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第67話 伐採開始

「ど……どうですか?」


 金曜日の夕方。ついに注文した品が完成したと言う連絡を受けた私は、『俺』と共に以前もやって来た装備品専門店『L・E・O』にやって来ていた。

 そこで受け取った防具──『魔族姫の戦装束』の試着を行い、サイズや使用感に問題が無い事を確認した私は、少しだけ緊張しながらも試着室のカーテンを開けて『俺』に印象を尋ねる。


 私が今身に着けているドレスアーマーは、動きの阻害や重量を減らす為に装甲は『胸部』『両肩』『両腕』『両脚』と最小限の箇所を保護するのみにして貰っているが、その実ドレスのように見える部分もダンジョンから回収されたトレジャー素材をふんだんに使用した合成素材の防刃繊維で織られている。そんじょそこらの金属鎧よりも斬撃による傷は付かない逸品なのだ。

 ……まぁ、打撃に対してはあまり強くないのが弱点と言えば弱点だが、それでもレザー製の防具よりは衝撃を軽減してくれるし頑丈だ。元々受けるより躱すのが私の戦闘スタイルと言う事もあり、動きの阻害をしない事を重視した結果の配分なのでこのくらいが良い塩梅なのだ。

 そしてスカートは前面が存在しないフレアスカートのようになっており、こちらも戦闘中の足捌きの邪魔にならないような構造になっている。

 正面からはスカートの中が丸見えだが、そこはスパッツのような伸縮性の高いボトムスでしっかりガードしている。

 脚部はニーハイソックスの上からグリーヴを装着した様なデザインになっており、こちらも防御力は申し分ない。

 一見ニーハイソックスの部分は防御力が低いようにも思えるが、当然こちらもスカートやスパッツも含めて全てドレス部分と同じ合成素材となっており防刃性には申し分ない。

 さらに頭部には、これまでと変わらない角付きカチューシャが存在感を放っているが……実はこれも新調したれっきとした防具だ。

 正直あまり防御には使えないかもしれないが、その気になればこの角で突くくらいは出来るだろう。


 そして全体的に黒系統の色合いで纏められたドレスアーマーの要所要所には、ローレル・レイピアに合わせて月桂樹の蔓をモチーフにした銀色のレリーフが入っている。この辺りのデザインに関しては私の注文した部分であり、そういう意味では一番気になっているところである為、配信で皆にお披露目するよりも前に『俺』の目から見て変じゃないかどうか確認して貰いたかったのだ。


「おお……なんと言うか、ファンタジー感増したな。……うん、似合ってるぞ。令嬢と言うよりは、戦う王女とか姫って印象だけど」

「そうですか、良かったです……! この辺とか私の武器にデザインを合わせて貰ったんですよ」


 こっちの世界で育った『俺』からの太鼓判を貰った事で、漸く私は一先ずの安心感を得る事が出来た。


(流石は『L・E・O』。実力者御用達と評判なだけはあるな……)


 性能だけでなくデザインにも注文を付けさせてくれる上に、更に品質の保証もあると言う事から一定以上の収入があるダイバーは皆この店を利用するとの事だったが……これはその評判も頷ける。私も今後大いにお世話になる事だろう。

 出来上がった装備に満足していると、頃合いを見計らった店員さんが何やら資料のような物を手に声をかけて来た。

 恐らく最終確認のような物があるのだろう。


「とってもお似合いですよ! 可動域に問題はございませんか?」

「はい。一通りは確認しましたけど、違和感とかはなかったです」

「でしたら、続いて各部位の強度や機能についての説明に入らせていただきます。こちらはお客様の注文にもございましたが──」


 そんな感じで店員さんからの捕捉や手入れ方法の注意点等諸々の説明を受けた後、その場で所有者登録と登録装備への設定も済ませてくれた。

 後で『俺』に聞いたところ、どうやら協会の認可が下りた一部の信頼できる店舗には、協会の受付と同等の設備が与えられているらしい。一々協会の受付に行く手間も省ける上に帰り際の盗難防止にもなる為、基本的にダイバーはその場で登録するものなのだとか。



