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第66話 三人のレイプ犯

――その時は突然やってきた。


高橋さんとの飲み会から二日後のこと、今日最後となるお客さんのもとに高橋さんが出向いた。

場所はラブホテルの一室。

そのドアを開けると部屋の中で待っていたのは体格のいい三人の男たちだった。


瞬時に亜紀さんを襲った三人だと直感した高橋さんはすぐに逃げ出そうとしたが、部屋の中から伸びてきた太い腕によって部屋の中へと引きずり込まれてしまう。


ラブホテル前の道路脇に停めた車の中でその様子を千里眼の呪文によって見ていた俺は、すぐさま車から飛び出すとラブホテルに駆け込んだ。


部屋番号は104。

俺はラブホテル内を全力で駆け抜けると104号室のドアの前にたどり着く。


「高橋さんっ! 高橋さんっ!」

何度もドアを叩く。が返事はない。


そこで俺は転移呪文で部屋の中にワープした。


するとそこには口を塞がれ手足を縛られ一切抵抗できなくなった高橋さんがベッドの上に寝かされていて、その周りを取り囲むように半裸状態の大柄な三人の男たちが高橋さんをスマホで撮影していた。


「ん~、ん~っ!」

俺の姿を見た高橋さんが助けを求めるように必死に声を出そうとする。

その目には大粒の涙が浮かんでいた。


「な、なんだてめぇ!?」

男たちのうちの一人、坊主頭の男が俺に気付く。

「てめぇ、どこから入ったっ!」


それを受けてロン毛の男とモヒカンの男が振り返った。


「あん? なんだこいつ?」

「おいチビ、何してんだこらっ」

「お前たちがレイプ犯で間違いないな」

俺が言うとモヒカンの男が、

「んだてめぇ、殺すぞっ!」

と俺の胸ぐらを掴んでくる。


悪人感知呪文や読心呪文を使う必要もない。

こいつらは完全にクロだ。


そう判断した俺は、

「マダズミっ」

と口にした。

直後モヒカンの男の顔の周りに直径三十センチほどの球体状の水が出現した。


「ぼごっ……!?」

息が出来なくなったモヒカンの男は慌てふためきながらなんとか水を払い飛ばそうとする。

しかし水の球は顔から離れない。


「なっ、てめぇがやったのかこらっ!」

ロン毛の男が俺の首を掴もうと手を伸ばしてきた。

俺はその手を取ると力づくでひねり上げる。


「うあ、いてててててっ!」

「マダズミっ」

俺はロン毛の男を取り押さえつつ坊主頭の男に向かって呪文を唱えた。


「ぶごぉっ……!?」

坊主頭の男の顔の周りにも水の球体が貼りつく。


残りMPは7。

消費MP10の水球の呪文はもう使えない。


俺はもがき苦しんでいる男二人は放っておいてロン毛の男に集中した。

幸い俺のレベルは27まで上がっているので、たとえ相手が柔道の有段者だろうと一対一なら負けそうにない。


俺に腕をとられて腰をかがめて痛がっているロン毛の男の顔面に俺はさらに膝蹴りをくらわせた。


「ぶふっ……!」

攻撃した俺の膝の方も充分痛かったが、その甲斐あってロン毛の男は鼻の骨が折れたようで鼻が折れ曲がり血が溢れ出る。


「くっそがぁーっ!」

ロン毛の男は俺の攻撃に逆上したのか、腕の関節がきまっているのもお構いなしにもう片方の手で殴りかかってきた。

無茶な体勢ながらもさすがは柔道の有段者、するどいパンチが俺の頬をとらえる。


「んぐっ……!」

だがこんなもの、レイプの被害を受けた亜紀さんの苦痛に比べたら少しも痛くない。


「うおおぉっ」

俺は両手でロン毛の男の顔を掴むと飛び膝蹴りを顔面に浴びせた。

何度も何度も何度も何度も。


気付くとロン毛の男の顔はぐちゃぐちゃになっていて既にこと切れていた。

周りを見回すとモヒカンの男も坊主頭の男も床に倒れている。



ててててってってってーん!


『鬼束ヤマトは桑原岳人を殺したことでレベルが1上がりました』


『最大HPが0、最大MPが2、ちからが1、まもりが1、すばやさが2上がりました』


ててててってってってーん!


『鬼束ヤマトは亀井次郎を殺したことでレベルが1上がりました』


『最大HPが2、最大MPが1、ちからが0、まもりが0、すばやさが1上がりました』



レベルが2上がった俺の目の前でモヒカンの男と坊主頭の男が消えていく。

さらに、


ててててってってってーん!


『鬼束ヤマトは熊井信二を殺したことでレベルが1上がりました』


『最大HPが2、最大MPが2、ちからが1、まもりが2、すばやさが2上がりました』


ロン毛の男も俺の手の中から消滅していった。



俺はベッドの上の高橋さんに顔を向ける。

すべてを見ていた高橋さんは小刻みに体を震わせていた。


まいった……残りMPがもうないから高橋さんに記憶消去の呪文を施せない。


どんな反応をするだろうか、大声を出して怖がられるんじゃないか、そう思いつつも俺は優しく口のテープをはがして手足のロープをほどいてやる。

すると、

「うわぁ~ん、怖かったぁ~っ!」

高橋さんは俺を怖がるどころか強く抱きついてきた。

号泣しながら俺の胸に顔をうずめてくる。


「高橋さん……」


よかった。

どうやら高橋さんには記憶消去の呪文は必要なさそうだ。

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