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第23話 注目を浴びる令嬢

「──今日の探索はここまでにしましょう! 流石にスキル使ったり走ったりで、ちょっと疲れました……」

〔せやなw〕

〔ダイバーはレベルアップのおかげで身体能力が常人離れしてるって言っても流石にか〕

〔何時間走ったよw〕

〔もう4時間探索してんだよなぁ…〕


 あの後【チャージ】と【エンチャント・サンダー】の組み合わせスキルのおかげで、探索効率は飛躍的に向上した。特に通路でブラックウルフの遠吠えが聞こえる度に、部屋に戻らなくて良くなったのが大きい。

 しかし、それでも中層の入り口はまだ見つかっていない。


(思っていたよりも上層が広い……流石に長い間成長を続けたダンジョンなだけはあるな)


 ダンジョンが成長すると深度が深くなるのは勿論、それぞれのエリアも広く複雑になっていく。だから浅層よりも上層の方が探索に時間がかかるのはごく普通の事なのだが……それにしても広すぎる気がするんだよな。

 浅層の広さから考えれば、そろそろ全工程の半分程は踏破していてもおかしくない頃だと思うのだが……私の関知する魔力の感覚は、先がまだまだ長い事を告げている。


(……もしかして、道に迷っているのか? 魔力感知が出来る私が?)


 ダンジョンにおける魔力の流れは、ある種の川の様なものだ。最深部と言う水源から、地上と言う海に向かって魔力は流れている。だから遡上する鮭のように、その流れに逆らって行けば迷う事は無い筈なのだ。

 勿論、これだけ複雑な構造の迷路を一切迷わずゴールまで辿り着いてしまうと怪しまれそうなので、何度か意図的に道を間違えてはいるのだが……その辺で何かミスでもしていたのだろうか。

 取りあえず今日の探索はもう終わらせる予定なので、次回の告知とちょっとした雑談をして配信を終えるとしよう。


「取りあえず、明日も今日と同じ時間に上層の探索を再開します。しばらくは土日に探索配信をして、水曜日に雑談とかの配信をして行く予定です」

〔頑張ってるなぁ〕

〔土日のどっちかはゆっくり休んでも良いと思うけど…〕

〔学校とかもあるだろうしな〕


 やっぱり以前『俺』が言っていたように、土日のどちらかは休みを入れるのが普通なのだろう。実際、今の私の外見年齢を考えれば土日はゲームしたり、友達と遊んだりと言うのが一般的な子供の姿だと思う。


(だけど、私としては寧ろ土日に重点的に予定を入れておきたいんだよな……)


 私にとってダンジョン探索は娯楽の一つ……とまではいわないが、少なくとも苦ではない。

 寧ろ平日に配信するとなると、私の外見が義務教育を受ける年齢にしか見えない関係で配信開始は16時以降でなければ不自然だ。そして、夕飯や門限等の事を考えると探索に充てられる時間はどうしても短くなる。つまり収入が減り、自由に使えるお金も少なくなってしまう訳だ。

 だからこうして土日にがっつり探索してお金を稼いで、平日にそのお金を使って思いっ切り羽を伸ばすと言うのが理想なのだ。一般的な子供たちとは休日と平日が逆なんだよな、私の場合。……まぁ、それをそのまま伝える訳にも行かないので、ここは適当に誤魔化しておくとしよう。


