第36話 新たな仕事
山崎三郎を殺してから三日後、俺の働く吉田ねじ有限会社が倒産した。
もとから経営は悪化していたようだったが社員二人の失踪という事件がネット上でデマを呼び、吉田ねじ有限会社はブラック企業とのレッテルを貼られたことで全取引先が関係を断ったらしい。
会社が潰れたことであれだけ群がっていた報道陣たちは一斉に消え失せた。
それにより人目を気にせず外出しやすくなったものの、俺は親友と仕事をほぼ同時に失うという事態に陥っていたのだった。
当面の生活費はいくらかはあるが俺は新たな仕事を探さなければいけなくなった。
とはいえ俺は何か特別な資格を有しているというわけではない。
俺の住んでいる田舎では正社員を募集している職場は圧倒的に少なく、あるのはコンビニのバイトばかり。
だが俺はあまり社交的ではないので、不特定多数の人と接するようなレジ打ちなどの接客業は出来ればしたくないというのが本音だった。
「どうするかなぁ……」
ベッドの上で寝返りを打ちつつスマホを操作する。
ネットの掲示板には[楽な仕事で時給五千円です!]とか[今すぐ大金が欲しい人必見!]とか[嘘じゃない儲け話あります! まずはクリック!]といった怪しい言葉が並んでいた。
「嘘くさ。こんなの信じる奴がいるのかね……」
俺は呆れてスマホをベッドの上に置くと立ち上がって大きく背伸びをする。
目に入ったカレンダーの日付を見て、
「あと四日か……」
四日以内にまた誰かを殺さないといけないことを再確認した。
そこでふと気付く。
俺は資格こそ何も持っていないが呪文が使えるのだということを。
俺が覚えている呪文は回復、解毒、悪人感知、忍び足、千里眼、読心の計六つ。
回復呪文が他人にも効果があるのなら思い切って闇医者になるという選択肢もあったかもしれないが残念ながら回復呪文は自分にしか効果がない。
解毒や悪人感知もお金にはならないだろう。
だが忍び足と千里眼と読心に関してはこれらを使用することで、ある職業の真似事が出来るような気がする。
その職業とは――探偵だ。
探偵がどういった仕事をしているのか詳しくは知らないが、テレビなどで目にする限り尾行や身辺調査などが主な仕事内容だと思われる。
だとするならば呪文を活かして稼ぐことが出来るのではないだろうか。
ちょっとした思い付きだったが俺はスマホを再度手に取ると探偵という職業を調べてみた。
すると、探偵業を行う際に公的な資格は必要ないということがわかった。
アパート住まいの俺に探偵事務所など開けるはずもないが、さっき見たようなスマホの掲示板で依頼を募集すればもしかしたらイケるかもしれない。
しかも探偵という仕事をしていれば悪人と出会えるケースも多々ありそうだ。
「……やってみるか」
俺はその場の勢いに任せて、ネットの掲示板に載せるため早速スマホに文字を入力していく。
その文面はこうだ。
[どんな依頼でもご相談に乗ります! 値段は相場の半額です! 鬼束探偵事務所]
そして最後に自分のスマホのメールアドレスを書き込むと送信ボタンをタップした。
がしかし自分が書き込んだ文章がネットにアップされた瞬間俺は我に返る。
「ヤバ、何してるんだ俺……」
いくら仕事がなくなったからといってこんな怪しげな掲示板に自分のスマホのメールアドレスを載せるなんてどうかしている。
大体こんなものに連絡してくる人なんかいるはず――
ブウウゥゥーン……ブウウゥゥーン……。
その時バイブモードの俺のスマホがメールを受信した。
まさかな……と思いつつ今届いたメールを開いてびっくり。
そこには鬼束探偵事務所宛ての仕事の依頼の文面が長文でつづられていたのだった。