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第87話 廃ボウリング場の悪人たち

ボウリング場の中は薄暗く、それでいて夏も近いというのに少しひんやりとしていた。

俺とメアリはそんな建物内を足音一つさせないようにゆっくり進む。

と、

「……あっははは、馬鹿かよっ」

若い男の声が響いて聞こえてきた。


さらに、

「マジマジっ、それなっ」

「超ウケるしーっ」

別の男女の声もする。


俺は声のした方に一歩進み出た。

するとボウリング場の椅子に腰掛けた十代半ばの少女と二十歳前後の男二人の姿が見えた。

間違いない、進藤美咲とその仲間たちだ。呪文のおかげで男たちは悪人だとすぐにわかった。


俺はメアリに目配せしてからあごをしゃくる。

メアリはそれを受けて、俺に体を寄せそっと覗き見た。

それから俺に顔を向けてうんうんとうなずいてみせる。


たださっきまでは男があともう一人いたはずなのだが、その男の姿はない。

トイレにでも行ったのだろうか。

俺は残りの一人が戻るまで待つことにした。


だがしかし、

「たのもーう!」

メアリは何を勘違いしたのか、大声を上げ一人勝手に飛び出ていってしまった。


「「「!?」」」

突如乱入してきた珍客に驚きの表情を浮かべる進藤美咲と二人の男。


「な、何よあんたっ!?」

「女っ?」

「なんだてめぇっ!」

メアリに向かって声を張り上げる進藤美咲と男たち。

仕方なく俺も出ていく。


「な、なんだてめぇらはっ!?」

「うちらはあんたらを殺しに来た正義の味方やぁっ!」

メアリは勇ましく啖呵を吐いてみせるが実際やるのは俺だろ。


「なんだこらっ!」

「殺すぞてめぇらっ!」

わけのわからない女に喧嘩を売られて一瞬で頭に血が上った男二人がこちらに歩み寄ってくる。

手にはそれぞれ金属バットとバールのようなものを握り締めていた。


それを見て、

「ヤマトお兄ちゃん、あとはよろしゅうっ」

俺とバトンタッチをして後ろに下がっていくメアリ。


「おい、逃げんのか女っ!」

「二対一だぞ! こらっ!」

馬鹿の一つ覚えみたいにこらこら怒鳴る男たちにうんざりした俺は、早々に決着をつけることにした。


「マダズミ。マダズミ」

二人の男たちを見据えて水球の呪文を唱える。

すると男たちの顔の周りに球体状の水がまとわりついた。


「ごぼっ!?」

「ぶぁっ!?」


この呪文は死刑宣告に等しく、発動したらまず助からない。

どんなに振り払おうとしても、どんなに逃げようとしても水球は決して離れることはない。

いっそ水を全部飲み込んでしまえば助かるかもしれないが、人間には到底不可能だろう。


二人の男は苦しみもがいた挙句、呪文発動からわずか十秒足らずで床に倒れ動かなくなる。

きっと肺にまで水が流れ込んだに違いない、死に顔はまさに鬼気迫るものだった。


ててててってってってーん!


『鬼束ヤマトは小向猛を殺したことでレベルが1上がりました』


俺の頭の中だけに機械音がこだまする。


『最大HPが2、最大MPが1、ちからが1、まもりが1、すばやさが1上がりました』


ててててってってってーん!


『鬼束ヤマトは山林弘也を殺したことでレベルが1上がりました』


『最大HPが0、最大MPが1、ちからが0、まもりが1、すばやさが1上がりました』



俺のレベルが37に上がる中、消えていく仲間たちの死体を目にして、

「……な、なんなのよ、一体……」

進藤美咲は体を震わせながら後ずさりする。

そんな進藤美咲を見て俺は困惑してしまうある事実を知った。


「おいおい、嘘だろ……」


さっきまでは男二人に紛れていて気付けなかったが、一人になった進藤美咲に目を向けると俺の背中に悪寒が走るのを感じた。


「進藤美咲、お前も悪人なんじゃないか」

「な、なんで、あたしの名前をっ……?」

「うーん、どうするかな。まいったな……」


一方の悪人を殺しておいて、もう一方の悪人は殺さないというのはどうなのだろう。

それは俺の中の主義やモラルに反するのではないだろうか。

いやいや、そもそも殺人者に主義もモラルもあったものじゃないか……うーん。


逡巡していると、

「お、おいっ! この女を助けたいなら抵抗するなっ!」

背中に声がぶつけられた。

声の主は残る最後の一人の男だった。

「ヤマトお兄ちゃん、ごめん。油断してもうたぁ……」

メアリの首にナイフを突きつけている。


「美咲、早くこっち来いっ」

「春馬っ」

呼ばれた進藤美咲はすぐさま男のもとに駆け寄っていった。

そして男の背中に隠れた。


「う、動くなよっ! 少しでも動いたらこの女殺すからなっ!」

「はいはい、わかったよ」

俺は両手を上げて降参のポーズをとる。

メアリは恐怖心というものがあまりないのか、首にナイフを突きつけられている割には平然としている。


「春馬、あいつ変な術使うわよっ。気をつけてっ……!」

「お、おう! おいお前、妙な真似したらこの女殺すぞっ! わかってるなっ!」

男は震える手でナイフを握り締めつつ、自身の声を荒らげた。


俺は両手を上げながらどうしたものかと考える。


残りMPは24。

水球の呪文はまだ使えるが、発動から死に至るまでにはそれなりに時間がかかる。

その間にメアリが首を刺されないとも限らない。

武態の呪文も唱えてから体が戦闘モードに変形するまで数秒を要する。


となると残る手は……。


俺は口を開くと「インテ」と発した。

その刹那、俺は男の真横に瞬間移動する。

そして男が反応できずにいるところを、

「ぅしっ」

俺は渾身の右ストレートを男のこめかみめがけ打ち抜いた。


なすすべもないまま横に吹っ飛び床を転がった男は、体をびくんびくんと痙攣させている。


俺は追い打ちとばかりに「マダズミ」と水球の呪文を唱えた。

その結果――


ててててってってってーん!


『鬼束ヤマトは加納拓海を殺したことでレベルが1上がりました』


『最大HPが1、最大MPが0、ちからが1、まもりが1、すばやさが0上がりました』


男は気を失いながら死を迎えたのだった。

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