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第7話 暗躍する影

 先行を許してしまったダイバー達を追いかけ始めてから訳1分程。

 【知覚強化】で強化された私の耳は、ダンジョンの奥から微かに聞こえる音をしっかりと捉えていた。


(奥から争う声が微かに聞こえる……ダイバー同士が争っているのか?)


 グネグネと曲がりくねった洞窟を駆ける事暫く、目に入ったのはわき道に逸れるように分岐した小さな通路だ。

 ダイバーが愛用する魔力灯のランプの光がそこから溢れており、地面から反対側の壁にかけて争いのシルエットが投影されていた。


「クソが、やりやがったなこの野郎!」

「先に手を出したのはてめぇだろうが!」

「さっき俺が見つけた鉱石(トレジャー)奪ったのお前だろ! 返しやがれ!」

「知らねぇよ! 難癖付けてんじゃねぇ!」


(これは……!)


 そこは洞窟の中にしては開けた場所だった。

 あちこちに散乱したランプの持ち主だろうダイバー達が至る所で争い合っており、まるで鎮まる気配がない。

 彼等は口々にトレジャーを取られた、攻撃された等と罵り合っては殴り合いを続けている。


(幸いまだ武器を構えているダイバーはいないみたいだが、それにしたってこの光景は妙じゃないか?)


 確かにトレジャーの奪い合いはあり得ない事ではない。しかしそうだとしても、これだけの人数が居るんだ。誰か一人くらい諍いを止めようとする者がいても良さそうだが……


(……ん? 何だろう、この匂い……──ッ!?)


 何やら嗅ぎ慣れない匂いに気をとられた一瞬、感じた気配に咄嗟に身を躱す。すると、背後から迫っていた風切り音が私の直ぐ傍を通り過ぎる……前に手を伸ばし、『それ』を素早く掴み取った。

 

(……石?)


 手に取って確認したそれは、丸みを帯びた拳大(こぶしだい)の石だった。一体誰がこんな物を──そう考えた丁度その時、背後から近づいてくる足音に気付き振り返ると……


「──ふぅ、何とか追いついたぜ……っと、アンタさっきの兄ちゃんか!? へへっ、実はあそこによぉ……むぐっ!?」

「しっ! それ以上は言わない方が良い」


 そこにいたのは、先ほどレイピアを手に入れた後に擦れ違ったダイバーのパーティーだった。彼等の中で比較的若い剣士の少年が上機嫌で話そうとした言葉の続きを察した私は、自分の掌を彼の口に押し付けて発言を中断させる。

 何せ少し先には『トレジャーを奪われた』と争うダイバー達が居るのだ。ここで彼が下手な事を言えば、最悪の場合新たな火種にもなりかねない。

 少しして彼等も繰り広げられている争いに気付いたらしく、少し浮ついていた雰囲気がピンと引き締まった。


「なぁアンタ、コレは一体何が起きてるんだ? あいつ等の様子、ちょっと普通じゃねぇよな……」


 もう大丈夫だろうと判断して少年の口元から手を離した私に問いかけて来たのは、彼等のリーダーと思しき斧使いの青年だった。

 広間の乱戦をおっかなびっくりと言った様子で観察している彼の疑問に答えるついでに、私も一つ彼等に確認したい事が出来たので聞いてみる事にした。


「どうやらトレジャーを取られただとか殴られただとか言っているみたいなんだが、僕も今来たところでね。様子を見ていたところなんだ。……ところで、君達は『これ』に覚えがないかな?」


 と、答えたついでに先程掴み取った石を見せてみる。


「何だ? ただの石に見えるが……」

「先程、僕の背後……つまり、君達の方から僕に向けて投擲されたみたいなんだが」

「し、知らねぇぞ!? 大体、俺達が兄ちゃんを攻撃する理由なんてねぇだろ!?」

「大丈夫、分かっているとも。僕は『これを投げた誰か』を見てないか尋ねているんだ」


 動揺する彼等を宥めながら質問するが、話を聞くとどうやら誰も犯人の姿を見ていないらしい。

 そもそも、一瞬感じた気配と彼等のそれは似ても似つかない。あの冷たく無機質な雰囲気……明らかに投擲の犯人の方が、彼等より数段格上だろうと言う事は分かる。


(しかし、そうなると高位の潜伏系の魔法……或いはスキルか? 一体誰が何の目的で……)


