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第97話 記憶採取呪文

「あの、今のは一体……?」

「あ~、えーっとですね、こいつは俺の助手でメアリっていうんですけど、俺と違って呪いが使えない代わりにちょっとした超能力が使えるんですよ」

「超能力……?」

涼子さんはタヌキに化かされたような顔をして口を開けたままオウム返しをする。


「うち、記憶採取呪文が使えるねんでぇ~」

「な、なんですか、それ?」

「物体に触るとその物の記憶を読み取れるんやっ」

「へ、へ~、すごいんですね……」

「にははぁ~。それだけじゃなくてうちは他にも呪文が使えるねんでぇ~」

「おい、メアリ。そのへんにしとけ」

俺は褒められてうれしそうにしているメアリに注意をした。

これ以上ぺらぺらと呪文について喋られるのはあまり好ましくない。

下手すりゃ殺人者のことまで口を滑らせてしまいそうだ。


「はぁ~い、ヤマトお兄ちゃんがそう言うならそうするわ」

「それで、犯人は一人だったか?」

俺の問いかけにメアリは、

「ううん、二人おった。一人は背の高い金髪の男でもう一人は紫色の髪の女やったよ」

目線を中空に向けつつ返す。


「そっか、二人か」

群馬県内で紫色の髪の女っていうのはだいぶ珍しいから、割とすぐみつけられるかもしれないな。


「あ、あの、すみません。犯人は二人なんですか?」

俺とメアリの会話中に入っていいのか遠慮しながらも涼子さんが話しかけてきた。


「そうやでぇ」

「みたいです」

「あの、だとすると依頼料は二百万円ということでしょうか……?」

「まあ、二人とも殺すならそうなりますけど」

「そ、そうですか。そうですよね……」

あからさまに困った表情になる涼子さん。


そんな涼子さんを見て俺が「どうかしましたか?」と口にしようとした矢先、

「どうかしたん?」

メアリが俺よりも早く涼子さんに声をかけた。


「あ、ええ……実はお恥ずかしい話なんですけど、わたし全財産はたいても百二十万円くらいしかなくて……わたし大学生なんですけど、あ、もちろん大学は辞めました、バイトもしてます、でも入院費のこととかもあるし……」

「そうなんやぁ~、やっぱり世の中お金が必要なんやなぁ。ふんふん」

しみじみ語るメアリは放っておいて俺は涼子さんに向き直る。


「じゃあ、どっちか一人にしますか?」

「で、でもそれだと……京子の無念を晴らせたことにならないですし……」

「ヤマトお兄ちゃん、別に百万円で二人殺したってもええんちゃう」

とメアリ。


「ヤマトお兄ちゃんなら余裕やろ。それかうちが一人やったってもええで」

「あのなぁ、余裕とかそういう問題じゃないんだよ。特別扱いしたら他の依頼主の方たちに申し訳ないだろうが」

厳しいことを言うようだが例外を作ると他の依頼主に示しがつかない。

俺はこの仕事を長くやっていきたいと思っているので、どこかでほころびが出ることは避けたいのだった。


「むぅ~、ようわからへんわぁ。悪人なんやからお金なんかもらわんでも殺したったらええのにぃ」

ぷいっとそっぽを向くメアリ。

機嫌を損ねてしまったらしい。面倒だ。


メアリの背中を眺めつつどうしたもんかと考えを巡らせていると、

「あの、もしよろしければ百二十万円前払いしますので、残りの八十万円は少しだけ待ってもらえないでしょうかっ……?」

涼子さんが声を上げた。


「う~ん……」

「い、一週間だけで構いませんっ、ど、どうかお願いしますっ」

「一週間? 一週間じゃ八十万円は無理じゃないですかね」

「どんなことをしても必ず集めてみせますっ。なのでどうかお願いしますっ……!」

言うと同時に涼子さんは俺に向かって土下座をしてみせる。

それを見たメアリは突き刺すような視線を俺に向けていた。


はぁ~……。


「……わかりました。それでいいですよ」

俺は涼子さんの熱意とメアリの圧に押し負けて例外を認めてしまう。


「ほ、本当ですかっ! ありがとうございますっ! 本当にありがとうございますっ!」

「ヤマトお兄ちゃんは絶対そう言うと思っとったわぁ!」

涼子さんに強く手を握られメアリに抱きつかれた俺は、きっとまんざらでもない顔をしていたことだろう。


……やれやれ。

つくづく自分の意思の弱さが恨めしい。

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