 そんなこんなで、ついに念願の新装備を手に入れた翌日──土曜日の午後一時。

 私は早速そのドレスアーマーを身に着けた状態で、渋谷ダンジョンの下層から配信を開始していた。


「──皆さん、ごきげんよう! トワイライトのオーマ=ヴィオレットです!」

〔ごきげんよう〕

〔ごきげ新衣装だーー!!!〕

〔ドレスアーマー!完成していたのか!〕


 早速コメントでも触れられた為、カメラを少し遠くに移動させて全身を配信に映し、くるりと一回転してみせる。


「はい。つい昨日完成し、兄さんと一緒に受け取りに行ってきました! どうですか、似合ってます?」

〔かわいい!〕

〔綺麗だ…〕

〔¥50,000〕

〔¥50,000〕

〔無言プレチャニキもよう見とる〕

〔¥10,000 全体的に黒が基調なの魔族っぽくて良いね〕

〔けばけばしい装飾があまり無いのに凄いカッコいいデザイン〕

〔可愛いってよりもカッコいいとか美しいって感じですこ〕

〔ローレルレイピアとおそろいの刺繍が入ってるのか〕


 どうやら好評なようで安心した。

 昨日店で『俺』に見せた時にも問題無いと太鼓判は貰っていたが、考えてみれば『俺』と私は感性が近い……と言うかほぼ同じなので、あまり参考にはならないんだよな。

 まぁ、こっちの世界での常識に沿った判断をしてくれるので、そう言うところでやっぱり頼りにはしてしまうのだが。


「プレチャありがとうございます! このドレスアーマーは『L・E・O』さんに作って貰った物で、ドレスに見える部分もちゃんと防具なんですよ!」

〔やっぱLEOか〕

〔あそこの防具なら安心だ〕

〔ダイバーならあの店を利用できるようになるってのは目標の一つだよな〕

〔これが着る高級車か…〕

〔¥5,000 スクショ撮りたい!!〕

〔¥1,500 レイピア構えて!〕

「もう、仕方ないですね……! こうですか!?」


 リスナー達の注文に応える形で、少しの間だけスクショタイムに入る。

 人に求められるのは正直好きだし、こう言う時に撮って貰ったスクショはサムネに使えたりする為、なんやかんやで私の為にもなる。SNSで拡散してくれれば更にリスナーも増えるかもしれないしな。




「さて……そろそろ行きますか、今日の本命に」


 流石に配信タイトルに『探索配信』と銘打っておいて、延々と撮影会する訳にも行かないだろう。

 頃合いを見て私はカメラの位置を探索配信でいつも使うポジションに移動させ、目の前に鬱蒼と広がる森に対峙する。


〔行くかぁ……〕

〔探索配信は好きなんだけどアレはなぁ……〕

〔グロ映像はもう勘弁〕

「私も苦手ですよ……私なんてアレ生で見てるんですからね?」

〔動きの鈍いダンジョンワームは見かけてもスルーしようね〕

「勿論ですよ」


 森に踏み入れば今のようなトークは気軽に出来ない為、突入前にリスナー達となるべく多く言葉を交わす。

 いつからか、そうやって心を落ち着かせるのが私のルーティーンとなっていた。




「──先ずは【エンチャント・ヒート】を試してみましょうか」


 足音を消し、【エンチャント・ダーク】をドレスアーマーに纏わせ、スライムが反応しない程度の小声でリスナー達に語り掛ける。

 そして樹上にレッドスライムの気配がある事を確認し、その幹にそっと手を添えた。


「──【エンチャント・ヒート】」


 私が魔法を発動すると、忽ち白い樹全体に魔力が染み渡り、炎の性質を帯びる。

 樹全体が燃えるように赤く発光し、樹上の至る所からじゅうじゅうと何かが焼けるような音が聞こえて来た──その瞬間。


「堪らず飛び出してきましたね……!」


 弱点の炎に触れていると判断したレッドスライムたちが、ボトボトと樹から落ちてくる。

 その全身からは白煙が漂っており、蒸発によって体積が急激に減らされた事によって動きも鈍くなっていた。


「【エンチャント・ヒート】」


 頭上に降りかかって来る個体は避けつつ、落ちて来たスライムを炎を纏ったローレル・レイピアによる一突きで仕留めていき……


「……ふぅ、一先ずこれでこの樹に居た分のスライムは倒しきりましたね」

〔めちゃくちゃ多かったな…〕

〔一本の木に何匹登ってんだよ…〕

〔数えてたけど今の樹だけで27匹いたぞ〕

〔スライム以外の魔物が居なくなるわけだ…〕


 周囲に散らばる魔石を集めながら、コメントを確認する。

 二十七匹か……他の樹にもこれと同じ数が居ると仮定すると、やはり今のやり方で一本一本対処していくのが一番安全のようだ。


〔今日の配信は伐採だけになりそう?〕

「いえ、流石にずっとこんな光景を映す訳にも行かないので……そうですね、後三十分程で場所を変えようと思います。その後の木の枝の収穫は配信後だったり、探索のついでに集める感じで」

〔はーい〕


 やっぱり配信である以上、リスナーを退屈させる訳にも行かない。この方針は水曜日の雑談配信でも決定、通達していた。

 リスナー達と小声で会話しながら、スライムを駆除した木の枝を回収し終えた私は、そのまま小声で気合を入れる。


「さぁ、他の樹も伐採していきますよ!」

〔おー!〕

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