第35話 十人目
「……ぐぉはぁっ……!?」
俺が勢いよく突き刺した包丁は山崎三郎の喉仏を正確に貫いていた。
山崎三郎は口からも首からも大量の血を噴出させるとともに目をカッと見開く。
そして俺の姿を確認すると何やら口を動かした。
「かっ……かはっ……」
だが喉仏を潰しているので言葉を発することが出来ないでいる。
「細谷さんはともかく冴木を手にかけたのは失敗だったな……そのせいでお前は死ぬんだ」
「……けぇっ……ごふっ……!」
山崎三郎は目に涙を浮かべながら右手を自分の喉に、左手を俺に伸ばしてきた。
しかしすぐにその腕はだらんと床に落ちた。
山崎三郎がこと切れたのだった。
ててててってってってーん!
陽気な効果音が頭に鳴り響く。
続いて機械音声がレベルアップを告げた。
『鬼束ヤマトは山崎三郎を殺したことでレベルが1上がりました』
『最大HPが2、最大MPが2、ちからが1、まもりが1、すばやさが2上がりました』
『鬼束ヤマトはンシクドの呪文を覚えました』
目を見開いたまま鬼のような形相で死んでいった山崎三郎がすぅーっと消えていく。
ソファや俺の服に飛び散っていた返り血も、首に突き刺さったままの包丁も一緒に消えてなくなった。
本当はもっと長く苦しめてやりたかったし、寝ている間に殺るのではなく意識がはっきりしている時に殺してやりたかったが、山崎三郎が殺人者ということでどうしても呪文を使われたくない一心だった俺は寝込みを襲うという最も確実な方法を選ばざるを得なかった。
一呼吸おいて俺は防犯カメラのメモリーカードを探してみた。
するとどうやら外の防犯カメラの映像はパソコンとつながっていたらしく、俺はそれをみつけ消去することに成功する。
さらにその際に山崎三郎の机の上に無造作に置かれていた冴木のスマホを発見した。
俺の読みはやはり正しかったのだ。
俺は冴木のスマホを前に一瞬悩むも結局それを持ち帰ることにした。
万が一にも奥さんと子どもと鉢合わせしないよう、出窓から外を確認しつつ慎重に玄関ドアを開け素早く家から離れる。
そしてもと来た道を戻ってアパートに帰った。
部屋に入ってドアの鍵を閉めた途端、急に吐き気が襲ってきた。
俺はトイレに駆け込むと嘔吐を繰り返した。
これまでに十人の人間を殺してきたが、今回の殺人だけは俺の心と体がそれを受け付けなかったのだろう。
理由ははっきりしていた。
――この日、俺は生まれて初めて自衛目的ではなく復讐心から人を殺したのだった。
第一章完結です。
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