 あれこれと考えたところで犯人の特定は難しそうだが、状況から考えてどうにもこの石を投げた犯人は広間で起きている乱戦とも無関係ではなさそうだ。

 これは……第三者の手で人為的に作り出された状況である可能性も出て来たな。


(目的はトレジャーを探すライバルを減らす為か? いや、それだと犯人がさっきまでこの場に居た事に説明がつかない……)


 何か裏がありそうだが、今はとにかく争いを止めなければと思いなおす。

 殴り合いで済んでいる内ならまだマシだが、誰か一人でも武器を取り出せばその途端に収拾がつかなくなるからだ。

 ……しかし、その前に一つやるべき事がある。


「彼等を止めよう! 済まないが君達も手伝って貰えるかい!?」

「え!? あ、ああ!」


 そう言って彼等を促し、自然な動きで彼等を先行させる。その瞬間──


(……()()()()()ッ!)


 背後に生まれた気配。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 私を騙すのは難しいと考えた犯人が、今度は彼等をターゲットにしたのだ。即ち、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()為に。


()()()が居る内は、下手な行動は出来ないからな……!)


 私は飛翔するナイフを素早く掴むと、そのまま飛んできた方向へと投げ返す。すると……


「ぅ……!」

(見えた! だが……!)


 ナイフは空中に突き刺さり、そこから少量の血飛沫が舞う。

 元々殺傷能力の低い小振りなナイフだった為軽傷の範囲内だろうが、予期しない反撃と痛みからか小さく犯人の悲鳴が漏れる。

 それと同時に、一瞬解除された潜伏系の魔法。私の狙い通り、ナイフは犯人の太腿に突き立っていた。

 姿を現した犯人の正体を確認しようとするが、彼は今の私と同様に全身を隠すフード付きのローブマントを纏っており、素顔までは分からない。精々が体格や声から男っぽいと判断できる程度だ。

 そして次の瞬間には再び姿が掻き消え、気配が遠ざかっていく。


(逃げたか。それにしても、顔を隠すあの()()()()()……あのローブマントもトレジャー装備か?)


 犯人の顔を覆っていたフードの影に違和感を覚えた私は、そのように当たりを付ける。それも、今回の一件で手に入れたような物ではないだろう。

 明らかに装備の性能を知り尽くしており、扱いも手馴れているのが一目でわかった。


(ナイフを脚に受けた際、咄嗟に声を殺せた辺り普段から今回の様な奇襲を行っている事は明らかだ。……そう言えば──)


 ──『フロントラインのインチキ野郎どもの本性、今日こそ暴いてやろうぜ』

 ふと思い出したのは、ダンジョンに突入する前に近くのダイバーが発していた言葉。彼等の言う『インチキ』がどう言った物かは分からないが……


(まさか、今の奴もフロントラインのメンバーか? ……きな臭くなってきたな)


 何かよくない動きを感じつつ、微かな足音と共に通り過ぎていく気配を目で追っていると、背後から先程言葉を交わしたダイバー達のリーダーの声が響いた。


「てめぇ、よくもやりやがったな!? 折角喧嘩止めてやろうってのによぉ! そっちがその気ならやってやらぁ!!」

「ああ、もう! 君達まで参加してどうするんだ!!」


 『ミイラ取りがミイラになる』なんて言葉もあるが、それにしたって早すぎるだろう!? たったの数秒程度だぞ!?

