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第56話 吉田まさ子

岡島と別れた俺は悪人感知呪文と読心呪文の効果がまだあるうちに吉田まさ子の家へと向かうことにした。

吉田まさ子の家は吉田ねじ有限会社のすぐ隣だったので場所は知っている。わざわざ千里眼の呪文を使う必要はない。



◇ ◇ ◇



吉田まさ子の家に近付いていくと身震いするような肌寒さを感じた。

決して気温のせいだけではないはずだ。


とその時吉田まさ子の家のドアが開いて吉田まさ子本人が出てきた。

俺はとっさに電信柱の陰に身を隠す。


最後に見た時よりも吉田まさ子はさらに厚化粧に磨きがかかっていた。

いよいよ本当にマンドリルのようだ。


そしてやはり悪寒は吉田まさ子が原因のようだった。

遠くから吉田まさ子をみつめると腕に鳥肌が立つ。

つまり吉田まさ子は悪人ということだ。



吉田まさ子は俺に気付くことなく道路を挟んで向かいの歩道を歩いて通り過ぎていった。

俺は忍び足の呪文を唱えると向かいの歩道に渡りそっと後ろからついていく。


吉田まさ子が知り合いだからといって手心を加えるつもりは俺にはまったくない。

吉田まさ子に対しては恨みこそあれ感謝の気持ちはこれっぽっちもないのだからな。


「それにしても……」


吉田まさ子の頭の中は岡島のことでいっぱいだった。

岡島のこと以外頭にないようで岡島くん、岡島くんと心の中で連呼している。

旦那さんや息子さんのことなどは一切考えてはいない。


確かに岡島の言う通りこれでは家庭が崩壊するかもな。


そんなことを思っていた矢先、吉田まさ子が金物屋に入っていった。

俺は店の中には入らずに外で待つ。


するとしばらくして吉田まさ子の心の声が漏れ聞こえてきた。

それなりに距離があるのに聞こえてくるということはかなり強い感情なのだろう。


(……この包丁であの人を殺せば保険金一億円はあたしのものよ……そうなればまた岡島くんに会いに行けるわ……)


「おいおい、マジか……」


どうやら吉田まさ子は岡島の働くホストクラブに通うお金欲しさに、旦那さんを殺す計画を立てているようだった。



◇ ◇ ◇



「完全にイカレてるな……専務」


以前会社に悪人感知呪文を発動させたまま出社した際には専務には反応しなかったはずなのに、今では家族を殺すことすらいとわないほどの悪人になっているとは。

会社が倒産して岡島に会えなくなったことが原因なのだろうか、それとも他に要因があるのか。


まあとにかくだ、これで専務を……吉田まさ子を殺すことは決定した。

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