第4話 説得
「──さて、私の裸同然の姿を見た事に関しては良しとしましょう。原因は結局私の不注意ですし」
「お、おう。案外ドライなんだな……」
「考えてみれば私は貴方ですからね。あの時は流石に慌てましたが、少し落ち着けばこんなもんですよ」
「ふーん……」
『あんなに睨んでたくせに』とでも言いたそうな『俺』の視線から、ついと目を逸らす。
あれから私は再び【変身魔法】で人に化け、同時に構築したシンプルなローブを身に纏っていた。
それにより平静を取り戻した私は再びテーブルの『俺』の正面に座り込み、まだ本題にも差し掛かっていなかった話の続きをするべく口を開いた。
「考えてもみてください。私から見れば、貴方は他人と言う感じがしないんです。鏡の様な感覚さえあるくらいなので、あまりそう言った抵抗も無いんですよ。……そう言う訳なので、私をこの家に住まわせてくれませんか?」
「ああ……まぁ、それくらいなら──……うん? おい待て、どういう訳だ?」
ちっ、流れで誤魔化せなかったか……
仕方なく、私は態々『俺』のアパートに上がり込んだ理由を話す事にした。私からしてみればここからが本題だったのだが、随分と遠回りをしてしまった気がするな。
もっとも、そのおかげで私の気分は晴れやかそのものだが。
「だって、言うなれば私はパラレルワールドの貴方なんですよ。この世界に自分の家なんて当然ありませんし、何処かに転がり込むしかないんです」
「それは分かるが、何で俺!?」
「事情を知ってる人の方が良いじゃないですか」
「いや……あんま言いたくないが、俺は苦学生だぞ? 金銭的に余裕がないんだよ」
「む……」
住んでるアパートの雰囲気から何となくそんな気はしてたけど、やっぱりそうだったか。
流石に苦学生である『俺』の生活の事を考えると、私もあまり強くは言えないが…………いや、待てよ。
「だったら尚更私を住まわせた方が、貴方の生活も潤うと思いますよ」
「いや、なんでだよ。食費は二倍になるし、スペースは狭くなるし俺にとってメリットないだろ……」
『俺』の態度を見れば分かるが、結構前に【魅了の魔眼】の効果は切れている。なので私自身の言葉で彼を説得しなければならないのだが、私には勝算があった。何故なら……
「先ず、私は食事の必要がありません」
「は?」
「多分、魔族ってのはそう言う生き物なんですよ。ですから、貴方の言う食費に関しての懸念は消えます」
何故食事が必要ないのかは私自身分かっていない。人間と同じように食事をする事も出来るし、味覚も恐らくは人間と同じだと思う。
気付いた切っ掛けは、ある時正体がバレて住んでいた村を追われた事だった。その後私は人目を避ける為に森や山を飲まず食わずの状態で横断したのだが、何週間と経過しても空腹を感じる事もなかった。その時に私は自分の身体が食事を必要としない事を知ったのだ。
「……いや、だとしても、ここは見ての通り一人用のアパートだぞ。偶に客をあげる程度ならともかく……!」
「私、エアコンの代わりに室温の調整できますよ。魔法で」
「っ!!」
ここに来るまでに眺めた街並みは、木々の葉は色付き秋真っ盛りと言った様子だった。確かに今は快適な気候だが、直ぐに厳しい冬がやって来る。
私は前世で一人暮らしした経験がないから断言はできないが、これからの季節は暖房が欠かせないし、きっと光熱費もかかるのだろう。それが食費もかからない私一人を部屋に住まわせるだけで解決するのだ。分かりやすく動揺する『俺』に、私は更に畳みかけるように付け加える。
「それに私、他にも色々できますよ。水を出したり冷やしたり、洗濯物を一瞬で乾かしたり。流石にテレビやスマホの充電とかに使う電気代は賄えませんが、他の生活費ならかなりカット出来ますよ」