 ……既に何発か貰ってしまったのか顔が所々腫れていたが、それは乱戦を仲裁した後で纏めて治してあげるとしよう。



「──そうか、この石が……」


 あの後、少し強引な手段も使って乱戦を治めた私は、先程自分に向けられた敵意について彼等に明かした。

 彼等は完全には納得し切れていない様子ではあったが、それでも私が見た犯人について伝えると数人は心当たりがあったようで、私が詳しい情報を求めると彼等は戸惑いながらも口を開いた。


「多分、俺以外にも聞いた事がある奴は居ると思うが……フロントラインの連中には、以前から攻略最前線を維持する為に裏で汚い事もやってるって噂があったんだ。俺は今まで、そう言った類のものは単なる嫉妬や僻みで流されたデマだとばかり思っていたが……」

「……今回のがそうだってのか?」

「分からん……そもそも、コイツが嘘言ってるだけって可能性もあるんだからな。格好もなんか怪しいし……」


 うん、正直格好(それ)に関しては反論できない。実際に今の私も殆ど犯人と同じ格好だし。

 ただ多少は冷静さを取り戻せたようで、その後も話している内にダイバー同士争っている場合じゃない事を思い出したらしい。

 散らばったそれぞれの持ち物を回収し、再び探索に戻るようだ。


「とにかく助かったぜ、傷まで治してくれてありがとうよ。パーティーを代表して礼を言わせてもらう」

「いいよ、お礼なんて。それよりも君達のような状況に陥っているダイバーを見かけたら、出来る限り事情を話して止めてあげて欲しい」

「ああ、勿論だ」

「しかし、折角のチャンスを台無しにされたってのはムカつくぜ。フロントラインの奴なのかどうかは知らんが、次に会ったら……!」

「やめとけよ。見破れなかった俺らが勝てる相手じゃねぇって……」


「くそ、かなり時間を取られたな……今から最前線を目指すのは無理か。せめてトレジャーの一つでも見つけたいもんだが……」

「ん? もしかして、アンタはソロだったのか?」

「ああ、今日は他のクランメンバーと予定が合わなくてな」

「だったら今回だけでも俺らと組まねぇか? うちも前衛が一人来れてなくてな……」

「別にいいが、その場合トレジャーの分け前は──」


 等と口々に話しながら、それぞれのパーティーに分かれてこの広間を出ていくダイバー達。

 ここも落ち着いたようなので、早速私も探索に戻らなくては……とその前に、パーティーの一つを追いかけ、声をかけた。


「ちょっと良いかな? 一つ質問があるんだが」

「ん? ああ、アンタか。さっきは手間かけさせたな。詫びと言っては何だが、俺に答えられる事なら何でも聞いてくれや」

「ありがとう。さっきの乱戦時に『トレジャーが奪われた』と言っていたが、その時の状況を聞いておきたいんだ」


 『トレジャーは早い者勝ち』誰もが知っているこの原則はダイバー協会の定めたルールの一つではあるのだが、それが守られている理由に関しては『腕輪に収納してしまえば他者は手を出せない』と言う事実によるところが大きい。

 こう言っては何だが『手を出せないから奪わない』と言うだけで、腕輪の機能が無ければこの原則も守られる保証はないのだ。

 そして、先程の乱戦時に彼が言っていた事を信じるのであればだが……こうして実際に、トレジャーが他者に奪われると言った事件は起きてしまった。


(その手口について確認しておかなければ、次にトレジャーを奪われるのは私かも知れない)


 既にトレジャーを……特に配信でのメイン武器候補であるレイピアを持っている身としては、どうしても気になったのだ。


「ああ、その事か……くそ、今思い出してもムカつくぜ! 俺が見つけた『鉱石』を()()()()()()()、後ろから伸びてきた手が横取りしやがってよぉ!」

「拾い上げた……成程、その後は? 犯人の姿は見たのかな?」

「そりゃあ当然『何しやがる!』って掴みかかったがよぉ……どうも人違いだったらしくてな。その結果があの様だ、面目ねぇ」


 『野郎の思い通りにトレジャーを盗られた上に、勘違いのせいで余計な迷惑まで……』と反省をする彼を尻目に、私は犯人の手口について考える。


(成程、腕輪に収納する前であれば確かに奪う事は可能か。強奪した瞬間に潜伏系の魔法で姿を消して、疑いを傍にいたダイバーに向けさせた訳だ)


 そして、それが乱闘の切っ掛けになった訳か……しかし、そうなると犯人の目的はあくまでもトレジャーで、乱戦になったのは偶然だったのか?