「土日に探索する理由は……その、休日の方がいっぱいリスナーさんが来てくれるので……」

〔かわいい〕

〔確かに平日だとアーカイブ見るしかないな…〕

〔収益化できる事を考えると確かにその方が良いのかも〕

〔そう言えばもうヴィオレットちゃん収益化の申請出せるのか。早いな…〕

〔デビュー二日で浅層突破してたからな。イレギュラーケースまであったのに…〕


 収益化の申請条件はチャンネル登録者1,000人以上である事と、上層で一度でも配信する事の二つだ。

 【エンチャント】系の魔法とスキルを組み合わせた戦い方が拡散され、順調に知名度を上げて来た今の私のチャンネル登録者数は既に10,000人の大台を超えていた。

 特に影響が大きかったのは前回のゴブリンコマンダーの単騎討伐だったので、あれだけ大立ち回りを演じた甲斐もあったと言う物だろう。

 そして話の流れは収益化についてに変わり、コメントに助けて貰いながらその場で収益化の申請を行う事になった。


「──送信っと。えっと……これで、一応申請は出来たんですよね?」

〔バッチリ。後はダイバー協会が申請を受理したら、俺等もプレチャ投げられるようになる〕

〔条件を満たしているかとか、不正が無いかとかの精査に少し日数かかるから、明日の配信には間に合わないと思うけどね〕

「なるほど……いろいろと教えてくれて、ありがとうございます!」


 感謝の念も込めてペコリとお辞儀をすると、コメントの雰囲気が少し変わった。一体どうしたんだろうかと、コメントを見て見ると……


〔ヴィオレットちゃんって時々お嬢様っぽくなるよな〕

〔いうて最初はカーテシーとかちゃんとしてたぞ。ガチ令嬢かと思ったもん〕

〔そう言えばそうだったな…最近は脳筋なとこしか見てなかったから忘れてたわ〕

〔笑いながらブラックウルフ達を轢き殺していく姿はもう狂戦士の類だったねw〕

「失礼な!? どこからどう見てもちゃんと魔族令嬢でしょう!? ほら、カーテシー!!」

〔ほら、カーテシー!!は草〕

〔雑ぅ!!w〕

〔とってつけたようなカーテシーで草〕

〔令嬢=カーテシーって考えてそうなのかわいいw〕

〔やろうと思えば俺等も出来るからなカーテシー〕

〔変な対抗心燃やしてる奴おって草〕


 そんなこんなでリスナー達と少し楽しくやり取りをして、この日の配信は終了となった。






「──令嬢って何なんでしょうね?」

「どうした急に」


 帰宅後、『俺』にそう尋ねたところ、訝しげな眼で見られた。


「いえ、最近私に対するリスナーの認識が想像していた物と違う気がして……」

「あー……うん。そうだな……まぁ、キャラがブレるなんてダイバー業界じゃよくある事だから、気にするな」

「それは私も知ってますけど……」


 あからさまに視線を逸らしながらフォローになって無いフォローを口にする『俺』に対し、私は手に持っていた自身のスマホの画面を向ける。


「これは流石に酷いと思いませんか?」

「ん? 何が……ぶふっ……!」


『【切り抜き】脳筋令嬢「ほら、カーテシー!!」【オーマ=ヴィオレット】』

『元配信は↓のリンクから

 オーマ=ヴィオレットのチャンネル→【URL】

 切り抜き元配信→【URL】』

再生数:2,198回 / いいね!:293回

・コメント(89)

『おもしれー女』

『令嬢についての知識がカーテシーしかない女』

『ほら、カーテシー!!(迫真)』

『令嬢()』


「配信終了したのついさっきですよ!? 早すぎるでしょう!? 色々と!」


 ちょっと気になってエゴサしてみたらこのありさまだ。

 この短時間で切り抜いただけでなく、しっかりと編集までされてるとかどんな情熱を向けてるんだこの投稿者は。人の顔に集中線とか出すんじゃない。


「いや、これは……ふっ! ……ぶふっ!」

「一回堪えて結局吹き出してんじゃないですよ!?」

「だって……くっ! 再生数がどんどん回ってて……!」


 私自身『令嬢』と言う属性にそこまで拘っていた訳ではないが、流石に脳筋呼ばわりは簡単には受け入れられない物がある。

 だって千年間生きてるのだ。その果てが脳筋って……それは悲しすぎるだろう。


「はぁ……笑った。……で、どうするんだ? 削除の要請でもする気か?」

「いえ、そこまではするつもりは無いですけど……」

「なら良いんじゃないか? 『令嬢』なんて高嶺の花として扱われるより、『おもしれー女』くらい親しみやすい方が新規リスナーも取り込みやすいだろ。現にお前のチャンネル登録者数、今もちょっと増えてるし」

「そ……それはそうかも知れないですけど……」


 この動画が拡散されてる現状、私のイメージがどんどんクール系から離れていくんですが……


「それはまぁ、二回目の配信で崩れてたし今更だ」

「く……!」



「リーダー! こいつ! この女です!」

「ああん? オーマ=ヴィオレット? 確か、新ジョブがどうのって奴か」


 上層で見かけた要注意ダイバーとして、俺に攻撃しやがったあの女を報告する。これでフロントラインは次にあいつを標的に選ぶはずだ。

 最近随分調子に乗ってるようだし、この辺で一度痛い目見せて……


「はぁ……お前、もうちょっと良く観察しろよ」

「えっ」

「この女の装備……これは見るからにUMIQLOだ。新人ダイバーくらいしか世話にならねぇ耐久性の装備しか身に着けられねぇコイツが、中層に来れる訳ねぇだろ? 来るとしても、装備を整えた数年後だ」

「あ……いや、でもこの女は……!」


 鋭い指摘を受け、言葉に詰まる。だけど、俺の報告に嘘はないと断言できる。

 確かにこの女を報告したのは個人的な恨みもあるが、それ以上にコイツがそれだけの実力を備えているのも事実だ。

 俺は改めてその事を伝えようと口を開くが……


「良いか!? フロントラインはオメェのちっぽけな私情で動くクランじゃねぇんだ……そこの所、履き違えんな」

「ひっ……は、はい。すみませんでした、リーダー……」


 その剣幕に押されて、ついに口を噤んでしまった。

 随分と機嫌もそこねてしまったし、こうなっては俺の言葉にリーダーが耳を傾ける事も無いだろう。


「お前が個人的にそいつが気に入らねぇんなら、お前が自分でやるこった。俺等が居ねぇとこ(上層)でな」


 それを最後に、リーダーは腕輪の機能で中層から出て行った。


(くそ、どうしてこんな事に……!)

『ほら、カーテシー!!』

「うるせぇッ!!」


 スマホから聞こえて来たアイツの声に、思わず怒りの余りスマホを叩きつけて壊してしまった。


「俺に自分でやれだと……? 分かったよ、やってやろうじゃねぇか……」


 覚悟してろよ、オーマ=ヴィオレット……!


 

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