻まれている。
何故なら都市は守護聖人の庇護下にあるからである。
また、単に霊的守護者であるに止まらず手の上で都市が守られている祭壇画を描いた画家もいる。
そこは壁、門、塔の三つからなる。
そして朝の鐘を鳴らす。
高さ五メートル厚さ二メートル。石灰岩でできている。
とりわけクラビ達も世話になった様に教会、デュプス神が強くあがめられている。
衛兵は門を開けた。
ところで、市内には自然を取り込むことが出来ない。
また橋は石橋で下は乞食の宿る場所もない。
この町の行政区は三つ。
学校、教会、広場、屋台、社交場の風呂屋等がある。
商業地域の市場で布や家畜、食料品が取引される。
店先は低くなり商品陳列台の役割を果たす。
大聖堂は石工マスターと職人達の労働で作られる。
しかし定住したい石工は諸侯と対立した。
毛織物の生産も行われる。
問屋制家内工業があり紡ぎ車の様に布作り技術も進んだ。改良が進み横糸用や縦糸用が出来た。
(毛織物については二十部分で記述)
そんな中、クラビたちは言われるまま遂に孤児院に着き、入り口で笑顔で職員が出迎えた。
来ちゃった、とクラビは心でつぶやいた。
クラビがいた頃から建物の外観はあまり変わっていない。
養老院のようで間合十五メートル、奥行き十二メートル。石造三階立てで個室が一階に六部屋。
メンデルの十二人兄弟の館の様だ。
入り口で係員が出迎えた。
「昔お世話になった卒業生のボジャックです」
「これはこれは! 今先生を呼んできます」
新人、若手もいるが五十代のベテランになった当時からの職員は満面の笑顔で出迎えてくれた。
「おお、三人とも無事で! たくましくなったなあ」
「お久しぶりです」
ボジャックは最初に挨拶した。
クラビだけ緊張で挨拶が遅れた。
クラビは話さないのでボジャックが言う。
「ここ昔と比べ子供達静かですね」
職員が答えた。
「そりゃそうだ、有能で優しい女性職員がいるからな。ほら」
えっと言う感じで皆振り向いた。
奥から見め麗しい少女が出て来た。
まるで幕が開きそこから天使が現れた様であった。
カーテンは天界の幕に思われた。
少女は空気を支配した。
大袈裟ではない。ジェイニーさえ少女の美しさにぽーっとした。そこにいるのは降りてきた天使か。
しかし立派な人間であった。
「マリーディア!」
「わあ、久しぶりみんな! 元気そう!」
白く青い髪とりりしさと慈愛の情を併せ持つ目つき、上品そうな口元、細い体、皆が幸せになりそうな微笑み、全てが衝撃的ですらあった。
職員が言う。
「彼女は親が見つかって引き取られた後この孤児院の職員になったんだ」
マリーディアは答えた。
「恩返しがしたくて」
ボジャックは言う。
「素晴らしい」
クラビは挨拶が遅れた。
ガタガタどきどき心臓が鼓動する。
恥ずかしい。
目をそらしている。
クラビの頭の中に思い出が去来しまた現在の美しくなったマリーディアが眩しく映る。
眩しすぎて正視が出来ない。
客室に移動しジェイニーも加えてマリーディアと思い出話に花が咲いた。
ちらちらクラビは目をそらしている。
貧乏ゆすりもしている。
ゾゾは気づいていた。
そしてボジャックが耳打ちし、職員は取り計らった。
何とクラビとマリーディアを二人きりにした。
職員はお金を渡した。
「これで夕食食べて来なさい」
「ええ!」
クラビは心臓が飛び出しそうだった。
マリーディアは緊張と不安とてれが混じった顔をした。
二人きりで……
二人共戸惑っているがクラビの方がはるかに緊張は上だ。
緊張で街の風景や人が入ってこない。
そしてしばらく歩き街の中でもかなり上質な食堂に行った
皆育ちの良さそうな人が来ている。
プールポアンを着ている。
貴族の様な人ばかりだ。
クラビは本当にどぎまぎしていた。
何せ女の子と二人きりも珍しいのに好きなマリーディアだからである。
状況が信じられなかった。勿論昔クラビはマリーディアをデートに誘う勇気などなかった。
クラビにとってマリーディアは高嶺の花だった。色々な意味で。
緊張で沈黙が続く。
鳥やがちょう、鹿、豚、ウナギ等貴族しか食べられないような物を皆食べている。