 ……いや、そんな筈は無い。さっきの男の行動は、間違いなく私と他のダイバーが衝突するように誘導していた。

 なら、トレジャーを奪った目的もそれそのものが目的と言うより……


「……ありがとう。おかげで大体の手口は分かったよ」

「おう。アンタも気を付けなよ」


 互いに手を振って分かれる。

 彼等のパーティーは、どうやら今居る広間の更に奥へと向かうようだ。


(さて、私はどうするかな……)


 この広間には私が入って来た入り口の他には、今まさに彼等が向かおうとしている通路しか先と言える道が無い。必然的に彼らと同じ道に進むか戻るかの二択となるが……


(……戻るか。さっきの犯人が逃げた道が正解な気がする)


 姿を消して石やナイフを投げて来たあの男……もしもアイツが本当にフロントラインのメンバーだったなら、多分さっきは治療の為に仲間の元に向かったのだろう。

 ダンジョンに潜る前に小耳にはさんだ情報によれば、今のフロントラインは回復アイテムに余裕が無い。傷を治す為のポーションは、最前線を目指すメンバーしか携帯していないなんて事も十分に考えられる。

 負傷を治す為にダンジョンの入り口へと戻らなかったのは、負傷した姿を仲間以外に見られたくなかったと言ったところか。

 ……まあ正確な理由はともかくとして、最前線を目指しているフロントラインの仲間が奴の逃げた先に居るならば、奴の逃げた先こそがダンジョンの奥へ向かう正規ルートだと考えて良いはずだ。


 トレジャーをなるべく多く手に入れる為にももう少し奥の方で探索しておきたい私は、彼等をそのまま見送り来た道を戻る事にした。

 騒動を収めたり治療したりと時間をかけてしまったせいで随分と後れを取ってしまったが、この程度の差であれば【隠密】で姿を消した後に暫く全力で走れば追い付ける。


(問題は【隠密】を使う瞬間を見られないようにする事だが……ここはまだダイバーの目があるな)


 殆どのダイバーはこの広間を去ったが、まだ残っているダイバーはいる。……と言うか、先程争いを止めようとして逆に参加していたパーティーだ。

 彼等は先程の一件の所為もあって、特別周囲を警戒している様子だし妙な動きは出来ない。

 まして姿が消える瞬間など視られようものならば、私の格好も災いして犯人と勘違いされる事は間違いないだろう。

 彼等が去るのを待つのも不自然だし、それならば通路を適当に進んで物陰の一つや二つ探す方が効率も良いな。さっさと先に進むとしよう……そう思っていたのに。


「なあ、アンタ。ちょっと良いか?」

(なのに、なんでわざわざ話しかけて来るかな……)


 一応は協力もして貰った手前、ここで無視するのも気が咎めるし……仕方ない。


「……君達は、止める筈の喧嘩に参戦していたパーティーだね。何かな?」

「うっ……さっきは悪かったって。殴られてついカッとなっちまって……それよりも『コレ』、アンタのじゃないのか?」

「……ランプ?」


 彼が差し出した手には、ダイバーが愛用するタイプのランプがあった。どうやら私の落とし物と思い、親切にも届けてくれたらしい。

 しかし、私に心当たりはない。彼にそう伝えると……


「え? ……そうか。見たところ、アンタはランプの一つも持ってねぇみたいだからてっきり……」

(──っ!?)


