第43話 東京
自分の部屋に戻った俺は貝原さんの奥さんの不倫相手である小西和也の今現在の動向を探った。
すると幸か不幸か熊本にいると思われていた小西は仕事で東京にやってきていることがわかる。
俺がいる群馬からなら東京までは行こうと思えば行けない距離ではない。
いや、むしろ数時間あれば寝ている間に着けるだろう。
だが――
「まだだ。小西って奴が悪人かどうかを見極めないと……」
俺の判断基準で悪人だと思えなければ制裁を加える気にはなれない。
その代わり悪人だと判断したその時は俺の手で私刑を執行してやる。
◇ ◇ ◇
結論から言うと小西和也は悪人だった。
もちろんそれは俺の判断基準に照らしたもので世間がどう思うかはまた別だが。
「東京か……行くか」
俺はネットで新幹線のチケットを購入すると翌日に備えていつもより早く眠りについた。
◇ ◇ ◇
次の日の朝、早く起きた俺は電車と新幹線を使い東京へとたどり着く。
二十四歳にして初めて東京の地を踏んだ俺は人の多さに興奮しつつ小西の別宅を訪れた。
どうやら小西には東京にも不倫相手がいて、その相手との密会場所としてアパートの一室を借りているようだった。
小西が一人でいることを確認してからチャイムを鳴らす。
ピンポーン。
すると部屋の中から浮かれた声が聞こえてきた。
「はいはーい! 今開けますよ~!」
ドアが開き、
「――だ、誰だ、きみんぐっ……!?」
顔を覗かせた瞬間俺は小西の口元を左手で鷲掴みにした。
声を出せない状態にしたところで部屋に押し込むと、今度は右手で思いきり顔の横側を殴りつける。
ゴッ!
重い一撃が正確にこめかみを打ち抜き小西の脳を揺らした。
直後、小西の全身からは力が抜けて俺にもたれかかってくる。
俺はそっと畳の上に小西を寝かせてから気絶したままの小西の首を慣れた手つきでへし折った。
ててててってってってーん!
状況とはまるで合わない効果音が頭の中に鳴り響き、続いてAIのような平坦な声が脳内にこだまする。
『鬼束ヤマトは小西和也を殺したことでレベルが1上がりました』
『最大HPが2、最大MPが1、ちからが2、まもりが2、すばやさが1上がりました』
『鬼束ヤマトはインテの呪文を覚えました』
俺の目の前で小西の死体が消失していった。
*************************************
鬼束ヤマト:レベル13
HP:38/40
MP:26/33
ちから:39
まもり:32
すばやさ:25
呪文:クフイカ(2)
:クドゲ(1)
:チンカンニクア(3)
:シアビノシ(4)
:ンガリンセ(6)
:ンシクド(5)
:インテ(10)
*************************************
「新しい呪文は転移の呪文か……」
俺がステータスボードを眺めていると、
ピンポーン。
部屋のチャイムが鳴らされた。
そして、
「あれ? 開いてる……?」
不倫相手だろうか、女性の声が耳に届いてくる。
「和也さんいるのー? 入るわよー」
まずい。入ってくる。
「和也さ~んっ」
「インテ」
◇ ◇ ◇
「ふぅ~……間一髪だったな」
俺は女性にみつかる前に転移呪文を唱えたことで部屋の外に瞬間移動し、危機を脱していたのだった。
このあと場所を移してもう一度唱えてみたところによると、転移呪文はおそらく十メートル程度の瞬間移動が可能なのだということがわかった。