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クリスマス番外編 プレゼント?企画配信

メリークリスマス!

ちょうどクリスマスが水曜日だったので番外編の雑談配信?回です

時系列とかに関してはあまり考えず、未来のパラレル世界線と言う事で……

「皆さん、メリークリスマス! 今日は趣向を変えて、ヴィオレットサンタの配信ですよー!」


 12月25日、水曜日。

 習慣となっている雑談配信を行うこの日は偶然にも丁度クリスマスであった為、少し前に買ったサンタ風の衣装を身に付けての配信となった。


〔メリークリスマス!〕

〔メリクリ〜〕

〔サンタ衣装かわいい!〕

〔ムラサキサンタ…?〕

「はーい、メリクリでーす! ムラサキサンタはなんか妖怪みたいになっちゃうのでやめてくださーい」

〔草〕

〔草〕

〔それって新衣装?〕

「あ、これはただのコスプレ衣装なので、新衣装とかではないです。次回以降はいつも通りのオーマ=ヴィオレットで配信していきますよー」


 待機してくれていたリスナーさん達と軽いトークで場を持たせ、少し遅れてやってくるリスナーさん達を待つこと数分。

 同接数の変化が落ち着いてきた頃を見計らって、私は今日の為に考えておいた企画を発表した。


「今日はせっかくのクリスマスと言う事で、こんな企画をやっていこうと思います! どん!」


 そう言って私は机の下からゲームソフトを取り出した。


〔ゲーム?〕

〔ヴィオレットちゃんがゲーム配信するの珍しいな〕

〔リアカーってことはリスナー参加型かな?〕

「はい。今日遊ぶのはこの有名なレースゲームです! リスナーさんも参加して、私と直接競争しましょう!」


 ソフトのタイトルは『ハイパーマリアカート』。略して『リアカー』。

 昔から続く有名なアクションゲームシリーズの主人公であるマリア姫の名前を冠した、派生系ゲームシリーズの最新作。

 個人のプレイヤースキルが試されるのはもちろん、コースの各所に配置されたアイテムを獲得する事で運の要素も絡む駆け引きが面白い名作だ。

 インターネットを通して大人数の同時プレイも可能である為、リスナーさん達と遊ぼうという企画となっているのだが……


「しかし今日はクリスマス! クリスマスと言えばサンタさんからのプレゼント……と言う事で、レースで私に勝利して1着になった方には『セリフリクエスト権』を一回分差し上げます! どうぞ『お好きなセリフ』をなんでもコメントでリクエストしてください!」

〔好きなセリフ!?〕

〔ん?今何でもって……〕

〔大丈夫なんか!?〕

〔やばいって〕


 私の提示したプレゼントは正直ささやかな物ではあるのだが、こういう企画で本格的にお金がかかったり価値のあるものをばら撒くのはどう考えても面倒ごとの火種だからな……好きなシチュエーションのセリフを一つ要求できるくらいが程よい塩梅だろう。

 ……ただし、私も一度マカロンで痛い目を見た身だ。予め牽制の一手は打っておく。


「はい。セリフは倫理や道徳に反しないものであれば『何でも』かまいません。発言して問題無いと判断したものはちゃんと読み上げます。ただし……私が読み上げる事でセンシティブな内容になる物に関しては、私の代わりに『彼』に読んでもらう事になります。カモン!」

「どうも、トナカイです……」

〔あっはい〕

〔みんな、わかってるな?〕

〔あの地獄をもう一度顕現させちゃあなんねぇ(訛り〕

〔倫理、大事。道徳、大切。オレ、もう間違わない〕


 私が呼ぶと画面の端からひょっこりと現れたのは、マカロンの一件で配信を地獄に染め上げた張本人──蒼木斗真こと、ダイバー『ソーマ』が扮するトナカイだった。

 彼の登場をきっかけに、一瞬にしてコメントにピリピリとした緊張感が走る。

 既にクリスマス特有の浮ついた空気は霧散してしまったが、そんなことは気にも留めずに私は早速予め起動しておいたゲーム画面を配信に映した。


「レース中トナカイさんには実況を担当してもらいます。()()()()()()()()()()()()()()()、今日の彼の役割はそれだけで済みます……良いですね?」