揺らいだ心の隙を見逃さず、デモンストレーションとして魔法で水の玉を作り出して一瞬で凍らせ、『俺』の飲んでいるお茶のグラスにぽちゃんと落とした。
すると氷はパキッと音を立てて、お茶の温度を僅かに下げる。それを確かめた『俺』の行動は早かった。
「心からお前を歓迎しよう、紫織。俺達はもう、家族だ……!」
ガシッと私の手を掴み、『俺』は笑顔を浮かべる。彼の手には中々の力が込められており、逃がすものかと言う気概さえ感じさせた。
……我ながら現金と言うか、なんとも分かりやすいな。或いは、それだけ余裕がないのかも知れないけど。
「……そんなに厳しいんですか? 一人暮らしって」
「学費の方がちょっと、な……」
ちょっと気になって事情を聞いてみれば、どうやら『俺』はとある目標の為に学費の高い大学に通っているらしい。
最初はダンジョンで稼げば学費もなんとかなる、なんて軽い気持ちで踏み出した一歩だったのだが、それが予想以上に上手く行かなかったのだとか。
初期投資として武器と防具、ランプを比較的安価な物で揃えたまでは良かったものの、ダンジョンの奥に進めば進むほど魔物は強くなる。こう見えて実力にはある程度自信があるらしいのだが、それでもやはり人間である事に変わりはない。魔物の攻撃に対して安全に戦う為には高い防具が必要となる訳で……
「その結果、学費を払う為に防具を買い替える事も出来ず、ダンジョンの探索は収入の少ない上層で行き詰ってしまったと……」
「一応大学の教授の伝手でちょっとした仕事の手伝いとかもさせて貰ってはいるんだが、それでも目標の装備を買うには全然足りなくてな」
「はぁ……成程。しかし、それなら今日のダンジョン成長は幸運でしたね。成長直後のダンジョンなら稼ぐ当てもあるでしょう? ここで一発、稼いでみてはどうですか?」
「ああ、トレジャーの復活だろ? それは分かっているんだが……」
成長直後のダンジョンは、言うなれば剥き出しになった金鉱の様なもの。まさに今は一獲千金の大チャンスなのだ。
ダンジョンでは魔物の他にも希少なアイテムが生成される事がある。異世界では『財宝』を指す名称で呼ばれていたが、恐らく『俺』の言うトレジャーが私の知っているそれと同じ物だろう事は想像に難くない。
ダンジョン内でしか精製される事がなく、非常に稀少である為『高値で取引される掘り出し物』──それが財宝と言う名称の由来なのだ。
さっきはダンジョンが封鎖されてしまったが、封鎖が解かれた後にでもダンジョンでトレジャーを入手できれば万事解決だ。防具を揃えるも良し、学費に充てるも良しだ。そう考えての提案だったのだが。
「それが……ダンジョンの再開放は明日の13時なんだが、その時間は丁度外せない講義が入っててな……」
「そ、それは何とも……間の悪い事で……」
魔物の現出と違って、トレジャーが生成されるタイミングは数年に一度の『ダンジョンの成長時』のみ。
そんな『稼ぎ時』にダンジョンに出遅れるとなれば、まず間違いなくライバルに殆どのトレジャーを持っていかれるだろう。そんな彼を我ながら不憫に思っていると、ふと『俺』が何かを閃いた様子で「そうだ……!」と呟き、縋る様な視線を私に向けて来た。
……この時点で何となく彼が何を言いだすかは想像できていたが、その後に『俺』の口から飛び出したのはまさに私の想像していた内容と全く同じ物だった。
「な、なぁお前、俺の代わりにダンジョンでひと稼ぎして来てくれないか!? ほら、同居人を助けると思ってさ……!」
正直なところ、こっちの世界に来てまでダンジョン探索する事になるとは思ってなかった。
私がこの世界に求めていたのは『自分の能力を活かす環境』ではなく、あくまでも『現代日本での平穏な生活』だったからだ。
