第17話 解毒呪文
スマホを耳に近付ける。
「……もしもし」
『あ、もしもし鬼束くん? 私、細谷だけど夜に電話してごめんね』
「あ、いえ全然大丈夫ですけど、どうかしました?」
以前細谷さんと冴木と三人で会社帰りに飲みに行った時、酔いが回った勢いで番号交換をして以来初めての細谷さんからの電話だ。
『あのね、私があげたチョコまだ食べてない、よね?』
「あ、はい。まだですけど……」
『私ね、作る時味見するの忘れちゃって上手に出来てるか自信ないの』
「あー、そうなんですか」
細谷さん意外と抜けてるんだなぁ。それもまた可愛らしい。
『だから無理して食べなくてもいいよ。もしあれなら捨てちゃってもいいからね』
「いやいやそんな罰当たりなことしませんってば」
細谷さんの手作りチョコだぞ。誰が捨てるものか。
「なんなら今一口食べてみましょうか?」
『ほんとっ?』
「はい。じゃあ早速いただきますね」
俺は細谷さんにも聞こえるようにチョコをパキッと割って口に運んだ。
そしてありがたくかみしめる。
もぐ、もぐもぐ……。
『鬼束くん食べてみた? どうかな?』
う~ん……ちょっと苦い。
なんか正直微妙な味だなぁ。と思ったがそんなこと言えるはずもなく、
「食べましたよ。すっごく美味しいです」
お世辞の言葉が口をついて出ていた。
『……そう』
「はい。本当にすっごく、うげっ……!?」
『……どうしたの?』
「い、いえ、なんか急に……気持ちが、胸が、く、苦しくなって……」
それは突然だった。
俺は今までに感じたことのない強い吐き気と頭痛と息苦しさに襲われた。
なんだこれっ。
苦しいっ。
息が出来ないっ。
「す、すいおえっ……き、救急車をっ……お、お願いし」
『ねぇ。鬼束くんてさ。殺人者でしょ』
「っ……!?」
い、今なんて言った?
細谷さんは今なんて言ったんだっ?
『その毒、致死率百パーセントだからもう助からないよ。じゃあね、ばいばい鬼束くん』
「ちょっ……!」
どういうことだよっ!
細谷さんが俺に毒をっ!?
嘘だ……嘘だっ!
「ごふっ……!」
俺は絨毯に倒れ込みながら吐血した。
心臓が強く握りしめられているかのようにひどく痛む。
俺は助からないのか?
このまま訳も分からず死を待つだけなのか?
薄れゆく意識の中――いや、ちょっと待て!
毒って言ったぞ。細谷さんは確かに毒って言った。
「……がはぁっ……ク、クドゲッ……!」
命からがら解毒呪文を口にした。
瞬間、嘘のように体が軽くなる。
さらに、
「クフイカっ……!」
続けざま回復呪文を唱えた。
焦っていたため声が大きくなってしまったが仕方がない。
俺の事情を知っている清水さん母娘にはあとで謝ればいい。
「……はぁっ、はぁっ、はぁっ。危なかった」
それよりも最優先事項が出来てしまった。
「……細谷和美」
彼女は殺人者だ。