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第30話 新しい属性

 土曜日の午後1時。私は秘策を携えて渋谷ダンジョンの上層にて探索配信を開始した。


「皆さん、こんにちは! 今日も私の──いえ、()()の探索配信を見に来てくれてありがとうございます!」


 カメラを配信用に切り替えて笑顔で挨拶すると、画面越しのリスナー達からコメントが返って来ると言ういつものやり取り。しかし、この日は……いや、この日からコメントの様子は少し変わる事になる。

 と言うのも──


〔\10,000 祝!収益化!〕

〔\1,000 収益化おめ!〕

〔\1,500 めでてぇ!〕


 他の白い枠に表示されるコメントとは異なり、赤や青、緑と言った鮮やかな枠で表示されたのは『プレミアムチャット』と呼ばれる、投げ銭が行われた証だ。彼等が投げてくれた金額から、ダンジョン協会や配信サイトである『My Tube』に支払う手数料が引かれた金額──大体3割くらいは持っていかれるらしい──が、私の収入として『俺』の口座に振り込まれる事になる。

 ……そう。コメントで祝ってくれているように、ついに収益化の申請が通り、プレミアムチャットが解禁されたのだ!


「早速のプレミアムチャット、ありがとうございます! 皆さんの応援もあって、ここまで来れました! 引き続き、リスナーの皆さんを楽しませられる配信を目指しますね!」

〔こんにちは! 初見です!〕

〔\1,000 って言うか新装備!〕

〔\500 新装備だ!〕

〔待って今ボクって言った!?〕

「あっ、気付きましたね? ふふ、実は雑談配信で話した映画を見に行った日に、新しい装備も買いに言ったんですよ! 似合います? テーマは『お忍びで城下町にやって来た魔族令嬢』です!」


 収益化についてお礼をしている間にも、次々にカラフルなコメントが流れて来る。その中に見かけた『新装備』と言うコメントを拾い、配信に今の私の全身像を写す。

 テーマとしたお忍びの令嬢だが、異世界ではそう言った令嬢を見かけた事は無かった為、参考元は殆どこっちの世界の創作物だ。

 具体的な格好としては正体がバレないように少年に扮してはいるが、少しじっくり見れば女性と分かるといった塩梅を目標にコーディネートしてみたと言った感じだろうか。『ボク』と言う一人称も、口調を格好に合わせてちょっと変えてみたのだ。


 白いシャツの上から身に着けたベージュのベストは一般的な物よりも厚手の生地で作られており、その正体はレザー製と遜色ない強度を誇る一端の防具だ。一方で下半身は動きやすさをとにかく重視して短パンに少し長めの黒い靴下、そしてローファー風のスニーカーで纏められている。頭にはベレー帽を被っており、長髪はその中にしまい込んでいる。

 勿論魔族要素も忘れてはおらず、ベレー帽を突き破って二本の角が立派に自己主張をしている……ベレー帽は新品だが、やはり魔族要素は残したかった。私は彼等に『魔族の自分』を受け入れて欲しいから。

 ……さて、そんな私の姿に対するコメントだが──


〔\300 ボーイッシュな感じも良き!〕

〔お忍び……お忍び?〕

〔角が全然忍んでなくて草〕

〔\5,000 細く白い美脚が眩しい〕

(うん! 反応は上々のようだ)

「感想とプレミアムチャット、ありがとうございます! 今日のボクはこの装備で探索していきますよ!」

〔ヴィオレットくん…!?〕

〔ボクっ娘やったー!〕

〔探索の前に今日は香炉つけられてない?大丈夫?〕

「あ、そうでしたね! 後ろは自分では確認できないので、ちょっとお願いします……どうでした?」

〔何もついてないと思う〕

〔ばっちり!〕


 配信開始前にも一応さっと確認はしたが、念の為にリスナー達にも確認して貰ったが問題無いようだ。

 今回の服装は香炉を取り付けられても直ぐに分かるようにと言う配慮もあったので、早速それが役に立ったな。


〔\30,000 膝の裏ありがとうございます!!!!!!〕

「えっ!? あっ、プレミアムチャットありがとうございます!?」

〔動揺してて草〕

〔性癖にぶっ刺さったか…〕


 尤も、流石にこの需要に関しては想定外だったが。

 ……さて、本格的な探索開始を前に既に色々とあったが、あくまでも今回は雑談ではなく探索がメイン。そちらを楽しみにしてくれているリスナー達へ向けて、もう一つアピールしておこう。


「今日は今までのとは少し趣向を変えて、道具を活かした探索も見せて行こうと思います」

〔道具って言うとロープとかか〕

〔一応ランプも探索道具ではあるな〕

「ですね。勿論ロープも活用していくんですが、先ず見て貰いたいのが……コレです!」


 そう言って腕輪から取り出したアイテムを、カメラに向けて見せつけるように翳す。


〔ナイフ?〕

〔投げナイフか。確かにヴィオレットちゃんって遠距離への攻撃手段乏しいもんなぁ〕


 コメントの指摘も間違っていない。本来の私が扱える魔法の中には当然遠距離を攻撃できるものも無数にあるのだが、今の私は『オーマ=ヴィオレット』。エンチャントとスキルを武器に戦う駆け出しダイバーである以上、こうした遠距離を攻撃できるアイテムは必須となって行くだろう。