しかしこうして『俺』と生活を共にする以上、彼と私は同じ生活環境を共有する関係だ。さっきも言ったように生活費の大半は私の魔法で節約できると言っても、当然学費や家賃はそうはいかない。万が一にも家賃が払えなくなり追い出されてしまえば、それは平穏な生活とは言えないのだ。
(それに、私にとってもメリットが無い訳じゃないんだよな……)
私がダンジョンに赴き、自分で金を稼げるのは大きい。
ただの居候の身では『あれが欲しい』『これが買いたい』なんてとても言えないが、自分で稼いだ金であれば話は変わって来る。私は何としても『自分で自由にできる金』が欲しいのだ。
と言うのも、私がこの部屋に来て最初に抱いた印象なのだが……兎に角、物が少ない。生活に必要な最低限の環境と言った感じで、パッと見て娯楽に関するものはテレビくらいだ。
漫画やゲームと言った物はきっと『俺』のスマホの中にしかなく、私はそれらに自由に触れる事も出来ない。
折角物騒な異世界から娯楽の溢れた日本に来たのに、生活苦が原因で『おあずけ』されるなんて私にとっては拷問だ。
ここで『俺』に借りを作っておけば、私と『俺』の関係は対等に近付く。生活に支障の出ない範囲でなら、望む娯楽を享受できる機会も作れるだろう。
「仕方ないですね……その代わり、一つだけ条件があります」
「なんだ?」
「明日の分の稼ぎは全額差し上げます。しかし、それ以降の私が稼いだ金額については、家賃として納める分を除いて自由に使わせて欲しいんです。漫画とか私も読みたいですし」
「いや、それくらいなら全然良いけど……寧ろ家賃とかまで貰って良いのかってくらいだし」
「居候の身ですから、お金くらいは入れますよ。少なくともちゃんとダンジョンで稼げる装備を整えるまでは、意地張らずに素直に受け取っておいた方が良いと思いますよ?」
私がそう言うと、『俺』は少し考える素振りを見せる。今まで一人で生活してきた分、ちょっとしたプライドがあるのかも知れない。
しかし、背に腹は代えられないのも事実。最終的に『俺』は私に頭を下げて、素直に感謝を示した。
「……助かる」
「決まりですね。じゃあテレビでも見ましょう。私にとっては千年ぶりですし、どんな番組があるのか楽しみです」
「いや、明日の為に色々準備が必要だし、先にそっちを済ませよう」
「準備?」
「この『腕輪』だよ。さっきも言った通り、ダンジョンの再開放は明日の昼頃だ。それまでにお前の『腕輪』を用意しないと」
「腕輪……? もしかして、ダンジョンに潜るにはその腕輪が必要なんですか?」
「え? ……ああ、そう言えば詳しい説明がまだだったな。これは『ダイバー』の証でもあって……まぁ簡単に言えば、俺達の様なダンジョンを探索する人間が必ず身に付ける物だ。ダンジョンに潜る為のライセンスであり、いざと言う時の命綱。ついでにこの腕輪を通して個人の口座や倉庫に報酬やアイテムが送られたり、電子マネーの決済も出来る。他にも便利な機能はあるが……まあそんなとこだ」
成程……話を聞けば聞く程、私の居た異世界とは違うんだなと思い知らされる。
最初は姿を消してこっそり潜り込もうかななんて考えていたのだが、腕輪が無ければ報酬も受け取れないのであれば仕方ない。少々手間ではあるが、話を聞く限りかなり便利なアイテムっぽいし、ついでと思って受け取っておこう。
「ところで……その腕輪は今直ぐ貰う事は出来るんですか?」
「契約の方法はいくつかあるが、直ぐとなるとダイバー協会の窓口に直接顔を出すしかないな。ネットでも手続きは出来るが、腕輪が届くまでに時間がかかるし。ただ……」
「ただ……?」
「個人用のスマホと銀行の口座が必要だ。報酬の受け取りは基本的に振込だからな」
「……あれ? それって、詰んでませんか?」
スマホと口座って……私には戸籍も無いのに?
