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軍隊蟻の暴走

今月1話目となります。

各国と歩調を合わせる日本と、蟻皇国の未来は……

――西暦1749年 12月21日 シンドヴァン共同体 首都レバダット 某企業ホテル会議場

 ここでは、日本を始めとする西側の友好国が一堂に会していた。今となってはここにガネーシェード神国の代表も含まれている。

 各国もガネーシェード神国が先史文明の遺産を守る守護者として残虐にならざるを得なかった種族であると聞かされた時は、最初こそ眉唾物のような態度をとったものの、日本が神国及びオーストラリア大陸のバルバラッサ帝国で発見した『日本を上回る超技術の数々』を目の当たりにさせられたことで考えを一変させていた。

 そして、各国ともにガネーシェード神国に対する認識を改めると同時に、これからの交流において、アラクネ族が絶えないような交流を進めていこうという話にまでなった。

 今やガネーシェード神国の有識者(つまりヘンブのように先史文明遺産の管理に携わっていた存在)は、国際的にも重要な地位を占めるに至っている。

 今や日本を中心に、世界のほとんどの国が参加していることから『世界連合』と呼称されつつある。

 だが、今回はワスパニート王国と蟻皇国の領海侵犯問題だ。

 相手が世界でもトップレベルの国力を誇る蟻皇国の話と言うだけあって、出席者たちも緊張に満ちた顔をしている。

 代表ということで、日本の外務省から派遣されてきた浅岡健司外交官が、防衛省の補足を得ながら説明を始めていた。

「え~本日はお忙しい中、皆さんお集まりいただいてありがとうございます。当会議を仕切らせていただくことになりました、日本国外務省所属の外交官、浅岡健司と申します」

 律儀な挨拶から始める日本人を見た一同は、まだ慣れていないワスパニート王国人を除いて皆ホッとする。

「当案件、『フィリップ島領海侵犯事件』における報告及び音声記録によれば、ワスパニート王国領土であるフィリップ島の沿岸警備及び哨戒を行なっていたフリゲート『ユキカゼ』は領海侵犯を行う蟻皇国籍の駆逐艦3隻を発見し、これを臨検しようとしました。しかし、当該駆逐艦は臨検要請にこたえることなく、主砲を発砲してきたそうです」

 彼らは『ユキカゼ』のスペックデータと蟻皇国の3隻2種類の駆逐艦に関する資料を読み、思わず息をのんだ。

 排水量こそ2000t近い『ユキカゼ』の方が上だが、砲撃力という意味では間違いなく蟻皇国の駆逐艦の方が上だったからである。

 グランドラゴ王国やアヌビシャス神王国、それに蟻皇国との紛争を経験したことのあるスペルニーノ王国、イタリシア王国の代表が渋い顔をしている。

 お忘れの人がいるかもしれないが、その際にスペルニーノ・イタリシアは木造の戦列艦と有翼人の空挺部隊で蟻皇国の砲艦を中心とした艦隊を追い返したことがあるのだ。

「『ユキカゼ』は正当防衛のために発砲し、駆逐艦3隻の艦橋及び機関部を狙い撃つことで指揮系統を崩し混乱状態を引き起こしました。さらに速度が落ちたところで相手の主砲にも攻撃を加えることで反撃の手段を封じ、ついには停止させることに成功したそうです」

「おぉ……」

「日本の兵器を供与されたとはいえ、よくやったものだな」

 フランシェスカ共和国の代表と、オーストラリアのエルメリス王国の代表が感嘆の声を上げた。

「『ユキカゼ』も装甲部分に多少の攻撃を受けたそうですが、幸いなことに怪我人は出ておらず損害も軽微でした。蟻皇国駆逐艦3隻は拿捕され、既にワスパニート王国による取り調べを受けているとのことです。それでは、ワスパニート王国のご説明をお願いします」

 浅岡の言葉を受けて、ワスパニート王国の女性外交官、ミャルノンが立ち上がった。

「ワスパニート王国のミャルノンです。蟻皇国の軍人たちは一様に何が目的かを黙秘していますが、駆逐艦内部の調査の結果、測量器具や多数のカメラの類が見つかりました」

 明らかに偵察を目的としている装備である。

 測量艦でなく駆逐艦を派遣したのは、その快速を以て万が一見つかっても逃げられるようにという配慮だったのではないかと考える者も多かった。

 アヌビシャス神王国から派遣されてきたグリュッルスが手を挙げる。

「では、蟻皇国の外交部からはなんと?」

 蟻皇国とイエティスク帝国、そして帝国の属国であるフィンウェデン海王国は未だにコンタクトをとっていないこともあって、日本を中心としたこの世界連合には参加していないので、情報はどうしても限られる。