 咄嗟に引きつりそうな表情を気合で堪える。

 彼の様子を見るに、上手く誤魔化せたようだが……


(しまったな……今のは迂闊だった)


 私の眼にはこのダンジョンは昼間の街中のようにハッキリ見えるから忘れがちだが、光源の無いダンジョンは人にとっては相当な暗闇であり、ダンジョンに潜る人間にとってランプは必需品なのだ。彼の腰にも、ベルトに引っ掛けられた魔力式のランプが揺れているのが見える。

 先程までは争いの影響でランプがそこらに散らばっていたから怪しまれずに済んでいたようだが、それも既に持ち主によって回収され、今は一つも落ちていない。そこを失念していた。

 

 ……まぁ、幸い今の私は【変身魔法】で姿を変えている。怪しまれたところでこの姿を捨てれば影響はないし、適当に言い訳して乗り切ろう。


「僕は暗闇でも視界を確保できる魔法を持っているからね、ランプは要らないんだよ」

「へぇ~……そういや回復魔法とかも使ってたもんなぁ。やっぱ魔法使えるジョブって便利なんだな」


 ……これは彼が信じやすいだけなのだろうか。後で『俺』に確認しないと分からないが、とにかく誤魔化す事は出来たらしい。

 ならばボロが出る前に立ち去るのが得策だ。


「……それだけかな? 僕も先に進みたいので、用がないならもう行くけど」

「ああ、いや、もう一つだけあってよ……さっきは、治療してくれてありがとな」

「? あんなものはついでだよ。争ってたダイバーを落ち着ける為にした事だ」

「それでも、弟達が世話になったんだ。ちゃんと伝えて置かねぇとなんか落ち着かねぇんだよ、こう言うの」


 なんとも義理堅いと言うか、なんと言うか……まあ感謝されて悪い気はしないので、そこは素直に受け取る事にする。


「どういたしまして。じゃあ僕はコレで……」

「──このランプの匂い。気付いてるか?」

「匂い? ……そう言えば、確かに嗅ぎ慣れない匂いが……いや……?」


 急に言われて反応が遅れたが……そう言われると確かに先程までは感じなかった不思議な匂いが、周囲に薄らと漂っているように思う。

 しかしこの匂い、ついさっきも嗅いだような……そうだ。アレは確か、背後から石を投げられる直前だったか?


「どうやらアンタは知らないようだが、このランプは俺の持つ魔力式とは違ってオイルを入れて使うタイプの物だ。そしてこの匂いは、一種の『香』が放つ特有の物で……強い『興奮作用』がある」

「興奮作用……」

「分かりやすく言えば、頭に血が上りやすくなるって事だ。……今は成分も薄まって効力も無いに等しいがな。」


 成程……臭いこそ微妙に違うが、異世界にもそう言う香はあったな。

 魔物の行動を単調にしたり、誘導したりと便利なアイテムだった筈だ。私はあまり使わなかったけど。

 しかし、そんな物が焚かれた場所であんな騒動があったって事はやはり……私の言いたい事を表情の変化から察したのだろう。彼は一つ頷いて、私の想像を肯定した。


「ああ、さっきの乱戦はこの香で()()()()()()可能性が高い。……提案だが、一度俺達と一緒に戻らないか? アンタは信用出来そうだし、俺もせめて弟達だけでも家に帰したい。今回の一件を協会に報告した方が良さそうだしな」

「……」


 なるほど、彼の言う事には一理ある。

 思い返せば喧嘩を止めようとしていた彼等が、あんなにあっさりと参戦していたのもこの興奮作用による物だったのだろう。

 今のダンジョン内に黒い思惑が渦巻いているのは間違いない。しかし──


「いや、やはり僕はまだ探索を続ける事にするよ。まだ売却用のトレジャーの一つも見つけてないからね」

「……そうか。まあ無理強いはしないが、気を付けろよな。良い奴が食いもんにされるのは気分悪いからよ」

「ありがとう。君達も気を付けて」

「おう」


 その後、私は彼等のパーティーと一緒に広間の入り口まで戻り、そこで別れた。

 彼等はダンジョンの外へ出る為に、私はダンジョンの奥へ向かう為に。


(『良い奴』か……)


 私はその時、自身に向けられたその言葉に少しだけ胸が軽くなるのを感じていた。

取りあえず今日の投稿はここまでにします!

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