第50話 下層探索、再開
前の探索会でまだ出す予定じゃなかったハゲタカの魔物の名前が出ている事に気付いた為、修正しました
「皆さんこんにちは! 今日は昨日中断してしまったところから、下層の探索を再開していきますよ!」
浅層での騒動があった翌日の日曜日。私は改めて下層の配信を行っていた。
〔待ってた!〕
〔昨日は色々あったからなぁ…〕
〔¥50,000 ヴィオレットちゃん、攻略最前線認定おめでとう!〕
〔¥50,000 最前線祝い〕
〔¥50,000 おめ!〕
「あ、早速のプレミアムチャットありがとうございます! もう発表されていたんですね……はい、この度めでたくダイバー協会から攻略最前線と認められました、オーマ=ヴィオレットです! これからも誰も見た事の無い景色をお届けしていくつもりですので、チャンネル登録がまだの方はよろしくお願いしますね!」
配信開始とほぼ同時に配信画面を彩る赤いコメント群。彼等が祝ってくれているように、昨日の探索による貢献が認められ、私は攻略最前線のダイバーとして協会に認定された。
ただ、私の口座が『俺』の物と共同と言う事で、『俺』の方にちょっと面倒な手続きが必要になったようだが……まぁ、その辺の事は配信で触れる内容ではないので今は置いておこう。
そんな感じで多くのお祝いのコメントが流れて行き、やがて話題は昨日浅層にて起きた騒動にシフトしていった。
〔浅層はあの後お祭りだったけどヴィオレットちゃんは潜った?〕
「ボクですか? いえ、あの後は自宅に帰りましたよ。駆け出しの皆の邪魔をしてしまうのも悪いですからね」
〔って言うか今更気付いたけど今日は『ボク』の日か〕
〔今日は男装なのか!〕
〔¥500 ボクっ娘ヴィオレットちゃん来た!!〕
〔¥10,000 細く白いおみ脚プライスレス〕
そう。口調からも分かる通り、今日の配信衣装は昨日の救助の時にも着替えた『お忍び令嬢の男装セット』だ。……と言うのも──
「はい。前回の戦いでいつもの衣装はボロボロになってしまいましたから、今日はこの衣装で探索して行こうと思います。……もう、他に服が無いので……」
そう。昨日の探索で普段よく来ているUMIQLOのドレスがボロボロになってしまった所為で、今はこれしか配信に使える衣装が無いのだ。
その為、今日の探索では前回のように服が破損する事態は避けなければならない。もしもこの服もダメにされてしまったら、配信をそこで中止するしかなくなってしまう。
〔¥30,000 衣装代。これで危ない水着でも買って〕
「あ! そんな、ありがとうござ……──煩悩塗れじゃないですか!? そんなの着て配信できませんよ!!?」
〔草〕
〔草〕
〔だめかーw〕
流石にそんなアカウントBAN一直線の衣装を買う訳には行かないけど……確かに、リスナーさんが私にどんな服が似合うと思っているのかは気になるな。よし、丁度装備も買わないといけない所だしここは……
「うーん……でも確かに新しい衣装は買おうと思ってたんですよね。皆さんはボクにどんな衣装が似合うと思いますか?」
〔それってリクエストって事!?〕
「流石に常識と良識に則った物しか聞き入れませんけど、参考にはしたいと思ってます」
探索を開始するとこんな暢気にやり取りするタイミングも無いので、今の内にリクエストを募っておこう。そんな軽い気持ちで募集した結果──コメント欄はとんでもない速度で流れ始めた。
〔ゴスロリ!〕
〔スク水!〕
〔社交界に出るようなガチドレス!〕
〔¥50,000 歩く寝袋〕
〔とにかくエッチな奴!〕
〔騎士が身に着ける全身甲冑!〕
〔ゲームとかに出てくるファンタジー色強めのドレスアーマー〕
〔おい今アトさん居たぞ!w〕