 両国とも日本の国内には存在していない蟻人族とオーガ族、そしてミノタウロス族であるためか、潜入調査もさせることができず、繋がりのあるシンドヴァンを通じてのみの情報しか入ってこない。

 特にイエティスク帝国は東地方の開拓と制圧に忙しいらしく、このところ情報統制でもしているのか、ほとんど接触がないとシンドヴァンの関係者はボヤいている。

 そんな色々な重責を押し付けられているシンドヴァンのギルドマスターにして会議代表の1人、ウィーペラも憔悴した表情を見せている。

「蟻皇国は発言できないの一点張りで……少なくとも、ワスパニート王国に対して謝罪する気は全くないということだけはわかりました」

 その言葉に、各国の人々が皆苦い顔をする。

 蟻皇国の『蟻人族最優秀主義』、旧世界で言う中国の中華思想に近い考え方は、協調性の高い国もそうでない国も含めてかなり辟易していた。

 イエティスク帝国もそうだが、彼らは先史文明の遺跡を抱え込んでいるという自負からか、非常にプライドが高い。

 それもあって、他国との交易や交流の際も非常に高圧的なのだ。

 もっとも、交流そのものがほとんど存在しないイエティスク帝国よりはマシといえばマシなのだが、実際相対する人はそうもいかない。

「では、どうなるでしょうか?」

 今度は浅岡が防衛省の職員に頷いて立たせる。

「失礼します。日本国防衛省の床延と申します。我が国の偵察衛星による情報なのですが、蟻皇国は既に大型の戦艦8隻、旧型と思しき……皆様にわかりやすく言えば、グランドラゴ王国がかつて運用していた『クォーツ』並みの能力を持つ中型戦艦が10隻近く、そして他にも巡洋艦及び空母などの艦隊を南部海岸に集結させています」

 それを聞けば、その場にいた面々はこの後なにが起こるのかという想像がついてしまった。

「恐らく、今回の攻撃で拿捕された駆逐艦を取り戻すのか、ヤケになってフィリップ島を実効支配しようとしているかのどちらかでしょうね」

「日本国の情報は伝わっていないのでしょうか? 日本国の本によれば、戦艦、戦車、戦闘機、どれをとっても蟻皇国は象にあしらわれる子犬程度でしかないというのに」

 床延も苦笑しながら続ける。

「蟻皇国とは交流がありませんので、シンドヴァンを通じて幾つか情報を送っているのですが……どうも、皇国上層部はうまく認識できていないようですね」

 実はこれは正確ではない。蟻皇国の上層部、それも皇帝と宰相を含めた一部の者たちは『日本侮るべからず』と考えてさらなる情報の収集を考えていたのだが、そんな暇もなく偶発的にワスパニート王国と衝突してしまった。

 その結果軍部が暴走を始めており、『電撃的にフィリップ島を占拠し、内外に実効支配を宣言しうやむやにするしかない』という意見が頑迷な陸軍のみならず、駆逐艦を拿捕されたということで割と理性的な海軍、空軍までもが暴走していたのだ。

 皇帝及び宰相はもちろん、軍務大臣ですらこのことは知らず、『全て平穏無事』と嘘を聞かされているという状態であった。

 どこぞの島国の戦争末期よりもある意味ひどい。

「だとすると、自衛隊を派遣するにしても蟻皇国に対して軍事行動を遅らせる要因が必要ですね」

 床延の言葉に、各国は頭を抱えてしまう。

 どの国の装備よりも日本が一番優れているが、どの国よりも離れているのが日本なのだ。

 今までの戦争と比較しても数千kmは違う。

 ガネーシェード神国との戦いの際はシンドヴァン共同体の西部に港湾基地を、それに共同体内部の空港も利用して神国との戦いに集中できたが、今回はさらに距離が離れている。

「どうします?」

 スペルニーノ王国の外交官の発言に、その場にいた面々が頭を抱えた。

 すると、グランドラゴ王国が手を挙げた。

「でしたら、シンドヴァンを通じて蟻皇国に対して『貴国が戦争用意をしていることは承知している。条約締結国を攻めようというのであれば、安全保障条約を結んでいる3国(この場合はグランドラゴ王国、アヌビシャス神王国、そして日本)が黙っていない』と外交部に通達させ、皇国上層部を揺さぶりたいと思います」

