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第72話 あきらと二人

「なんでも頼んでいいよ。ここは僕のおごりだから」

俺がメニューを見ているとあきらが口にした。

その言葉を聞いて隣のテーブルにいた女性の店員さんがくすっと笑う。

恥ずかしいからやめてくれ。


今、俺とあきらはファミレスにいる。

家の近所にはなかったのでわざわざタクシーを使って十五分かけてやってきていた。


「僕サイコロステーキセットにしよっと。ヤマトさん、何にするか決まった?」

「いや、まだだ」

「ヤマトさんってもしかして優柔不断?」

「そんなことはない」


ファミレスなんて久しぶりに来たのでメニューの豊富さに内心驚いていた。

だが俺は大人だ、そんな素振りは見せずに余裕のある大人の振る舞いをする。


「よし、俺も決めたから店員さん呼ぶぞ」

テーブルの上にあるチャイムを鳴らす俺。

するとすぐに女性の店員さんがやってきた。


「ご注文お決まりでしょうか?」

「はい。サイコロステーキセットと極上牛フィレ肉のステーキセットください。焼き方はミディアムで」

「あっ、ヤマトさんすごい高いの頼んだっ」

あきらがメニューを見ながら声を上げる。


「いいだろ、別に。大人はこういうのを食べるんだよ」

ここはあきらのおごりだからな。どうせならとメニューの中で一番高いやつを注文してやった。


「あきらも俺と同じのにするか?」

「むぅ~……うん。僕も同じのがいい」

「すいません。サイコロステーキセットはなしで極上牛フィレ肉のステーキセット二つにしてください」

「はい、かしこまりました。お飲み物はいかがいたしますか?」

「ホットコーヒーとオレンジジュースで」


注文を済ませると店員さんが去っていった。


「ヤマトさんって遠慮って言葉知ってる?」

「なんでも頼んでいいって言ったのはあきらの方だぞ」

「それはそうだけどさぁ、こういう時って普通はおごってくれる人より安い物を頼むんじゃないの?」

至極真っ当な意見を言ってくるあきら。


「じゃあ俺がおごろうか?」

「駄目だよ。僕がおごるって決めてるんだから」

「だったらこの話はこれで終わりだ」

俺は無理矢理話を切り上げると水を口に含む。


「は~い、わかったよ。じゃ話は変わるけどさ、葉加瀬教授だっけ? どうするつもりなの?」

あきらは身を乗り出して訊いてきた。


「そうだなぁ、とりあえず読心と千里眼で調べてみるかな」

「へー、ヤマトさんって読心呪文と千里眼の呪文覚えてるんだ。レベル30にしてはいい呪文覚えてるじゃん」

そう言うってことはあきらはその二つの呪文、両方とも使えるということだろう。


そういえばあきらってレベルいくつなんだろうな。訊いたことなかったな。

知りたい気持ちもあるが知りたくないという思いもある。

こんな可愛い顔して実は千人も人を殺してるとか聞きたくはない。


「な~に? どうかした?」

あきらはつぶらな瞳で俺を見てくる。


「いや別に。それでこの後はどうするんだ? あきらは泊まる場所決まってるのか?」

「え? ヤマトさん家に泊まるけど」

「はぁっ? 俺ん家に泊まるつもりだったのかお前?」

「うん、そうだよ。あの部屋ちょっと狭いけど僕一人くらいなら平気でしょ」

狭いとか言うなよ。


「駄目なの?」

とあきらは捨てられた子犬みたいにすがるような目をして言う。

こういう時だけ年相応の反応をしてみせるあきら。

自分の容姿が可愛いとわかっていてやっているんじゃないだろうな。


「……好きにしろよ。狭い部屋だけどな」

「わぁ、やったーっ。ヤマトさん、大好きっ」



俺たちはこの後運ばれてきた料理をすべて平らげると二人で俺の住むアパートへと帰っていった。

そして順番にお風呂に入るとそれぞれ俺はベッド、あきらはソファに横になった。


明かりを消した部屋で声を飛ばし合う。


「明日は東京だね。ヤマトさんと東京かぁ、楽しみだなぁ~」

「遊びに行くんじゃないからな」

「わかってるってば」

「本当かよ……まあとにかくおやすみ」

「うん、おやすみ~っ」


弾んだ声を返したあきらだったが一分も経たないうちに「すぅ、すぅ……」と寝息が聞こえてきた。

俺はそんなあきらの子どもらしい一面にほっとしつつ、あきらの安らかな寝息を子守歌代わりに眠りにつくのだった。

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