重複する物も多い中で、何とか読み取れただけでもこれだけの種類があった。中にはプレチャ付きのリクエストまであって……って──
「歩く寝袋に五万!? どう言う需要ですか!? 戦えないですよ!? って言うかアトさん何してるんですか!??」
〔ツッコミ激しくて草〕
〔ホントだアトネキ居るwww〕
〔バレたか! さらば!〕
〔謹慎中で暇なんだろうなw〕
〔帰ったw〕
〔歩く寝袋調べたけどなんだコレwww腕出せねぇwwww〕
まさか投げ銭で大喜利する人もいるなんて予想外だったが……中には参考になるコメントもあったな。
(流石にガチのドレスはお金もかかるし、構造上どうしても脆くなるから駄目だとしても……『ドレスアーマー』はありかも知れないな)
魔族令嬢のイメージも崩れないし、金属の装甲を織り交ぜた物なら下層の探索をする為に必要な防御力も確保できる。何より、見た目で頼もしさの演出も可能だ。
(昨日の戦闘でちょっとダメージ受けただけで『撤退しよう』ってコメントが出て来たのは、装備の弱さも原因の一つだっただろうし……)
……うん。悪くないな。
「取りあえず、今拾えたコメントの中だと『ドレスアーマー』が一番良さそうですね。やっぱり防御力も確保したいですし」
〔確かになー〕
〔でもちゃんとしたドレスアーマーとなると高いよ?〕
「まぁ、お金の面でしたら心配はありません。昨日狩ったハゲタカの魔物の魔石が良い値段で換金して貰えましたので」
あの魔物に関しては発見例が無く、貴重な魔石と言う事でかなり色を付けて貰えた。
なんとその額、魔石一つで五十万円だ。群れで襲ってくる魔物の魔石としては間違いなく破格。狩ったハゲタカの魔物の総数が十七頭だった為、占めて850万の収入だ。しかも研究用に大量に欲しいと言う事で、暫くはこの値段で換金して貰えるらしい。
まぁ、コレを馬鹿正直に公表してしまうと、ハゲタカの魔物を狩る為に無茶する中層ダイバーが続出しそうなので値段は伏せるが、取りあえずお金に余裕がある事は伝えてみた。すると──
〔そっか新種の魔物って研究に使うから暫く高騰するんだっけ〕
〔あのハゲタカの魔物そんなにうまいのか〕
〔そう言えば新種の魔物の命名権ってもう使った?〕
「あ! そうでした! 換金の時にあのハゲタカの名前を考えたんですけど……」
コメントのおかげで思い出したのだが、昨日クリムと別れた後にハゲタカの魔物の魔石を換金した際に『新種の魔物と確認されたので、名前を付ける権利があります』と言われたんだった。
私にとってあの魔物は異世界でも見慣れていたものである為、同じ名前を付けたかったのだが、如何せん異世界の言語はこっちの世界では発音が難しい。
そこでその魔物の名前の意味──『襲撃してくる怪鳥』をこっちの世界に当てはめて、英語で表現した名前を考えたのだ。
「『レイドバルチャー』って名付けてみました! どうですか?」
〔レイドバルチャー……直訳で襲撃するハゲタカか〕
〔ええやん〕
〔変な響きも入ってないし、被りが無ければ申請通りそう〕
コメントの反応としては、そこまで悪くないと言った風だった。まぁ、見た目まんまだしそんな物か。
と、そんな感じで配信直後の恒例となっている交流を楽しんでいると、ふと視界にチラリと映り込んだ小さな影。
「! ──そこッ!!」
「ギ……ッ」
既に用意していたナイフを素早く投擲すると、今の一投で倒されたダンジョンホッパーが魔物を呼ぶ前に塵に還った。
〔ダンジョンホッパー!〕
〔見つかったのか偶々迷い込んだのか…〕
「どちらにしても頃合いですかね。そろそろ本格的に探索を始めて行きましょう!」
〔おー!〕
探索前の私の楽しみは取りあえずここまで。雑談をしている間に増えて来ていた同接数も安定して来たし、そろそろ下層の新しい景色を共に見に行こう。