 現在のグランドラゴ王国は、旧世界基準で大和型戦艦に匹敵する強さの戦艦を2隻、『信濃』型航空母艦に匹敵する空母を1隻、そして旧世界の『エセックス』型航空母艦を参考に建造した『プラチナ級』空母が2隻存在する。

 さらに日本から得た軍事書籍を参考に様々な国のいいとこ取りの軍艦を建造していた。

 例えば、軽巡洋艦としてはアメリカの『アトランタ』級巡洋艦に近いものを、駆逐艦には日本の『秋月』型駆逐艦を参考にしたものを建造している。

 重巡洋艦を建造しなかったのは、『今後が航空機とミサイルの時代になるので、対空能力の高い船を中心にしたい』という王国の考え方であった。

 以前にも語った通り、既にグランドラゴ王国では日本からの技術供与と共にジェット機の研究も進められており、既に試験機だが、『デ・ハビランド ヴァンパイア』に酷似したジェット試験機を製造していた。

 輸送艦として戦車揚陸艦と強襲揚陸艦も既に設計から建造を始めており、未だに産業界が忙しすぎてピーピー言っている日本が驚くほどの勢いである。

 もっともこれはアヌビシャス神王国も同様で、日本から購入した中古の貨物船やタンカーを改装して兵員輸送船や物資輸送船とする、甲板を設置して『ヒルンドー』が飛行できる空母とするなどの軍事改革を行なっている。

 また、フランシェスカ共和国が軍拡を行う際に『デセルタ』級戦車(アヌビシャス神王国版Ⅲ号戦車)と『コルリス』型突撃砲(アヌビシャス神王国版Ⅲ突)を10両ずつ導入し、さらに日本からも89式小銃などの銃火器を導入して陸軍の拡大を図っていた。

 航空戦力に関してはグランドラゴ王国に協力を仰ぎ、『ファルコン』戦闘機のノックダウン生産を行なっている。

 今やフランシェスカ共和国も、火薬と無縁ではいられなくなったのだ。

 閑話休題。

「そんな各国が一斉に蟻皇国に対して『喧嘩吹っ掛けるならこっちもやったるよ?』と脅しをかければ、少しは軍事行動に歯止めをかけることができると思います。特に、我が王国とアヌビシャス神王国が近年目覚ましく発展しているのは彼らも知っているでしょうし」

 グランドラゴ王国の外交官の発言に、『一理ある』と日本側も考えた。

「我が国のことは蟻皇国もよく知らないでしょうが、グランドラゴ王国が強い発言をしてくれれば、彼らも少しは怯まざるを得ないでしょうね」

 実際、日本国はこの世界でも新参者なので国際的な影響力は(知らない国にとっては、という言葉が付くが)ないに等しい。

 だが、グランドラゴ王国は世界2位と言われる実力を有する(今の状態でも、局地戦なら十分イエティスク帝国にも立ち回れるので実質的に2位)ので、その発言力は伊達ではない。

 まとめるように浅岡が手を叩いた。

「では、蟻皇国にはシンドヴァンを通じてグランドラゴ王国、アヌビシャス神王国、日本国、スペルニーノ王国、イタリシア王国、フランシェスカ共和国、ニュートリーヌ皇国、ガネーシェード神国から連名で書簡を送ることにしましょうか」

 その場にいた全員が『異議なし』と発言したことで、この会議は終了する。ちなみに、エルメリス王国とバルバラッサ帝国が含まれていないのは、単に蟻皇国が認識もしていないからである。

 日本と関係のある国はほとんどが連名して皇国に抗議することが決定したため、文書もただでは済まない。

 その影響力は、イエティスク帝国ですら無視できない物となるであろう。

 そして、ここから『も』重要であった。

「さて、それでは日本の『絶滅グルメ』を味わうとしますか」

「ワスパニート人では私が初めて食することになりそうですが……とても楽しみです」

「はっはっは。日本の料理は絶品ですぞ」

 ……たとえ緊張状態にあろうとも、『腹が減っては戦ができぬ』のだ。

 しかも、今回は三畳紀、ジュラ紀、白亜紀に生息していた生物ごとに編成したコース料理である……日本のやり方がおかしいと思った人、挙手。



――西暦1749年 12月28日 蟻皇国 首都南京 塚ノ城

 ここ、蟻皇国の首都南京は史実で言うところの香港に属しており、沿岸に首都を構える国家であった。

 蟻皇国の皇帝、蟻徳洪は書状を見てわなわなと震えていた。

「なんだこれは‼ 軍部が独断で海軍を集結させてワスパニート王国のフィリップ島へ攻め込もうとしているなど、余も聞いていないぞ‼」

 宰相の孟徳康も冷や汗を流している。

「まさか軍部がこれほど南部攻略を焦っているとは……駆逐艦3隻が拿捕されたというのがよほど痛かったのでしょうな」

 そしてもう1人、軍務大臣の甲候宗という男が憤懣やるかたないと言わんばかりの顔で立っている。

「陛下、誠に申し訳ございません! この甲が付いていながら、軍部の暴走に全く気付けず……かくなる上は、責任を取るという意味でもいっそこのままワスパニート王国へ……」