〔ひぇっ…〕

〔理性は持ったな!行くぞぉ!〕

〔クリスマスの配信とは思えない緊張感www〕

〔ちょっとゲーム機とってくる〕


 ──一戦目


「一戦目の部屋は満室ですね。入れた人はコメントで自分がどのプレイヤーか予め教えてくださいね~」


 集まってくれた11人のプレイヤー名とリスナー名の擦り合わせは『俺』に任せ、私はその間に手順を説明していく。


「流れとしては皆さんと一度レースをし終える度に、リスナーの皆さんには退室してもらい、再び募集をかけます。レースに参加できるのは勝っても負けても一人一度限りとします。それと、次以降のレースに参加する方は、出来れば今の内にプレイヤー名をリスナー名に合わせてもらえると助かります」


 そんな説明をしているうちに、リスナー名とプレイヤー名の確認が終わったようだ。

 こうでもしておかないと、勝った人に便乗して誰彼構わずセリフリクエストを飛ばしてくるのが目に見えてるからな……


 そしてレースの舞台となるコースがそれぞれのリクエストからランダムで選択され、レース画面に移った。

 開始までのカウントが進み、スタートダッシュを決めようと各カートがエンジンをかけ始める。そして……


「ふっふっふ……私の実力を見せてあげますよ! ──あっ」

「おおっと、ヴィオレット盛大にエンストだーっ!!」


 私のカートが盛大に煙を吹き出遅れる中、11名のプレイヤーを乗せたカートが矢のように飛び出して行った。


〔草〕

〔草〕

〔トナカイ実況ノリノリやんw〕

〔実力…見せられましたか?〕

「さ、作戦! これは作戦です! 順位が低ければ低いほど、良いアイテムが出やすいんですから!」


 実際そう言う戦い方もあるのがこのゲームの良いところなのだと頑張るも、健闘空しく私は7着でのゴールとなった。


「くっ、最初のミスさえなければ……!」

〔やっぱりミスだったんじゃねぇか!w〕

〔GG〕

〔gg〕

〔勝った!リクエストしていいですか!?〕

「あっ、グッドゲームでした! はい。それでは勝者の『ギリギリを攻める』さん、セリフリクエストをどうぞ」


 プレイヤー名の通りコーナーギリギリを常に攻めたコーナリングで、終始他プレイヤーを突き放す走りを見せてくれたリスナーのリクエストか……

 この『ギリギリを攻める』ってのがコーナリングだけだと信じたいところだ。


〔頼むからリクエストは安全運転で頼むぞ…〕

〔ここでギリギリは攻めなくていいからな…?〕


 私と同じような不安をコメントに載せるリスナー達。彼らとかつてない程の一体感を感じながら待っていると、勝者からのリクエストが投稿された。


〔じゃあ『お兄ちゃん、お誕生日おめでとう!』で〕

〔まさかの聖人で草〕

〔いろんな意味で聖人かよwww〕

〔誕プレとクリプレ一緒にされるやつ…〕

「あ、はい。そのくらいなら……。コホン──『お兄ちゃん、お誕生日おめでとう!』」


 意外にも普通と言うか、切実と言うか……一応確認してみたが、セリフの中に良くないワードが隠れていると言う事もなさそうだ。

 内容に問題ないと判断した私はトークとの間に一秒ほど間隔を開けてから、リクエストされたセリフを感情を込めて読み上げる。

 一発撮りだが、演技力には自信があるので問題ないだろう。伊達に異世界で人間に交じって生活している間、ずっと演技していたわけではないのだ。


〔ありがとう…〕

〔ありがとう…(成仏)〕

〔思ってたよりクオリティ高いな…〕

〔優しい表情で癒された〕

〔誕生日のアラームに設定しよう〕

〔俺も後でやっとこ〕


 とはいえ、こうして求められたセリフを読み上げたのは初めての経験だ。

 私の声や言葉を求められて、喜ばれるというのは何とも不思議な感じがして……


「ち、ちょっと照れますね……! さぁ、今のレースに参加してくれた方は退室してください! 次の募集を開始しますよ!」

〔お姉ちゃんバージョンを勝ち取らなければ…!〕

〔次こそ参加して勝つ!〕


 ──二戦目


「ふっ……さっきの作戦は通用しなかったので、今回は堂々と正攻法で挑みますよ。結局最初から最後まで先頭を走っていれば勝てるんです! ──あっ」

「おぉーっと! またしてもポツンと一人置き去りだぁーっ!」

〔いや草〕

〔学んでくれwww〕

〔貴様、このゲームやり込んでいないなッ!?w〕

〔他の皆のタイミングに合わせてエンジン吹かすと良いかも…〕


 くっ……まぁ、良いだろう。こんなのすぐに追いついて──


