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第82話 メアリ再訪

「おはようヤマトくん」

「あ、おはようございます清水さん」

ゴミ出しのため外に出るとお隣の清水さんと顔を合わせた。


「ゴミ出し? 偉いわね~」

清水さんはラフな恰好で腕にはバッグをかけている。

おそらく弁当屋さんに向かうところだろう。


「あ、そうそう。ヤマトくん、昨日の夜誰か来てた?」

と清水さん。


「あ~、すいません。やっぱりうるさかったですよね」

「ううん、そんなこと気にしないで。壁が薄いんだからしょうがないわよ」

清水さんはそう言ってくれるが、さすがに深夜にうるさくするのは非常識だ。

今度メアリに会ったら厳しく注意しておこう。


「もしかして彼女?」

「いえいえ、そんなんじゃなくてですね……」

とそこで俺は考える。

どうする?

メアリのこと清水さんに話すべきだろうか。


清水さん母娘は俺が殺人者であることも、週一回人を殺していることも知っている。

その上で家族のように俺に接してくれているのだった。

俺としてはこの母娘に嘘や隠し事は極力したくないのだが、こちら側の血生臭い世界に引き込んでしまうことだけは避けたかった。


なので――

「親戚です。飯島メアリっていって、たしか高校三年生だと思います。親と喧嘩して家出してきたとかで突然俺のところにやってきて、騒がしくしちゃって……」

俺は真実は話さないことにした。


「あら、そうなの。高校三年生なら美沙と同学年じゃない」

「そうですね。あの、時間大丈夫ですか?」

「あ、そうだったわ。じゃあ私仕事に行ってくるわね」

「はい、いってらっしゃい」


清水さんは「メアリちゃん、今度紹介してね~」と急ぎ足で立ち去っていく。

俺はそんな清水さんを見送りつつゴミ出しを済ませた。



◇ ◇ ◇



それから一時間ほどしてメアリがまたしてもうちにやってきた。

俺はあまり大きな声を出さないようにとメアリに注意をしてから部屋に招き入れる。


「お前、学校は? 今日月曜日だぞ」

「ええねんええねん。そないなことよりニュース見てくれたぁ?」

「ああ、見たよ。死刑執行、六人目だってな」

「これでうちのこと信じてくれたやろぉ」

「別に疑ってたわけじゃないさ。それでその即死呪文だっけ? 消費MPはどれくらいなんだ?」

一応知っておこうと思い訊ねるが、

「消費MPってなんなんやぁ? うち、わからへんねんけど」

メアリは首をかしげ訊き返してきた。


「は? わからないってステータス見りゃわかるだろ」

「ステータス? ステータスっていうのもうち知らんよ」

とメアリは言う。

そこで俺ははっとなる。

そうか。俺にはあきらがいろいろと教えてくれたが、こいつには誰も殺人者について教えてやっていないのか。


「じゃあもしかして、一週間に一回人を殺さないと死ぬってことも知らないのか?」

「えぇっ、そやったん!? 全然知らんわそんなんっ!」

驚きの声を上げるメアリ。メアリの甲高い声がアパート中に響き渡る。

まあ、俺以外のアパートの住人は仕事や学校で家を留守にしているので少しくらいの大声なら問題ないだろう。多分。


「お前、それ知らないで人殺してたのか」

「だって変な機械の音声はレベルアップしたとか、呪文を覚えたとかしか言ってくれへんやんかぁ」

メアリは不満そうに口をとがらせた。


「じゃとりあえずステータスオープンって言ってみな。話はそれからだ」

「はぁ~い」



◇ ◇ ◇



俺はこの後メアリにステータスの見方を教えてやった。

ついでに覚える呪文はランダムだということも教えてやった。

すると予期せずメアリからも重要な話が聞けた。


「えっ、そうだったのか?」

「そうやで、知らんかったん? 鬼束くん」

「あ、ああ。てっきり寝ることで回復するものだとばかり思ってた」


メアリから聞いた話によると即死呪文の消費MPは50でメアリの最大MPは60だということだった。

つまり即死呪文は一日に一回しか使えない計算になる。

ところがだ、メアリは昨日二人の死刑囚を殺していた。

そこで俺がそれはおかしくないかと訊ねたところ、「日付が変わったからやろぉ」とメアリは当然のごとく答えた。

俺は消費したMPは寝ることによって回復すると思っていたのだが、日をまたぐことでMPは全回復するのだとこの時初めて気付かされたのだった。

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