 だが、蟻徳洪は慌てて彼を引き留めた。

「待て待て。お主の責任を取らんとする気持ちもわからんではないが、世界各国がこれほどまでに強気で署名を出してくるという辺り、やはりなにかがあるのかもしれん」

「と、おっしゃいますと?」

 蟻徳洪は厳しい表情を崩さない。彼個人は元々過激な思考の多い蟻人族としては慎重派と言われるだけあって、今回の対応はかなり気になるようだ。

「やはり気になるのは日本国だ。日本国が来るまでは、グランドラゴ王国を除けばどの国も大したことのない力しか持っていなかった。それが、まるで古代文明の遺産を解読できたかのようにすさまじい発展を遂げているという」

「それは……確かに」

「それにだ。これまで我が国と比較して数十年ほどの文明差があったはずのワスパニート王国が、単艦で我が国の駆逐艦を3隻も戦闘不能にして拿捕したという。しかも、その砲撃は正確で艦橋、機関部、さらに砲塔にまで命中させて継戦能力を奪ったそうだ。ワスパニート王国は最近、どこと国交を結んだ?」

 孟徳康も甲候宗も、ハッとした表情を見せた。

「日本国……」

「そうだ。いつの間にかあのような国が現れたというのは不思議で仕方がないが、日本と国交を結んでからワスパニートは大きく変わった。わずかな時間で、我が国の艦船を無力化して捕らえるということをやってのけたのだ。下手に撃沈するよりも難しいぞ」

 実際、日本は哨戒行為と船舶の拿捕を目的としていることから砲塔を転用した52口径105mmライフル砲を輸出したわけだが、その主砲の正確さと射撃管制システムのおかげで、ワスパニート王国はそれまでであれば不可能だっただろう格上の軍艦を拿捕できたのだ。

「確かに……今までの王国では考えられませんな」

「だろう? 故に余は、しばらく情報の精査に乗り出すべきと判断した。正確な情報はなによりも大事だ。そのためならば、ワスパニート王国に謝罪して駆逐艦を返してもらい、情報を集める時間を稼ぐ必要がある」

「陛下……」

「そこまでお考えでしたか」

 過激思想の多い国であれば、これだけで『弱腰な頂点など必要ない!』と言うことになる上層部も多いのだが、少なくともこの2人に関しては違った。

 理性的かつ、相手の情報を集めることの重要性に関しては、この蟻徳洪はよく理解していた。

「あと気になるのは、あの他国と一切交流してこなかったガネーシェード神国までもがここに名を連ねているということだ。あの国の排他性は尋常でなかった。それが、日本国が連名するこの書簡には載っている」

「た、確かに」

「仰る通りですな」

 そもそも、蟻皇国自体が先史文明の情報解析で成り上がった国なのだからと考えれば、ある意味当然である。

「陛下がそこまでお考えとは……」

「陛下の深きお考え、理解できぬこの身を恥じるばかりでございます」

 2人は改めて頭を下げた。

「うむ。わかってくれたならばよい。とにもかくにも、まずは情報収集だ。我が国は日本国の詳細な情報をほとんど知らん。そもそも思ったのだが、戦車砲の口径が100mmを超えているならば、逆に艦砲が130mm前後と貧弱なのもなにか深い理由があるのかもしれん」

