第59話 日常
金田源五郎が電車に撥ねられ死亡した件はニュースで大きく取り上げられた。
今回は俺が直接手を下したわけではないので俺のレベルは上がることはなく、金田の死体も消えずに残ったのだった。
当該電車を運転していた運転士さんは金田が突然目の前に現れて一瞬の出来事でどうしようもなかったと証言した。
また、もう一人いたような気がするとも証言したのだが線路にはそのような痕跡は一切なかったことと他に目撃者がいなかったことから、警察は金田の単身自殺の可能性が高いとの見解を示した。
一方、事故現場のそばにある公園内から大量の血だまりが発見されたことも揃ってニュースになっていた。
警察の調べによってその血液は金田のものではないと断定された。
そのようなことからネット上では、現場には実はもう一人いてその血液の主こそが金田を殺した犯人なんじゃないか、という声が多数上がっていた。
ほぼほぼ当たりだ。
金田が死んだことそれ自体については俺はなんとも思っていない。
振りかかる火の粉をただ払っただけに過ぎないからな。
だが金田には殺人者の仲間がいるらしい。
そいつらは今回の報道を見て聞いて果たしてどう思うだろうか。
本当に金田が自殺をしたと思ってくれるだろうか。
殺人者と殺し合うなんて二度とごめんだ。
そのためにもこれまで以上に行動には細心の注意を払う必要がある。
しばらくは自宅付近での殺人は控えることにするか。
俺は明かりを消した暗い部屋の中で一人静かにそう心に決めた。
◇ ◇ ◇
俺はそれからしばらくは県外で人を殺していた。
その多くは東京で実行していたのだが、やはり隣近所との関係が希薄なせいか人が消えても特に騒ぎになることはなかった。
金田の殺人者仲間についても特にそれらしい人物が俺の周りをうろつくことはなく、俺は次第に不安から解き放たれもとの穏やかな日常を取り戻しつつあった。
俺のレベルは5上がって23になっており、マダズミという新たな呪文も覚えていた。
そんな中俺のもとにとある女性から殺人依頼が舞い込んできた。
[私は東京に住む二十六歳のOLです。今回メールしたのはある女性を殺してほしいからです。詳しい話はお金をお渡しする時に話します。どうか私の頼みを聞いてください。]
「これだけじゃあ、さすがによくわからないな……うーん」
俺はその女性にメールを返信してみることにする。
「相手は悪い人間ですか……っと」
文字を入力し送信するとものの一分足らずで[極悪人です。]とだけ返ってきた。
そういうことなら会ってみるか。
そう思い、俺はこの依頼を引き受ける旨の返事とともに待ち合わせの場所と時刻を書いたメールをこの女性に送る。
すると、
ブウウゥゥーン……ブウウゥゥーン……。
またも一分かからずに返信が来た。
[東京タワー内にあるカフェに明日の午後一時ですね、わかりました。私は全身黒ずくめの恰好で行きます。]
俺は東京には詳しくないので東京在住の依頼主との待ち合わせ場所は、もっぱら東京タワーかスカイツリーと決めている。
前回はスカイツリーだったので今回はなんとなく東京タワーにしておいた。
「さてと、今日はもう寝るかな……」
明日は朝一で東京に向かうため俺はいつもより早くベッドに横になるのだった。