「綺麗な店だね。何かどう振舞っていいか。マナーとか。汚い服で周囲から浮いてそう」
「そんな事ないわ」
「あ、何か初めてねクラビと二人で食事」
「う!」
クラビにはそれがマリーディアにとって嬉しいのかよく分からず慌てた。
確かめてもみたいが。
会話がいまいち続かない。ドリンクに唇をつけ溜息をついた。
マリーディアは動作が上品である。
回想した。
孤児院時代十三歳のクラビが思い切ってマリーディアに2人きりで話しかけた時、子供たちが寄って来た。
「こらー! マリーディア姉ちゃんはみんなの人気者なんだぞ! 独り占めするな!」
「そうだそうだ!」
「うっ」
何か悪い気がした。
マリーディアはクスリと笑った。
マリーディアは同級生たちに人気があり良く男子が話しかけてくる。
この頃クラビはいまいち目立たないので上手く話しかけられなかった。
タイミングを掴めないと言うか。孤児院の地味なポジションに甘んじていた事もありこのころ段々とマリーディアは高嶺の花と思う様になった。
昔、食べ物を巡って喧嘩が起きた時マリーディアは叫んだ。
何とナイフを首元に当てた。
「やめて! やめてくれなきゃ自害するわよ!」
皆呆然とした。
「マリーディアて度量もすごいよな。美人で優しいだけじゃなく。あと剣術も強い」
剣術の授業で男子を何人か負かせて見せた。
クラビもあっさり負かされた。
この頃から身を引こうと思い始めた。
それに彼女には親がいる手掛かりがあるらしい。
いずれ引き取られるんだろう。
ぼーっとした回想を終わる。
会話に戻る。
クラビはマリーディアの職業について切り出した。
「また孤児院に戻って来たんだ」
「うん、恩返しでね」
「恩を感じられるって素晴らしいよ。俺も含めて孤児は少なからず世の中恨んでるから」
「私も恨んだ事あるわ」
これは意外だった。
「そうなんだ」
「なるべく人には見せないで」
「ふーん、あまり想像できない。マリーディアって本当に気高い人格者って感じで、卑小な所がないって言うか。みんなそういう目で見てるよ」
「嬉しい」
笑みすべてが魅力的に見えた。
マリーディアは聞いた。
「ボジャックやゾゾとはよく会ってるの?」
「あまり会う機会なくて、もっぱら手紙、でも今回呼んだら来てくれた。悩み相談とかは普段あまりしない。暗くなるから」
マリーディアは誉めた。
「相談はあまりしないんだ。真面目で相手に配慮出来るのね」
「あっ、いや」
「でも相談はした方が良い」
「マークレイ達とは?」
「ああ、マークレイも元気そう」
マリーディアは不安で聞いた。
「大丈夫? マークレイの話したら表情と声が一段階暗くなった」
「えっ、そう?」
それには理由がある。
マークレイは怖い所もあるけど本当に頼もしく良い奴だ。
でもよくマリーディアと仲良さそうに話してたから仲良さそうだなーと。
マリーディアは、特に好感を持ってる感じでなくマークレイについて話した
「マークレイ本当にすごいリーダーシップと行動力ね。切れやすいけど」
「あいつ昔からすごいよ」
マリーディアは少し嫌そうだった。
「窃盗団やらなかったらね」
「あっ、俺も仲間だったから。多分今はやってない」
「でもマークレイ達少し怖い。クラビの方が話しやすい」
「え?」
マリーディアはクラビを褒めた。
「心遣いとか出来るし」
「俺孤児院の時目立たなかった」
マリーディアはやたら褒める。
「皆結構大事な存在だと思ってるわよ。なくてはならない」
「あ、ありがと」
マリーディアも思ってるのかな。
マリーディアは使用人生活を心配した。
「ちゃんと食べてる? いじめられてない?」
「られてるね。ただ屋敷を止めたから。これからは旅しながら勇者の力を引き出さなきゃ」
「努力家ね。クラビみたいに自分を抑え、前へ前へ行こうとする人を抑える。そういう人が社会に必要なのよ」
そして食後、マリーディアから切り出した。
「ああ、おいしかった、ねえ、貴方にとっては久しぶりの町を少し歩いてみない」
「え?」
またふいにすごい申し出が来た。
「思い出話とか出来そうだし」
「えっ! はっはい、受けさせていただきます!」