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第62話 ゆうにゃん

テレビ局の場所を調べ上げた俺は下見がてらそこへ向かう。


電車を乗り継ぎミュージックランドが放送されるテレビ局にたどり着いた俺は、遠くから様子を見てみた。

するとやはり予想通り、守衛さんのような人がいてテレビ局の建物内どころか敷地内にも入れそうにない。


そこで敷地の外側をぐるっと回って建物に一番近いところを探してみると、大体十メートルくらいの距離までは近付けた。

これならなんとか転移の呪文でテレビ局の建物内に直接侵入できそうだ。


ゆうにゃんがテレビ局に来るのは明日。

今日のところはひとまず近くのビジネスホテルに泊まって明日に備えよう。



◇ ◇ ◇



翌日の昼過ぎ。

ネットで何気なくゆうにゃんを検索していると[今、テレビ局に着いたよ~!]とつぶやいているのを発見する。


夜の生放送の番組なのにもうテレビ局に入ったのか。

時間を潰すため訪れていた本屋をあとにすると俺はテレビ局へと足を運んだ。


昨日偵察しておいた場所まで行くと「インテ」と唱え、テレビ局の建物内に瞬間移動する。

上手い具合に男性用トイレに転移出来た俺は局の関係者を装って廊下に出た。

一応帽子とマスクで顔は隠しているので、どこかに監視カメラがあっても正体がバレることはないだろう。


そんなことを考えていると、前の方からバラエティー番組でよく見る人気モデルがこっちに向かって歩いてきた。

背が高い。顔が小さい。手足が長い。

香水のいい匂いを漂わせながらそのモデルが俺の隣を通り過ぎていく。


俺はその芸能人オーラに圧倒されて息をすることも忘れ、いちファンのように目を奪われてしまっていた。


あらためて俺は今、東京のテレビ局にいるのだと実感する。



◇ ◇ ◇



運よく廊下にあった張り紙でミュージックランドの収録が行われるスタジオを知った俺は、早速その階へと移動するとゆうにゃんの楽屋を探す。

すると最近出たての男性アイドルグループの隣の部屋のドアに、ゆうにゃん様と書かれた紙をみつけた。


ここがゆうにゃんの楽屋か……。


ドアを一枚隔てた向こう側にゆうにゃんがいるはずだ。

俺は高鳴る胸の鼓動を抑えながら「チンカンニクア」とつぶやいた。


……。


だが何も反応はない。


偏見かもしれないが芸能人やテレビ関係者は多かれ少なかれ悪いことをやっているんじゃないかと思っていただけに、テレビ局内で一人も悪人を感知しないことに拍子抜けしてしまう俺。


とその時ゆうにゃんの楽屋が内側から開いた。

俺はとっさにスマホに視線を落とし操作している振りをする。


「おっそいわね~。もうすぐリハなのにゆうにゃんったらどこに行ったのかしら~?」


楽屋から顔を覗かせた人物はゆうにゃんではなかった。

スマホに顔を向けつつその女性を盗み見るとゆうにゃんとは似ても似つかない太ったおばさんだった。

ゆうにゃんの楽屋にいるということはマネージャーさんだろうか。


その女性の印象に残ることは極力避けたかったので、俺は一旦その場をあとにしようと女性に背を向ける。


「!?」


その瞬間、俺は突如として冬の海にでも飛び込んだかのような強烈な寒気に襲われた。


「あっ、ゆうにゃんってばどこ行ってたのよ~っ!」


女性の声を受け俺は思わず顔を上げる。


「ごめーん、平岩さん! この前の特番の時のプロデューサーにつかまっちゃってさー!」


すると俺の視線の先にはテレビ局の廊下のど真ん中を我が物顔で歩くゆうにゃんの姿があった。

その姿を見た途端、俺の背中にぞくぞくっと悪寒が走り全身に鳥肌が立つ。


ゆうにゃんは女性と大声で会話しつつ俺の横を通り過ぎる際俺を一瞥してから、そのまま女性と一緒に楽屋に入っていってしまった。



……間違いない。

ゆうにゃんは悪人だ。


しかもこれまでの経験則からして、俺の見立てではゆうにゃんは山本さんが話していた以上の悪人かもしれない。

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