 以前は『海軍ならば勝てるかも』と高を括っていたのだが、ここにきてその考えを改めつつある蟻徳洪であった。

 これを見てわかると思うが、彼は決して暗君ではない。

「畏まりました」

「外交部にはすぐに謝罪の文書を送るよう指示しましょう。軍部の暴走した人員の処分に関しましても……」

 だがこの時、部屋の入り口近くにあるカーテンがわずかに揺れたことに、ここにいる3人は気付かなかった。



 それから30分後、蟻皇国海軍の施設で、一部の若手将校たちが集まっていた。

「大変だ! 皇帝陛下が俺たちを処罰するつもりらしいぞ‼」

 他の若手将校たちもその言葉を聞いてざわめきを見せた。

「ど、どういうことだ‼」

「我らは皇国のために日々粉骨砕身しているというのに!」

 駆け込んできた若手将校は手で仲間を制すると、声を潜めて話を続ける。

「我が軍がワスパニートのフィリップ島を制するべく、駆逐艦3隻を送り込んだだろう? そしてなぜかワスパニートに敗れ、拿捕された」

「あぁ」

「全く理解できない話だったが」

 海軍の将校たちが頷いたのを見ると、さらに続けた。

「どうやら、グランドラゴ王国を始めとする諸国から書簡が届き、陛下と宰相はもちろんのことだが、軍務大臣までもが弱腰になってしまったらしい」

「なんだとぉ!?」

「世界を統べるべき茶蟻族の末裔が、そのような弱腰なのか‼」

 またも喧々囂々と言わんばかりの雰囲気となるが、飛び込んできた若手将校が手を上げるとまたも収まった。

 どうやら、彼がこの場でまとめ役となるほどの力を持っているらしい。

「話には続きがある。どうやらその書簡の中には、我らを打ち負かしたことのあるスペルニーノ・イタリシアに加えて、なぜかガネーシェード神国の名前まであったらしい」

 この一言は相当に衝撃だったらしく、それまでとは打って変わって静まり返ってしまった。

「ま、まさか……?」

「あの、あのガネーシェード神国だと?」

 彼らとて、陸軍がどれほどガネーシェード神国に辛酸を舐めさせられたかは知っている。

 日頃はあまり仲が良くないと称される陸海軍だが、ことガネーシェード神国に関してはお互いに『やな奴らと当たるよなぁ』と慰め合うほど、と言えばその厄介さが知れる。

 日本が解明した磁場発生器官に関しては、茶蟻族では完全に衰退していたこともあってその存在そのものが忘れ去られていた。

 そのため、未だに蟻皇国はガネーシェード神国に対する対抗策を見いだせずにいるのである。

 日本がシンドヴァン共同体に情報統制を依頼していることもあり、『北半球の磁力を用いて北半球で作られた鉄の兵器を弾き返す』という情報は、入っていないのだ。

「あのガネーシェード神国が……」

「あの人蜘蛛どもが他の国と協調するとは……何があった?」

 それまで勢いの良かった若手将校たちも、さすがに相手にしたくない、と大手を振って言える相手が署名で忠告してきたというのは効いたらしい。

 しかし、先ほどの将校はまたも手を突き出して制した。

「まぁまずは落ち着け。確かに、あのガネーシェード神国が敵に回っているのみならず、世界第2位のグランドラゴ王国も安全保障条約上の観点から必要とあれば派兵するとのことだが、あの国で脅威なのはワイバーンだ。我が国の剣魚よりもわずかに性能が上回っていることで不利な部分はあるが、奴らにはワイバーンを洋上で運用する技術がない。今や我が国には立派な空母が存在するため、たとえグランドラゴの戦艦が来たとしても、十分に優位性をとれるだろう」

 その場に居並ぶ将校たちから『おぉ‼』と歓声が上がった。

 ただし、これはグランドラゴ王国がイエティスク帝国並みか、一部はそれ以上にまで進化していることを知らないが故の無謀な発言である。

「さらに、他の国も数の暴力で押してきたとしてもさほど問題ではない弱小国がほとんど! そのような存在ばかりを相手に、陛下があのような弱腰を見せられるとは言語道断! 我ら軍部が率先して陛下に戦果をお届けし、かつての栄光を取り戻そうではないか‼」

「「「「おぉ‼」」」」

 彼らは決して皇帝を軽んじているわけではない。むしろ、敬愛しているからこそ過激な方向へ走りがちなのだ。

 え? どこぞの島国でも100年近く前に似たような話があったって?……はてさて、どこの島国のことやら……。

 それはさておき。

「我らは直ちに陸軍と交渉し、艦隊と揚陸部隊を以てワスパニート王国のフィリップ島を占拠する‼ 空軍も忘れるな‼ 彼らも栄えある蟻皇国軍の一員だ‼」

「「「「おぉ‼」」」」

 再び上がった声を筆頭に、海軍将校たちはそれぞれがするべきことのために動き始めた。

 それが、破滅を呼ぶ笛の音とも知らずに……。

このようなことになりました。

さて、皇国がどうなるのか……まだまだ続きます。

次回は26日か27日に投稿しようと思います。

なお、活動報告にまた新しい『お遊び』を投稿しました。

や、なんて言いますか……たまーにこういう遊びがしたくなるんですよね。

妄想って、素晴らしい(オイ)。

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