第61話 盗作?
「曲を盗んだ?」
「はい。ゆうにゃんは私の楽曲を盗作したんです」
「えっと、山本さんはゆうにゃんと知り合いなんですか?」
気になったことを訊いてみる。
「いえ、知り合いではないです。会ったこともありません」
「え? だったらなんで……?」
「私の夢は歌手だったんです」
「は、はあ……」
山本さんは俺の問いには答えず何やら語り始めた。
「中学生の頃からずっと路上ライブとかしてていつか歌手になるんだって。でも全然芽が出なくて……親は心配するし周りはみんなちゃんと働いているし……だから二十五歳までに歌手になれなかったらきっぱり諦めようって決めていたんです」
「はい……」
「結局二十六歳になった私は今歌手の夢を諦めてOLをしているんですけど、最近になってゆうにゃんっていう歌手の存在を知って衝撃を受けたんです」
「最近?」
ゆうにゃんて確か一年半くらい前からブレイクしているはずだけど……。
「私最近の歌とかあえて聴かないようにしていたんです。聴くとつらくなるので」
「あー、そうだったんですか。えっとそれで、ゆうにゃんが山本さんの楽曲をパクっていたんですか?」
「はい。ゆうにゃんのデビュー曲のひまわりっていう曲は歌詞こそ違いますけど、メロディーはそのまま私が路上ライブで歌っていたものと丸々同じだったんです」
「うーん、そうですか……」
山本さんの心を読んだ限りでは嘘はついていないようだ。
だが本人がそう思い込んでいるだけという可能性も捨てきれない。
「ゆうにゃんはきっと私の歌をどこかで聞いていてそれを盗んだんです。もしゆうにゃんさえいなければ私が歌手になれていたかもしれないのに……」
歯を食いしばり悔しさをにじませる山本さん。
「これ、依頼料の百万円です。どうか私の依頼を受けてください、お願いしますっ」
そう言ってバッグから分厚い白い封筒を取り出すとそれを俺によこしてくる。
「わかりました」
その封筒を受け取る俺。
「本当ですかっ? ありがとうございますっ」
「ただ、実行するのは殺すに値する人物かどうか調べてからです。それでもしゆうにゃんが山本さんの言うような悪い人間ではなかった場合はお金はお返ししますので依頼はなかったことに……それでもいいですか?」
「はい、それで構いません。絶対にゆうにゃんは私の曲を盗んだはずですから」
山本さんは自信満々に答えた。
「では俺はゆうにゃんを調べるので二、三日ください。もしクロだった場合はそのまま実行に移しますから」
「わかりました。面白いニュースが流れるのを楽しみに待っています」
嬉々とした顔を見せる山本さんと別れると俺はスマホを取り出す。
そしてゆうにゃんの本名をネットで調べてみた。
顔と名前を知らないと千里眼の呪文が使えないからだ。
だが、
「あれ? どこにも載ってないぞ……」
いくら調べてもゆうにゃんの本当の名前が出てこない。
そこから十五分ほど粘ってみるもやはり本名はわからずじまいだった。
……おいおい、これじゃゆうにゃんの居場所がわからないじゃないか。
「どうするか……?」
するとスマホの画面の下の方にあった文字が目に入ってくる。
そこにはこう書かれていた。
[明日のミュージックランドにゆうにゃんが緊急生出演!!]
ミュージックランドとは金曜の夜に生放送でやっている民放の音楽番組のことだった。
俺はほとんど観たことはないが番組名くらいは知っていた。
「テレビ局か……」
ゆうにゃんに近付ける機会はもうこれしかない。
そう思った俺はその音楽番組を収録するテレビ局の場所をネットで確認することにした。