 だが、このナイフを買った理由はそれだけではない。


「確かに遠距離の魔物を牽制するのにも使えるのですが、ボクの場合──【エンチャント・ヒート】!」


 ナイフに炎を付与して少し離れた壁面に投擲し、突きたてる。するとまるでナイフが燭台の様な役割を果たし、周囲の様子が照らされた。

 こうして遠くの様子を窺う事が出来れば、私の目が暗闇の影響を受けない事も誤魔化せる場面が来るだろう。時には影に潜んでいる魔物をつり出す事も出来るかもしれない。壁からナイフを引き抜けば、刃が潰れない限りは何度も使いまわせるし、非常にリーズナブルだ。


〔おお!〕

〔成程ね。浅層でゴブリンの手槍を使ってやってた奴か〕

〔遠くの視界確保できるのは便利だな〕

〔ゲームだとあまり戦闘以外では使わないイメージだったけど、こうして見るとエンチャントやっぱり便利すぎるな…〕

「今後はこう言った道具も活かして探索できると思います! なので、相性の良さそうな道具や使ってみて欲しい道具があれば今度の雑談配信の時に教えてくださいね! あっ、でもあまり高いのは勘弁してください……」

〔草。調べておくわ〕


 そんな感じで今回は道具を活用し、探索を進めて行った。

 最初に見せた即席の燭台は勿論、ナイフはそのまま武器としても扱ってみたりもして見せた。レイピアと投げナイフの二刀流、そしてゴブリンコマンダーのように距離を取る魔物には【エンチャント・サンダー】を纏わせたナイフを投擲し、スタンしている間に接近。そのまま止めを刺す等、ナイフ一本で戦略の幅がグッと広がったのを感じる。

 だが勿論、あまり効率的と言えない組み合わせもあり……


「グオオォォォッ!!」

「ガガガガガッ!?」


 現在私の居る広間には大量のブラックウルフが興奮した様子で飛び掛かる機会を窺っており、一方で私は座り込んでコメントを見ている。その周囲には帯電したロープが立体的に張り巡らされており、先程からそこに飛び掛かったブラックフルフが感電したタイミングでロープの隙間から突き入れたローレル・レイピアの一撃で一方的に倒していた。のだが……


「うーん……楽は楽ですけど、今の段階ではあまり効率よくないですかね?」

〔だよなぁ〕

〔通路で魔物を堰き止めるのには使えそう〕

〔使うとしても中層以降だろうな。上層ではこんな小細工する必要ないもん〕


 キャンプとかで使う固定具を広間に刺し、そこを通したロープに【エンチャント・サンダー】を付与する事で結界とする。そして結界内で香を焚けば、興奮したブラックウルフが勝手に返り討ちになるのでは……

 発想としては悪くなかったと思ったんだが、如何せん帯電したロープに触れただけではブラックウルフが塵に還るほどのダメージにはならなかった。なので感電したところに地道に止めを刺す必要があり、結界を張る手間もそれなりにかかる事から微妙と評価された。


「そもそもブラックウルフくらいならチャージの方が速いですもんね……」


 まぁ、いずれ使う機会もあるだろう。今はこの結界がちゃんと機能したと分かれば良いのだ。

 そんなこんなで探索を進める内に──その機会は訪れた。


───────────────────

配信者名:オーマ=ヴィオレット

レベル:測定不能

所属国籍:日本

登録装備(3/15)

・ローレルレイピア

・ダイバードレス(UMIQLO)

・魔力式ランプ(ラフトクラフト)


ジョブ:■■ Lv21

習得技能/

・■■■■

・■■

・■■■■■

・ラッシュピアッサー

・■■■■■■■

・■■■

・チャージ

・■■■■

───────────────────


(レベルが上がって、読めないスキルが増えた! これでアレを解禁できる!)

「──お待たせしました! 新しいエンチャントスキルが発現してました!」

〔来たか!〕

〔次は何属性!?〕

「それは勿論……次の魔物でお披露目するまで秘密です!」

〔そんなー(´・ω・`)〕


 今回開放するエンチャントは犯人を炙り出す為に重要な属性だ。私の作戦にも組み込まれており、今回の探索で解放できるかは賭けでもあった。当然解放出来なかった場合の次善策も考えてはいたが、こうして解放出来た以上は遠慮なく使わせて貰うとしよう。


「──ウオオォォォォォォン!!」

「早速来ましたね!」

〔カモ来た!〕

〔轢けそう?〕

「轢きませんよ! まだ試し斬りもしてないんですから! ──【エンチャント・ヒート】、……フッ!」


 通路の奥から駆けて来るブラックウルフに対抗すべく、先ずは投げナイフを燭台にして視界を確保する。そして、ローレル・レイピアに左手を添え──


「──【エンチャント・ダーク】!」

〔\300 闇だーッ!!〕

〔\1,000 カッコイイ!〕

〔くっ……!左手に封じた中二心が疼く……ッ!〕

〔闇堕ち!?〕


 あれ? おかしいな、思ってた反応とちょっと違うような……?

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