第5話 ステータスボード
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鬼束ヤマト:レベル3
HP:11/15
MP:0/3
ちから:14
まもり:13
すばやさ:12
呪文:クフイカ(2)
:クドゲ(1)
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「おお、なんだこれっ!?」
「今お兄さんの目の前に出てると思うけどそれはステータスボードっていうんだ」
「……なんかゲームみたいだな」
「でしょ、ガイアクエストみたいでワクワクするよねっ」
「悪い、そのゲームはやったことない」
「うっそ、人生損してるよお兄さん。絶対やった方がいいよっ」
あきらはつぶらな瞳を輝かせると声を弾ませ子どもらしい一面をのぞかせる。
「訊いてもいいか? この呪文の後ろにある数字はなんだ?」
クフイカが2でクドゲが1という謎の数字。
「あ~、それは呪文の消費MPだよ……マジックポイントはわかるよね?」
「それくらいはわかるさ。つまり俺は今MPが0だから呪文を唱えても使えないわけだ」
「……あのさぁ、僕が言うのもなんだけど呪文が二つとかMPが0とか弱みはあまりさらけ出さない方がいいよ。もし僕がお兄さんを殺そうとしてる殺人者だったらその発言は致命的だからね」
「わかってるけどあきらはどうせ俺の心が読めるんだろ。それにあきらは俺を殺したりはしないだろ」
こんなにいろいろと親切に教えてくれる奴が俺を殺そうとするはずがない。
するとあきらはぼそっと「調子狂うなぁ……」とつぶやいたように聞こえた。
そして、
「まあいいや。ここからが大事な話なんだけど殺人者は一週間以内に誰かを殺さないと自分が死ぬから」
「……えっ、なにっ!?」
今こいつさらっととんでもないことを言ったぞ。
「じゃあ何か? 俺は一週間後までに誰かを殺さないと死ぬのかっ?」
「そうだよ。正確には一週間後の十時半までだね」
公園内の時計を見上げあきらは言う。
気付けば雨は小降りになっていた。
……誰かを殺さないと死ぬ。
「マジかよ……本当かそれ? 試した奴いるのか?」
「さあね、僕も人づてに聞いただけだからわからないよ。でも僕死にたくないし……なんならお兄さんが試してみる? 一週間後僕が証人になってあげるよ」
あきらは意地悪そうな顔をして俺を見上げてきた。
「い、いや、遠慮する」
俺だってみすみす死にたくはない。
「だよね。だから僕たちは人を殺し続けないといけないんだよ」
「そ、そうか……」
人を殺さないと自分が死ぬ。
これって正当防衛か緊急避難が認められないだろうか。
「お兄さんさぁ、さっきの女の人を殺した時罪悪感はあった?」
「……い、いや、なかったと思う」
自分でも不思議だがそうだったのだ。
自分を守るためだったとはいえ人を殺したのに罪悪感をこれっぽっちも覚えなかったのだ。
「僕これまでに何人もの殺人者を見てるけどお兄さんは正義の味方タイプだね」
「正義の味方……?」
「普段は温厚だけど悪人には容赦しないって感じ」
「そ、そういうもんか……」
厄介事に巻き込まれたくなくて実際には行動に移せていないが俺の心の中には確かに凝り固まった正義感のようなものはある。
「だからお兄さんは悪い人だけを殺せばいいよ。町の治安もよくなるし一石二鳥じゃん」
あきらは簡単に言うがこれは人殺しの話だからな。
そう単純に割り切れるかどうか。
「ちなみに僕は快楽主義者タイプかな」
「なんだよそれ」
「気分次第で誰でも殺すんだ、僕」
「あきらが? 冗談だろ」
こんな可愛らしい純真無垢な少年が快楽のために人を殺しているはずがない。
「ふふっ。お兄さん僕のレベルを知ったら驚くよ」
「ははっ、そうかい」
「それでお兄さん、名前はなんていうの? もう教えてくれてもいいよね」
あきらは差していた傘を閉じた。
いつの間にか雨は上がっていたようだ。
「俺は鬼束ヤマトだ。よろしくな」
俺は感謝の意味も込めてあきらに手を差し出した。
「うん、こちらこそよろしくね。あ、それと勘違いしてるようだから言っとくけど僕、女だからね」
「……へ?」
「それじゃヤマトさん、元気で」
そう言うとあきらは俺に向かって手を振りながら水たまりの中を足音一つさせず走り去っていく。
「……あいつ女だったのか……あ、これ消す方法訊くの忘れた」
俺の目の前にはステータスボードが出っぱなしになっていた。