「あれ? アイテムの前に誰か止まってますね……回線が切れてしまったとかでしょうか」

〔事故か?〕

〔いやこのゲーム回線切れたらすぐにCPUに切り替わるはずだから……〕

〔あっまさか〕


 少し心配になりながらも近づくと、そのカートは私が接近するのを待っていたように再び動き出し……ケツ振りしてから超高速の砲弾に変化して私の視界から消えた。

 ……ちなみにこのゲーム、過去作ではケツ振りで加速するバグもあったが現在は修正されている。つまり今の行動の意味は──


〔煽りやがったwww〕

〔煽り運転やめろw〕

「な、名前覚えたぞ『下着スケスケすこすこ丸』ゥーーーッ!!!」

〔覚えんなそんな名前w〕

〔呼ぶな呼ぶな!〕


 その直後、私も運良く『砲弾』のアイテムを引く事が出来たため直ぐに追いついたが……なんか普通にプレイヤースキルで負けた。


「ふぅー……まぁ、負けは負けです。さぁ、リクエストをどうぞ」

〔良い走りしてたのがなんか腹立つw〕

〔じゃあ『お兄ちゃん! 一緒にお風呂入ろ!』で〕

〔えっ〕

〔あっ…〕

〔総員衝撃に備えろ!〕

〔バカヤローーーーッ!!!〕


 なるほど。確かに直接的に危険なワードは無いが……


「……兄さん、判定は?」

「うーん……」

〔どきどき…〕

〔アウトやろ〕

〔ギルティ・オア・ノットギルティ……〕


 数秒ほど瞑目していた『俺』が、やがてカッと目を見開き判決を下した。


「──『お兄ちゃん! 一緒にお風呂入ろ!』(猫なで声)」

〔ぐああああ!〕

〔オロロロロ…〕

〔不意打ち勘弁してクレメンス〕

〔なんで俺らまでこんな目に…〕

「言っておきますけど、兄の醜態を隣で見る私も辛いんですよ。これ」


 正直誰も得しないのだ。こういうボイスのリクエストは。

 変なことを考えている一部リスナー達には、一刻も早くそれを理解していただきたい。


「──さぁ、次のレースに行きますよ!」

〔俺が勝って健全な配信を守らねば…〕

〔変なリクエストしそうな名前のやつは潰す…!〕

〔リスナー達も疑心暗鬼になってて草〕


 その後、普段の配信時間を少しオーバーし、一時間半ほどがレースとセリフに費やされた。

 そして肝心の戦績とセリフだが……


 ──三戦目 敗北 リクエストは『クリスマスソング歌って』

「えっと……ではこの曲を。スマホの音源ですみませんが、歌います! ♪~」

〔おぉ…これは…!〕

〔なるほど…〕

〔ヴィオレットちゃん、ちょっと音痴やな…〕

(くっ、歌の練習なんてした事なかったのが裏目に……!)


 ──四戦目 敗北 リクエストは『お姉ちゃん、お仕事頑張って!』

〔ありがとうございます。通勤前に毎朝聞きます〕

「日々お疲れ様です。今日は仕事を忘れて配信を楽しんでくださいね」

〔これ最初のボイスと繋げればお兄ちゃんバージョンも作れるな〕

〔お姉ちゃんバージョンの誕プレボイスもできる!〕

〔あまりにも有能〕


 ──五戦目 敗北 リクエストは……

 ──六戦目 敗北 リクエストは……

 ──七戦目 敗北 リクエストは……

 ──八戦目 敗北

 ──九戦目 敗北


「──いや、皆さん上手過ぎないですか!?」


 あまりにも負けが込むので思わずツッコミを入れる。

 おかしいな。これでも一応全コースでCPU相手には圧勝してるのに……


〔実際弱い訳ではないんよなヴィオレットちゃんも〕

〔基本は抑えてるしショトカも成功させてるし…〕

〔最初の二回以降はスタートダッシュも安定してたしな〕

〔ただ毎回やべーのが来てんだよなぁ…w〕

「ぐぬぬぬぬ……まぁ、私ばかり勝っても企画倒れですからね! 想定通りです!」

〔ほんとぉ?〕


 時計の針がもう直ぐ午後の九時を指そうと言う時間になるまでゲーム配信は続いたが、楽しい時間もそろそろ終わりだ。

 普段の雑談配信が大体午後の八時に終わることを思えば、十分特番感は出せたんじゃないだろうか。


「それではこの辺りで今日の配信は終わりにしようと思います! 次回からはいつものオーマ=ヴィオレットで探索配信や雑談配信をお送りいたしますので、今後とも応援をよろしくお願いしますね! それではごきげんよう~!」

〔ごきげんようー!〕

〔ごき~〕

〔ごき乙~〕

〔ごきげんよう~〕

次回は本編に戻ります!

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