そんな意図を込めた質問を受けた『俺』だったが、どうやら私の戸籍が無い事は既に織り込み済みだったらしい。心配するなと言いたげな口調で補足を加えてきた。
「いや、一応戸籍が無い人間でも契約の手続きは出来る。俺が身元保証人になる関係で、俺のスマホと口座にお前の腕輪を紐付ける事にはなるが、法的には問題無い。まぁ、それとは別にお前のスマホも必要にはなるんだが、これくらいは初期投資として割り切るよ」
「は、はぁ……何かやたら詳しいですね? 戸籍が無い場合の手続きなんて、普通は知らないと思うのですが」
「……まぁ、ちょっとした目標があってな。そっち方面には詳しくなる必要があったんだよ」
つらつらと淀みなく解答が返って来た事に思わず疑問を投げかけたが、どうやら『俺』の目標とやらに関わる事の様だった。きっと何かしら法律に関わる勉強をしているのだろう。学費が高いと言うのも何となく頷ける。
(なんか急に頼もしく見えて来たな……割と行き当たりばったりで崖っぷちなのに)
「……何か失礼な事考えてないか?」
「いえいえ! では、その方法で行きましょうか。早速スマホを買いに行きましょう! その次は私のダイバー登録です!」
妙な所で勘が鋭い『俺』の追及を躱し、早速私もついて行こうと靴を履こうとして……『俺』に手で制された。
「いや、スマホは俺が一人で買いに行く。近所のショップで顔見知りがバイトしてて、お前を視られたら変な勘繰りされそうだし……ついでに必要な書類の準備もあるしな」
「む……仕方ないですね、分かりました。テレビでも見て待ってますよ」
正直千年ぶりにスマホを貰えるスマホだから自分で選びたかったのだが……まぁ、少し言い淀んでいる辺り、本音は予算の関係で多少古い型の物しか買えないのを隠したいとかそんなところだろう。そのくらいの事情は素直に説明してくれれば、私もちゃんと汲むと言うのに。
「いや、俺が出かけている間なんだが……お前は俺のスマホで他のダイバーの配信アーカイブでも見ながら、ダイバー名とか色々考えておいてくれ」
「! 良いんですか? その……私にスマホを預けて」
「多分大丈夫だろ。出かける先もそう遠くもないしな……あ、課金とかはすんなよ? 動画見るだけにしろよ?」
「あ、はい。ありがとうございます……」
……なんか、慣れないな。無条件で信頼されるのって。
いくら日本が平和と言っても、ここまで親切と言うか無警戒と言うか……危機感が足りなすぎやしないか?
……すっかり人間不信が染みついてしまった私だから、こんな事を考えてしまうのだろうか。そんな事を考えながら、一先ず差し出されたスマホをありがたく受け取り礼を言う。
(あ……この感覚……)
久しぶりに手にしたスマホのサイズと重量感に、懐かしさが込み上げて来る。いかん、変なテンションになってしまいそうだ。
(駄目だ落ち着け私。今はとにかくダイバーの活動について知る事が最優先なんだから……)
いつの間にか出かけてしまった『俺』の言葉を思い出し、玄関からタッタッと部屋に駆け戻りベッドに腰かける。
異世界から来たばかりの私には、配信の……特にダイバーについての常識が欠けている。配信の様子や平均的な実力、名前や装備の傾向等、違和感なくダイバーとして紛れ込む為にも調べておくべき事は多いのだ。
スマホの画面を見れば、私に手渡す前に『俺』が予め開いておいてくれたのだろう。『My Tube』と言う動画投稿サイトが表示されており、『探索配信』で検索された動画のサムネイルがズラリと並んでいた。
私は早速表示されていた中から、比較的初心者っぽいダイバーのアーカイブの一つを再生するのだった。
◇
『──ふぅ、魔力も減って来たので今日はここまでにします! 次回こそ中層に行ってみたいですね~』
〔お疲れ様!〕
〔無理はよくないから撤退は良い判断だね〕
〔\2,000 最初はあんなに頼りなかったヘタレダイバー円魔ルコもついに中層ダイバーの仲間入りか…〕
〔中層で魔物一気に強くなるからもうちょっとレベル上がってからの方が良い気もするけど〕
〔でも実入りも一気に良くなるから良い装備に買い替えるチャンスでもあるのよね〕
