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第69話 レベル30

「あきら……お前どうしてここに?」

「へへへ。ちょっと近くまで来たから寄ってみたんだ」

あきらは人懐っこい顔で笑いかけてくる。


「寄ってみたって……なんで俺の家知ってるんだよ」

「ふふん、内緒。それより上がってもいい?」

言いながら靴を脱ぎ始めるあきら。


「まあいいけどさ。あっでも多分そのうちお客さんが来ると思うからその時は静かにしててくれよ」

「それって女の人?」

「ああ、お隣さんだよ。なんか大事な話があるらしいんだ」

「ふーん、どうでもいいけど」

あきらは興味なさげにつぶやくと俺のベッドに寝転んだ。

そして枕を抱きかかえるようにして丸くなる。


「なぁ、あきら。そういえばこの前、金田源五郎って殺人者が俺のところに来たぞ」

「金田源五郎?」

「ああ、俺を自分のチームに勧誘しに来たんだ」

「ふーん。でヤマトさんはそのチームに入ったの?」

「いや、断った」

「へー、意外だね。合理的に考えればチームには入っておいた方が得なのに」


あきらの言う通り、チームに入っておけば同じチーム内の殺人者と協力し合えるし敵になることもないから魅力的な話ではあった。

俺も話を聞いた時はそのままチームに入ってもいいと思っていた。


「なんで断ったの?」

「そいつらの狙いがあきらだったからだ」

「僕?」

「ああ。お前、そのチームの奴らを何人も殺したんだって? かなり恨みを買ってたみたいだぞ」

「う~ん、どうだろ。いちいち殺した奴のことなんて憶えてないからなぁ」

可愛い顔に似合わないセリフを吐くあきら。

まだ十二歳の女の子のはずなのにどこか達観したような表情で天井をみつめていた。


「っていうか狙いが僕なのとヤマトさんが誘いを断ることになんの関係があるの?」

「は? だって俺がそのチームに入ったらあきらを殺すことになってたんだぞ。そんなこと出来るわけないだろ、あきらには少なからず恩があるからな」

「……変なの。ヤマトさんってやっぱり変わってるよね、僕にはヤマトさんの考えてることがよくわからないや」

本当に不思議そうにあきらは俺をじっと見てくる。


「誘いを断ったら敵だとみなされるから襲われるのに」

「ああ、襲ってきたよ。運良く返り討ちにしてやったけどな」


正直金田を倒せたのはかなりラッキーだった。

たまたま電車が近くを通ってくれていなければ、今頃この世にいないのは金田ではなく俺の方だっただろう。


「ヤマトさんって今レベルいくつ?」

「今か? ちょっと待ってろ。ステータスオープン」


ぴこーん!


電子音が鳴り目の前にステータスボードが現れる。



*************************************


鬼束ヤマト:レベル30


HP:64/64

MP:60/60

ちから:57

まもり:56

すばやさ:55


呪文:クフイカ(2)

  :クドゲ(1)

  :チンカンニクア(3)

  :シアビノシ(4)

  :ンガリンセ(6)

  :ンシクド(5)

  :インテ(10)

  :ヨキウヨシクオキ(25)

  :マダズミ(10)


*************************************



「レベル30だな……ステータスクローズ」


ぴこーん!


つまり俺はこれまでに二十九人もの人間を殺しているということだ。

いや、金田を含めると三十人か。


「……あのさぁ、前にも言ったけどそういうことは殺人者相手には教えない方がいいよ」

「お前が訊いてきたんだろ」


あきらは相手の心が読めるはず。

ならば俺が隠し事をしてもなんら意味はない。


「金田の仲間が敵討ちにやってくるんじゃないかって内心ビクついてたんだけどな、今のところはそういった気配もないから俺の存在は知られてないんだろうな」

「あー、その心配なら多分もうしなくてもいいと思うよ」

「ん? どういうことだ?」

「今思い出したんだけどさ、昨日ね金田源五郎のチームメイトを名乗る殺人者数人が僕のところに来たんだよ。あいつら僕が金田を殺したと思って血眼になって僕のこと探してたみたい」

「えっ? それでどうなったんだ?」

「もちろん皆殺しにしたよ」

あきらは蚊でも殺したかのようなトーンで言い放つ。


とその時だった。


ピンポーン。


玄関のチャイムが鳴った。

おそらく今度こそ美紗ちゃんだろう。


まだ話の途中ではあったが俺は寝室のドアを閉めてリビングからあきらを見えないようにすると、玄関に駆け寄っていった。

玄関のドアを開けて、

「いらっしゃい」

「こんばんは鬼束さん」

美紗ちゃんを出迎える。


すると、

「こんばんは、鬼束さん。お久しぶりです、柏木由香です」

美紗ちゃんの横には礼儀正しくお辞儀をする柏木さんの姿もあった。

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