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#00:紅き彫像

今回、他の拙作よりも1話分を短めに区切っておりますが、自分の中では1章が1話ぐらいだという認識です。

 どこまでも続く巨木の大神殿。落ち葉を(まば)らに彩る月明かりは、白い霧に屈折しながら飛び散る雫を掬い、一際煌めいた。

 規則正しく、だが、今にも乱れそうな渇ききった荒い吐息と落ち葉を(まさぐ)る二つの軽い音だけが、森林の静寂を乱している。

「あっ……!」

 (さば)ききれない落ち葉に、少年の疲弊した身体がとうとう傾いだ。

 やわらかな葉のクッションがその身を受け止めたものの、立ち上がる気力は最早残されていない。目眩がするほど息も切らしていた。


 ――トン。


 ――……トトン。


 背後から忍び寄る、あまりにも軽い足音に血の気が引いていく。

 少年は、力を振り絞って仰向けになると、後方からの脅威に身構えた。

 霧の奥――赤黒く明滅しながら漂う、闇に紛れた二つの丸い光。

 いつの間に直ぐ傍まで来たのだろう。ゆっくりと、(ねぶ)るように近付く執行者(そいつ)は、次第に月明かりのカーテンを潜り抜け、おぞましい姿をちらつかせた。

 黒い、野獣だろうか。

 光沢を帯びた黒い肌に、鋭く湾曲した長い牙。落ち葉に立つ、四本の脚。

 少年はがたがたと四肢を震わせ、恐怖のあまり、無意識の内に失禁した。

「かか、神様――!」

 子供は身を起こして慌てて胸元で手を組み合わせ、か細い声を何とか絞り出した。

「約束を守れなかったぼくを、ど、どうかお許…………ッ!?」


 ばりっ……ごりっ……


 ぢゃくっ……


 ――それは、青白く照らす月明かりを赤く染め上げるかのように。

 小さな身体の頂から最期とばかりに噴き上げた紅い飛沫は、しかしながら、僅かな間で勢いを失くしていき……。


 子供は終に、(ひざまず)いて天を仰ぐ、(あか)き彫像と化していた。



挿絵(By みてみん)

2015/08/16 追記・修正、表紙絵追加。

イラストで欲しい……。

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