〔\300 今来た!後で配信アーカイブ見ます!〕
〔ルコちゃん魔力切れ早いからな…〕
「──どうだ、ダイバーについて分かったか?」
「はい、大体の事は。スマホはお返ししますね」
「ん。……登録の際にはダイバーとしての名前を決める必要があるが、そっちはもう決めたか?」
約一時間後。帰って来た『俺』の問いかけに頷き、スマホを返す。
私が視た配信アーカイブは三つ程。所々倍速で探索の様子は飛ばしながらだったが、それでも求めていた情報に関しては十分に得られたと思う。
先ずダイバーの容姿や装備は様々で、『俺』のように黒髪黒目の普通の日本人って感じのダイバーは寧ろ少数派。大半は、今しがた見ていた『円魔ルコ』の赤髪のように髪色を染めたり、装備の見た目で自分のイメージ……所謂『キャラクター』を作る傾向にあると言う事が分かった。
そして彼女達の配信を見ながら配信の際に使う容姿と名前についても考えていた私は、『俺』の二つ目の問いに対する回答として、早速【変身魔法】を用いて姿を変える。
「──私はこの容姿と、『オーマ=ヴィオレット』と言う名前で活動しようと思います」
「いや、名前はともかく……お前、『ソレ』は良いのか?」
今の私は本来の私の外見年齢をそのまま14~5歳程度まで若返らせ、そこから翼と尻尾を消した様な容姿になっている。
身長は160㎝ジャスト。スタイルは動きやすさを重視してスレンダーに。色白な素肌はきめ細やかで、箱入り娘や深窓の令嬢と言った雰囲気を感じさせる。そして腰辺りまで真っ直ぐ伸ばした紫色の長髪と、虹彩が縦に割れた紅い瞳は本来の私の特徴をそのまま持ってきた。
身に纏っている艶の無い黒いドレスは、変身魔法を使った関係で余計な装飾を省いたシンプルなデザインだ。コレについては配信向きとは言えないので、早い内にそれっぽい装備を買いたいが……まぁ、明日どれだけ稼げるか次第だな。
そして、最後にもう一つ。ダイバーとして印象を強める為に私が備えた最大の特徴こそ、『俺』がどこか心配そうに指で示している『角』だ。
私の側頭部からは丁度黒いカチューシャを挟むように生えた二本の黒い角が、真っ直ぐ真上に伸びている。しかし──
「ご心配なく。これは『角付きカチューシャ』ですよ。いくつかのダイバーの配信を見た限りでは、こう言ったキャラ付けをする人の方が人気がある印象だったので」
「ああ……『魔族キャラ』って訳か。珍しくはないが、それくらいシンプルな方が受け入れやすくもあるだろうな」
「設定を凝り過ぎても遵守し切れる自信はないですからね。配信も話し方や性格はほぼ素でやるつもりなので、この辺りが程良い塩梅かと」
「成程な。……っとそうだ、コレお前のスマホな。高いんだから無くすなよ?」
私が説明しながら角付きカチューシャを外して見せると『俺』は納得したように頷いて、買ってきたスマホを手渡してくれた。
意外な事に、それは先程まで私が借りていたのと同じ機種の様だった。てっきり少しスペックが低い安物を渡されると思っていた私は、明日のトレジャー稼ぎに対するモチベーションを上方修正する。
「ありがとうございます。この代金は明日何倍にもしてお返ししますよ」
「なんか、末期のギャンブル中毒者みたいなセリフだな……」
「失礼な。ただの事実ですよ」
軽口を叩き合いながら受け取ったスマホの画面を見ると、基本的な設定は店の方で既に済ませてくれていたらしい。初期状態の待ち受け画面に、18時を目前に控えた現在時刻が表示されていた。
普通の役所であれば既に閉まっているような時間帯だが、ダイバー協会の窓口──特にダンジョンが併設されている窓口は、探索帰りのダイバーが成果物の換金等に何時でも利用出来るように24時間開いているらしい。
いよいよこれから私達が向かうのもそう言った窓口……と言うか、私が出て来たダンジョン傍のあの受付だ。
「じゃあ、そろそろ行くか……ああ、髪と眼の色は別にいいけど、角は危ないから外しておけよ」
「寧ろ角以外はこのままで良いんですね……」
最後にちょっとしたカルチャーギャップを感じながら、私達は再びあのビルへ向かうべく街へと繰り出したのだった。